【2024/9/21(土)~9/27(金)】『パスト ライブス/再会』『異人たち』//  特別レイトショー『地球で最後のふたり』

もっさ

出会いや別れはもちろん、自分に降りかかるすべてのことに、何か意味があるのだと思うようになったのはいつからだろうか。“縁がある”――そう言えば、すべてのことが肯定される、魔法の言葉だ。

『パスト ライブス/再会』の監督セリーヌ・ソンは、主人公ノラに自身を投影している。この物語は「ニューヨークのバーで、子どもの頃に好きだった人と、一緒に暮らすアメリカ人の夫に挟まれバーで過ごす」という監督の実経験を描いたファーストシーンから始まる。ノラと同じく、韓国からニューヨークへ移住したソン監督。彼らに韓国語と英語を通訳しながら話した体験は特別だったと語る。本来なら出会うことのなかったふたりが、自分を通じて出会っていること、そして自分のために互いを知ろうと努力している姿に、特別なつながりを感じたのだという。

劇中、度々語られる“縁”(韓国語でイニョン:運命の意)。ノラは思いを寄せた初恋の相手ヘソンに、12年後には画面越しに、そしてついに24年後には実際に会うことになる。一方でその間に出会った夫アーサーとも確かな縁で結ばれている。それぞれ互いに想い合う気持ちが強いこともわかるから、恋心に揺れながらノラがどんな選択をするのか、映画を観ながら一緒に頭を悩ませてしまう。そもそも人生において正解なんてない。だから私たちはいつまでも、「もしもあの時…」を思いながら生きていくのだろう。

『異人たち』は当館でも1月に上映した大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(1988)の再映画化。原作は、「過去や未来ではなく、現在を書く」という信念を持っていた脚本家・山田太一が、唯一過去を、それも自身に重ねた過去を描いた私的な作品である。監督のアンドリュー・ヘイはこの原作を前に、彼と同じく自身と向き合うべきだと考えたという。

物語の大きな軸は亡き両親との再会と、同じマンションに住む女性との恋愛関係だが、ヘイ監督は自身がゲイであることを主人公アダムに投影し、その恋人を男性に変更。また、劇中で両親と暮らしていた家も自身が幼い頃に実際に住んでいた家で撮影し、とてもパーソナルな作品に仕上がっている。一緒にいられなかった時間を埋めるように両親に甘え、孤独を埋めるように恋人ハリーと過ごす。迷える魂との逢瀬に酔いしれるアダムだが、次第に葛藤を抱え生きてきた過去と現在の自分と向き合ってゆくことになる。

育った時代も国も違うヘイ監督の大胆な脚色を、山田太一は楽しみにしていたそうだ。劇場公開を待たずして亡くなってしまったが、生前に完成した作品を最後まで見届けたと、ご家族から伝えられたという。ヘイ監督は「直接話すことはなかったけれど、作品を通して山田氏とつながりを感じた」とインタビューで語っている。原作者への深い敬意と作品に込められた想いを受けとる姿勢はしっかりと映画に収められている。

『地球で最後のふたり』の主人公ケンジはタイで孤独に暮らす日本人。自殺願望があるケンジが橋から身を投げ出そうとしたとき、その目の前で事故に遭い妹を亡くしたタイ人のノラと出会う。ふたりの関係性は、その出会い方も相まって違和感だらけ。なのに、カタコトの日本語とタイ語、そして英語で交わす会話は、不自然なようでいて自然に、言葉が想いとなって伝わっていく。出会ったことで互いに影響しあうふたり。一緒に過ごした時間は短いのに、言葉の壁なんてひゅるりと飛び越えて、気が付けば唯一無二のふたりに見えるからおもしろい。私たち人間はどうしても、言葉にすることで気持ちを伝えることに重きを置く生き物だけれど、実のところ、それはあくまでも一つの手段にすぎないのだと気づかされる。

それぞれの作品にはたくさんの想いが紡がれていて、物語の中にも外にも、思わず「縁」を感じてしまう。とても好きな言葉で常々「縁」を大切に思って生きてはいるけれど、すべての出会いや出来事を「ご縁のおかげ」の一言に留めたくないなとも思う。その縁を結んでいるのは、決して目に見えない力なんかではなくて、強い想いを持った誰かと私の、魂だと思いたいから。「めぐりあう魂たち」と題してお届けする今週の3作品。皆さんにとってこの映画との出会いが良いご縁になりますように。

異人たち
All of Us Strangers

アンドリュー・ヘイ監督作品/2023年/イギリス/105分/DCP/R15+/シネスコ

■監督・脚本  アンドリュー・ヘイ
■原作 山田太一「異人たちとの夏」(新潮社刊)
■撮影 ジェイミー・D・ラムジー
■編集 ジョナサン・アルバーツ
■音楽 エミリー・ルヴィエネーズ=ファルーシュ

■出演 アンドリュー・スコット/ポール・メスカル/ジェイミー・ベル/クレア・フォイ

■第81回ゴールデン・グローブ賞主演男優賞ノミネート/第77回英国アカデミー賞6部門ノミネート/英国インディペンデント映画賞作品賞ほか最多7冠受賞 ほか多数ノミネート

