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エリック・ロメール

1920年生まれ。教師、小説家を経て映画批評を書くようになり、1950年、ジャック・リヴェット、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーらと共に「カイエ・デュ・シネマ」誌の創刊に参加。後に約7年間編集長を務めた。

1959年に初の長編『獅子座』を監督。作家主義を貫く作風はヌーヴェルヴァーグの支柱であった。2001年、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・特別功労賞を受賞。

2010年1月10日、パリにて死去。享年89歳。2007年の『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』が遺作となる。

フィルモグラフィ

・男の子の名前はみんなパトリックっていうの(1959)*未公開/脚本のみ
・獅子座(1959)
・モンソーのパン屋の女の子(1963)*未公開
・シュザンヌの生き方(1963)*未公開
・パリところどころ(1965)
・コレクションする女(1967)*未公開
・モード家の一夜(1968)
・クレールの膝(1970)
・愛の昼下がり(1972)
・O侯爵夫人(1975)
・聖杯伝説(1978)*未公開
・飛行士の妻(1980)
・美しき結婚(1981)
・海辺のポーリーヌ(1983)
・満月の夜(1984)
・緑の光線(1985)
・レネットとミラベル/四つの冒険(1986)
・友だちの恋人(1987)
春のソナタ(1989)
冬物語(1991)
・木と市長と文化会館/または七つの偶然(1992)
・パリのランデブー(1994)
夏物語(1996)
恋の秋(1998)
・グレースと公爵(2001)
・三重スパイ(2003)
・我が至上の愛〜アストレとセラドン〜(2007)

エリック・ロメールが撮り続けた恋愛喜劇。
彼の映画を観ていると、人生ってなかなかうまくいかないなぁ、といつもそんなことを思う。

志は高くとも、感情が折り合わずに矛盾を抱え、結果的に自分本位になってしまう。
そして理想より現実が先立ち、愛も恋もうまく立ち行かない。
その姿に今の自分を重ねて思わず苦笑いする人や、昔は私もこうだった、
なんて感じる人もいるのではないでしょうか。

今週はエリック・ロメール監督特集。
今回上映するのは<喜劇と格言劇>シリーズから4作品。<六つの教訓話>シリーズと<四季の物語>シリーズに挟まれたロメール中期の名編たち。

この<喜劇と格言劇>に特徴的なのは、若さと理想に燃える男女。
恋やライフスタイル、それに将来のこと…。さまざまなこだわりを持ち、
その夢が現実とぶつかることで、思い悩む姿が深く印象的だ。

  “ロメールは、常に彼よりも若い人々に取り囲まれて仕事をしてきた”

新たな映画の潮流の下地を準備することになる映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」。その創刊に参加したとき、トリュフォーやゴダール、リヴェットら、20代になるかならないかのヌーヴェル・ヴァーグの他の面々とは違い、まもなく30歳に差しかかろうとしていたロメール。30年代B級アメリカ映画の上映会を開き、批評の面でもヒッチコックやホークスの作家性を見出だし、映画作りにもいち早く乗り出したロメールはヌーベル・ヴァーグの長兄的存在だった。

そしてロメールは“先生”でもあったのだ。
(弟のルネ・シェレールもパリ第8大学でドゥルーズらと共に教壇に立った教師だった)
若く意欲に満ちた生徒たちとの交流が、適確な観察眼でもって、あの瑞々しい映像と会話劇を生んだ。彼の周りには未熟で、夢ばかり大きくて、失敗を繰り返す若者たちがいた。それでも前を向く若者たちが。ロメールは何よりも“若さ”を愛した人だった。

『緑の光線』のデルフィーヌのこんな台詞が印象的だ。

「私は頑固じゃないわ。頑固なのは人生の方よ」

そう、人生ってとっても頑固だ。一人の人間には身に余りすぎる。
どんなに思い悩み、努力したところで、変わらぬものが確かにある。
だがロメールは、もう行き詰りだ、と思われる場所で大胆に“偶然”を取り入れる。

