【2021/10/9(土)~10/15(金)】エリック・ロメール監督特集

パズー

東京では一年に一度はどこかでロメールの映画が上映されています。早稲田松竹でもこれまでに何度も特集をしてきました。わたしもはじめて出会ったロメールの映画は、2009年の春と秋にかけて早稲田松竹で上映した「四季の物語」(『春のソナタ』『夏物語』『恋の秋』『冬物語』)でした。それ以来すっかりロメール映画の魅力に心酔し、どこかで上映があるたびに、少しずつ作品を観続けてきました。

男女が出てきて、会話する。美しいバカンス地での恋のかけひき。ロメールの映画の多くはこのパターンです。ドラマティックな展開があるわけでもなく、難解なわけでもありません。登場人物はわずか、ついでにスタッフも少人数、すべてにおいてミニマムでシンプルなのです。それだけなのに、どれもものすごく面白いから不思議です。カリスマ性に溢れ常に挑戦的だったゴダール、シネフィル的な視点で多岐なジャンルを撮ったトリュフォー、傑作サスペンスを数多く遺したシャブロルなど、個性的な才能に溢れていたヌーヴェルヴァーグのなかで、それでもロメールは間違いなく、ヌーヴェルヴァーグの顔といえます。誰にでも作れそうだから、ロメールの映画作りを真似する人は数多いることでしょう。でも、真似しようとしても同じように面白くはなりません。シンプルななかに計算しつくされた設定や脚本があるのです。

ロメールの映画を観ているととても気分が良くなります。まずは会話の面白さ――女同士のおしゃべり、男同士の小競り合い、知的な台詞の応酬が心地よく響きます。それからほとんどが外のロケで撮影していること。鳥のさえずり、風に揺れる木々、ビーチのさざ波…そんな「生の音」が常に聞こえてきます。ロメールの映画ではいつでも季節を感じることができるのです。移ろう自然の風景のなかで恋や人生について思い悩んだりしている登場人物を観ていると、「あ、この映画のなかのできごとは、私の世界と同じところで起きているんだな」という気持ちになります。「女ってずるいなぁ」「男ってバカだなぁ」「それなのになんで人はまた恋をしてしまうのだろう」人のどうしようもない“さが”が、切なく、愛おしく、楽しくさせてくれます。

今回当館で上映するのは、「六つの教訓話」シリーズと長編デビュー作という初期の作品です。その後撮られる『海辺のポーリーヌ』『緑の光線』など80年代に作られた代表作よりも10~20年くらい前の作品群ですが、すでにロメールの映画哲学が確立されています。60~70年代に作られたとは思えない、瑞々しくて古さを全く感じさせない恋愛劇に驚くはず。なぜロメールの映画がいつまでも色褪せず、新たなファンを獲得し続けているのか、この初期シリーズを観たらわかる気がします。

余談ですが、私はロメールの映画をいっぺんに観てしまうのがもったいなくて、いまだに全作品は観ていません。まだ観ていないロメールの映画があることが、なんとなくこれからの楽しみでもあります。今回の当館での上映も、短編を入れると7本ありますが、必ずしも全部観て! というわけではなく、気になった作品を観てみる、でも良いと思います。そうして少しずつロメール映画にハマっていっていただけたら嬉しいです。

クレールの膝
Claire’s Knee

エリック・ロメール監督作品/1970年/フランス/106分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ネストール・アルメンドロス

■出演 ジャン=クロード・ブリアリ/オーロラ・コルニュ/ベアトリス・ロマン

■ルイ・デリュック賞/サン・セバスチャン国際映画祭グランプリ/全米批評家協会賞作品賞

©1970 Les Films du Losange
©Eric Rohmer/LES FILMS DU LOSANGE

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

別荘を売却するため避暑地アヌシーに赴いた外交官のジェロームは、旧友の作家オーロラと再会。オーロラの口車に載って、ローラとクレールという美しい姉妹を誘惑することになるジェロームだったが…。

結婚を間近に控えたもう若くはない男が10代の少女の膝に執心するという一見不道徳な物語だが、あふれ出るユーモアとあっけらかんとした官能性が絶妙なバランスで均衡するロメール美学の白眉。 【六つの教訓話<第五話>】

モード家の一夜
My Night at Maud’s

エリック・ロメール監督作品/1969年/フランス/111分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ネストール・アルメンドロス

■出演 ジャン・ルイ=トランティニャン/フランソワーズ・ファビアン/マリ=クリスティーヌ・バロー

■全米批評家協会賞脚本賞/NY批評家協会賞脚本賞

©1968 Les Films du Losange

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

技術者の”私”は、久々に再会した旧友とともに女医モードの家を訪れる。互いに惹かれ合うも、敬虔なカトリック信者で堅物の”私”と無神論者のモードの恋愛観はかみ合わず、奇妙な一夜を過ごすはめに。