その偶然によって、涙しながらも前に進む者がいて、あるいは思いもよらぬ幸福を手に入れる者もいる。いずれの結末にせよ、その結末を手に入れた主役たちを誇らしく思ってしまう。だって、その目は絶えず未来を見つめているのだから。

人生って、なかなか素敵だ。
エリック・ロメールの映画を観て、何度もそう思う。

(ミスター)


満月の夜
Les nuits de la pleine lune
(1984年 フランス 102分 SD/MONO) 2013年2月9日から2月11日まで上映 ■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 レナート・ベルタ/ジャン=ポール・トライユ/ジル・アノー
■音楽 エリ&ジャクノ
■装飾 パスカル・オジェ

■出演 パスカル・オジェ/チェキー・カリョ/ファブリス・ルキーニ/クリスチャン・ヴァディム/ラズロ・サボ

■ヴェネチア国際映画祭主演女優賞受賞

★3日間上映です。

“2人の女を持つ者は魂を失い、 2軒の家を持つ者は理性を失う”

ルイーズは、いつも恋してる。でも、ひとりの相手にのめりこみ“愛されすぎること”に耐えられず、また別の恋をしてしまう。愛のない人生なんて考えたこともなく、そもそもひとりで暮らしたことなどない。

パリ郊外の家で、ルイーズはレミと同棲している。二人は愛しあっているが、性格は正反対。ルイーズは夜遊びが好きで朝寝坊なのに、レミは朝早くから起きてトレーニングに精を出す。レミは寛容な男としてルイーズのわがままを認めるが、ルイーズはレミに隠れて妻子持ちのオクターヴともつきあっていて…。

私のヒロインは安定を求めながら動き続ける
――エリック・ロメール

エリック・ロメールが感性豊かに描いた愛の映像。連作の<喜劇と格言劇シリーズ>第4作目にあたる。主演のパスカル・オジェは、『ラ・パロマ』等で知られる女優ビュル・オジェの娘。独特の魅力で将来を期待され、この作品で1984年ヴェネチア国際映画祭主演女優賞を受賞したが、同年、25歳で急逝した。本作では女優としてだけではなく美術担当としても活躍し、パリの部屋の装飾は完全に任されていたという。エリック・ロメールの代表作というだけでなく、パスカル・オジェの最高傑作でもある。


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緑の光線
Le Rayon Vert
(1986年 フランス 98分 SD/MONO) 2013年2月9日から2月11日まで上映 ■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 ソフィー・マンティニュー
■音楽 ジャン=ルイ・ヴァレロ

■出演 マリー・リヴィエール/リサ・エレディア/ヴァンサン・ゴーティエ/ベアトリス・ロマン

■ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・国際評論家賞受賞

★3日間上映です。

“胸熱き季節はついに来ぬものか”

夏休み。秘書をしているデルフィーヌは、ヴァカンスにギリシャ旅行を約束していた女友達から突然キャンセルされてしまう。ひどく落ち込んだデルフィーヌを友達のフランソワーズがシェルブールに誘ってくれた。だが、海へ行っても食事に行ってもどこか尻込みして楽しめないデルフィーヌは、周囲から孤立していく自分に悲しくなり、早々とパリに引き返す。今度は山に行くがここも寂しく、日帰りで帰ってきてしまった。

三度目はピアリッツの海へやってきた。友達が別荘を貸してくれたが、一人で過ごすだけの退屈な滞在。そんな時デルフィーヌは、ジュール・ヴェルヌの小説『緑の光線』の話を耳にする。太陽が沈む直後の瞬間に放つ緑色の輝きは幸運のしるしなのだという…。

デルフィーヌは私かもしれません。
――エリック・ロメール

1986年ヴェネチア国際映画祭でみごとグランプリに輝いた『緑の光線』は、あふれるばかりの陽光と若い女性達の生き生きとした会話で描くナイーブで至福に満ちた映画だ。どこにでもありそうな恋愛風俗を、磨き抜かれた台詞と凝視するかのようなカメラワークで描くロメール。<喜劇と格言劇シリーズ>の第5作目にあたる本作は、アルチュール・ランボーの後期の詩「最高の塔の歌」が引用されている。映画のタイトルは、ジューヌ・ヴェルヌの同名小説より。主人公デルフィーヌの夢見がちな性格や、運命の流れに身をゆだね自分に相応しい男性とめぐり会うという筋立てはこの小説からのものである。



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飛行士の妻
La femme de l'aviateur
(1980年 フランス 107分 SD/MONO) 2013年2月12日から2月15日まで上映 ■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 ベルナール・リュティック
■音楽 ジャン=ルイ・ヴァレロ

■出演 フィリップ・マルロー/マリー・リヴィエール/アンヌ=ロール・ムーリー/マチュー・カリエール/ロゼット/ファブリス・ルキーニ

★4日間上映です。

“人は何かを考えてしまう”

pic法学部の学生で夜間は郵便局で働くフランソワ。仕事帰りの早朝、年上の恋人・アンヌを訪ねると、彼女が元恋人であるパイロットの男と一緒にいるところを目撃してしまう。ずっと姿を消していた上に妻とよりを戻すと別れ話をされ面白くないアンヌだが、フランソワは知る由もない。アンヌと喧嘩したフランソワは偶然そのパイロットが他の女といるところを見つけ、尾行することにした。そこへ、自分をつけていると勘違いした女の子・リュシーが現れて…。

片思いの青年の恋の顛末を描く、
みずみずしい都会の恋愛喜劇

ヌーヴェルバーグの指導的立場にあったエリック・ロメールが、80年代に向けて放った新しい連作シリーズ<喜劇と格言劇シリーズ>の第1作目。街頭での16mm撮影というドキュメンタリー的手法を取り入れ、現場の生の音、生の光を記録することによって生まれる緊張感と、尾行、覗き見、思い違い、偶然の出会いなどヒッチコック的な要素をかけ合せたサスペンスが全篇にみなぎる。ラストシーンの挿入歌『パリは私を魅了した』を歌うのはアリエル・ドンバル。出演は当時パリ第三大学の学生だったフィリップ・マルロー、『緑の光線』のマリー・リヴィエール。


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友だちの恋人
L'ami de mon amie
(1987年 フランス 102分 SD/MONO) 2013年2月12日から2月15日まで上映 ■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 ベルナール・リュティック
■音楽 ジャン=ルイ・ヴァレロ

■出演 エマニュエル・ショーレ/ソフィー・ルノワール/アンヌ=ロール・ムーリー/エリック・ヴィラール/フランソワ=エリック・ジェンドロン

★4日間上映です。

“友だちの友だちは友だち”

パリ北西にある郊外の新都市セルジー=ポントワーズ。市の文化事業部に勤めるブランシュと、学生最後の夏休みを迎えたレアの二人は、たちまち意気投合した。レアは恋人のファビアンと一緒に住んでいるが、ファビアンの好きな水泳が嫌いだと言う。レアに水泳を教えることになったブランシュは、ある日プールでハンサムな青年に出会う。レアとファビアンの友人、アレクサンドルだ。たちまち恋におちるブランシュだが、恋に臆病な彼女は自分の感情を表に出すことができない。

いよいよヴァカンス。レアはファビアンに嘘をついて他の男たちと出かけてしまう。ひとり残されたファビアンは街で偶然ブランシュに出会い、彼女をウィンドサーフィンに誘う。ファビアンはブランシュに魅かれていくが、ブランシュはまだアレクサンドルのことが忘れられずにいた。

ヴァカンスの不安定な時を背景に、二組の男女の揺れる心理を描く
<喜劇と格言劇シリーズ>の第6作目

従来の<喜劇と格言劇シリーズ>では常に一人の女性を中心としてきたロメールだが、この作品ではブランシュとレアという二人の女性が登場する。さらに、その周囲にファビアンとアレクサンドルという二人の男性を配することで、常に、若い男女の出会いと恋愛を示してきた本シリーズに新しい可能性をもたらしている。交錯する物語、その様々な図式の変奏が、まるで万華鏡をのぞきこむときのように、見る者に楽しみとサスペンスを与えてくれる。







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