アメリカでも高く評価されて全米映画批評家協会賞などで脚本賞を得た秀逸な会話劇。トランティニャンのスケジュールの都合で完成が遅れたが、シリーズ三作目にあたる。 【六つの教訓話 <第三話>】

【特別レイトショー】愛の昼下がり
【Late Show】Love in the Afternoon

エリック・ロメール監督作品/1972年/フランス/98分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ネストール・アルメンドロス

■出演 ベルナール・ヴェルレー/ズズ/フランスワーズ・ヴェルレー

©1972 Les Films du Losange

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

パリに事務所を持つフレデリックは妊娠中の妻と娘と郊外で暮らす。生活に不満があるわけではないが、どこか満たされない日々。そんなとき友人の元恋人クロエと再会。その日からクロエはフレデリックの元を頻繁に訪れるようになり、彼もまたクロエの魅力に抗えず彼女との関係を夢想する。

初めて既婚男性が主人公のシリーズ最終作。過去作6人のヒロインたちがフレデリックの白昼夢に特別出演している。 【六つの教訓話<第六話>】

獅子座
Sign of the Lion

エリック・ロメール監督作品/1959年/フランス/103分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ニコラ・エイエ

■出演 ジェス・ハーン/ヴァン・ドード/ミシェル・ジラルドン

© 1965 Les Films du Losange

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

叔母の莫大な遺産を相続することになった”自称”作曲家のピエール。派手なパーティを開いたはいいものの、遺産はすべて彼の従兄に行くことが発覚。金の無心をしたくても友人たちはバカンスのため不在。一文無しになったピエールはパリの街をあてもなく彷徨う。

ロメールの長編デビュー作にしてヌーヴェルバーグ初期の代表作。クロード・シャブロルがプロデューサーを買って出て、自身の監督作『美しきセルジュ』(1958)で稼いだ資金を投入したが、興行的には失敗に終わった。

モンソーのパン屋の女の子 + シュザンヌの生き方
The Bakery Girl of Monceau + Suzanne’s Career

エリック・ロメール監督作品/1962年・1963年/計78分/フランス/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール

「モンソーのパン屋の女の子」(23分)
■撮影 ジャン=ミシェル・ムリス/ブリュノ・バルべ
■製作・出演 バーベット・シュローダー

「シュザンヌの生き方」(55分)
■撮影 ダニエル・ラカンブル
■出演 カトリーヌ・セー/フィリップ・ブゼン/クリスチャン・シャリエール

©1962 Les Films du Losange
©1963 Les Films du Losange

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

「モンソーのパン屋の女の子」

学生の”私”は街でよく見かける美しい女性、シルヴィーに恋をする。友人にそそのかされその気になった”私”は思い切って声をかけるが、その日から一切彼女の姿を見なくなってしまった。シルヴィーを探し求めて彷徨う”私”は、パン屋で働く女の子と仲良くなって…。

<六つの教訓話>シリーズの第一作にあたる短編。盟友シュローダーが製作と主演を兼ねているが、”私”のモノローグはベルトラン・ダヴェルニエが担当。【六つの教訓話<第一話>】

「シュザンヌの生き方」

真面目な薬学部1年生のベルトランにとって、気ままに生きる悪友ギョームは憧れの対象。そんなギョームが付き合い始めたのは、夜学に通う平凡な容姿のシュザンヌ。彼氏に尽くすシュザンヌに憐れみを感じていたベルトランだったが、やがて別れたシュザンヌはベルトランに接近、いろいろと世話を焼くようになる。

切なくも残酷な青春の一コマ、低予算で製作されながらも、その後のロメールの作風を決定づける重要な中編。 【六つの教訓話<第二話>】

【特別レイトショー】コレクションする女
【Late Show】The Collector

エリック・ロメール監督作品/1967年/フランス/87分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ネストール・アルメンドロス

■出演 パトリック・ボーショー/アイデ・ポリトフ/ダニエル・ポムルール

■ベルリン国際映画祭銀熊賞

©1966 Les Films du Losange

【2021年10月9日から10月15日まで上映】

画廊のオープンを控えたアドリアンは、恋人からの誘いを断り商談のためサントロペへ。友人の別荘に滞在する彼は、そこで美しい少女アイデに出逢う。コレクションのように次々と男を引っかけるアイデに苛立ちながらも惹かれるアドリアン。南仏の色鮮やかな風景のもと、自由奔放な少女に振り回される男たちの姿がおかしみを誘う。撮影監督アルメンドロスがはじめて手掛けた35㎜カラー長編。 【六つの教訓話<第四話>】