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【2024/9/21(土)~9/27(金)まで上映】

僕たちは 傷つき 愛を知る

ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは、12歳の時に交通事故で両親を亡くした40代の脚本家。それ以来、孤独な人生を歩んできた彼は、在りし日の両親の思い出に基づく脚本に取り組んでいる。そして幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で住んでいた。その後、アダムは足繁く実家に通って心満たされるひとときに浸る一方、同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちていく。しかし、その夢のような愛おしい日々は永遠には続かなかった…。

脚本家・山田太一の名作「異人たちとの夏」を再映画化。寂しくも美しい愛と喪失の物語

数々の傑作ドラマを手掛け、2023年11月29日に惜しくも逝去した名脚本家・山田太一が第1回山本周五郎を受賞した「異人たちとの夏」。1988年に大林宣彦監督が映画化(『異人たちとの夏』)、2003年には英訳が出版され、国内外の読者に広く愛されるこの傑作小説が、『さざなみ』『荒野にて』の英国人監督アンドリュー・ヘイの手で新たに映画化された。主人公と死別した両親との交流、ミステリアスな隣人との恋の行方を描くこの幻想譚は、愛と孤独、喪失と再生、さらにはセクシュアリティーといった根源的なテーマを探究し、観客それぞれの心の奥底にある記憶や郷愁を呼び覚ましていく。

主演は「Fleabag フリーバッグ」のアンドリュー・スコット。共演には『aftersun/アフターサン』のポール・メスカル、『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベル、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のクレア・フォイ。わずか4人の登場人物を演じた実力派キャストの演技、存在感。ヘイ監督の卓越したストーリーテリングをいっそう際立たせる映像美にも目を奪われる。豊かな色調と陰影に富んだ35mmフィルムのビジュアルには琥珀色の光がきらめき、寂しくも美しい傑作ラブストーリーが誕生した。

パスト ライブス/再会
Past Lives

セリーヌ・ソン監督作品/2023年/アメリカ・韓国/106分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・プロデュース セリーヌ・ソン
■撮影 シャビアー・カークナー
■編集 キース・フラース
■音楽 クリストファー・ベア/ダニエル・ロッセン

■出演 グレタ・リー/ユ・テオ/ジョン・マガロ

■2024年アカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネート/ベルリン国際映画祭コンペティション部門 正式出品/サンダンス映画祭プレミア部門 正式出品/ゴッサム賞 作品賞/ゴールデン・グローブ賞作品賞・外国語映画賞・主演女優賞・監督賞・脚本賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

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【2024/9/21(土)~9/27(金)まで上映】

君にずっと会いたかった――

ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とは――。

世界中が共感し絶賛! せつなさが溢れる大人のラブストーリー

大人のための、最高に上質な恋愛映画が誕生した。賞レースの幕開けを飾るゴッサム賞では作品賞を受賞し、ゴールデン・グローブ賞では作品賞含む主要5部門にノミネート。映画レビューサイトのロッテントマト98%の高評価を獲得し、米国アカデミー賞では作品賞・脚本賞にノミネートされるなど、大きな期待と注目を集めた『パスト ライブス/再会』。監督は、本作が長編デビュー作のセリーヌ・ソン。主人公ノラをNetflixのドラマシリーズ「ロシアン・ドール」のグレタ・リー、幼馴染のヘソンを『担保』のユ・テオ、ノラの夫アーサーを『ファースト・カウ』のジョン・マガロがそれぞれ演じている。

物語のキーワードは「運命」の意味で使われる韓国の言葉“縁—イニョン—”。見知らぬ人とすれ違ったときに、袖が偶然触れるのは、前世—PAST LIVES—でふたりの間に“縁”があったから。登場人物たちが想いを巡らせるいくつもの「もしも…」が、観客一人ひとりの人生における「あの時」の選択に重なり、“忘れられない恋”の記憶を揺り起こす。そして迎えるエンディングは、現世で運命の人とめぐり逢うことの奇跡と儚さに、胸が高鳴り、涙がとめどなく溢れるだろう。

【レイトショー】地球で最後のふたり
【Late Show】Last Life in the Universe

ペンエーグ・ラッタナルアーン監督作品/2003年/タイ・日本・オランダ・フランス・シンガポール/107分/35mm/ビスタ/SRD

■監督 ペンエーグ・ラッタナルアーン
■脚本 プラーブター・ユン/ペンエーグ・ラッタナルアーン
■撮影 クリストファー・ドイル
■編集 パタナマッダ・ユコン
■音楽 スモールルーム/フアラムポーン・リッディム

■出演 浅野忠信/シニター・ブンヤサック/ライラ・ブンヤサック/松重豊/竹内力/ティッティ・プームオーン/三池崇史/田中要次/佐藤佐吉

■2003年ベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門主演男優賞受賞/トロント国際映画祭正式出品/2004年ロッテルダム国際映画祭正式出品

【2024/9/21(土)~9/27(金)まで上映】

言葉をこえて、たしかにぼくらは愛をみつけた

タイの日本文化交流センターで働くケンジは、真夏の暑い日にも関わらず、糊の利いた長袖のシャツにしわ一つないパンツ姿。その神経質そうな外見の通り、センター内の図書館で本の整理に余念がない。もうすぐタイから日本へと旅立つノイ。くわえタバコで、乱暴な言葉遣い、いつもイライラとした表情、まるで行き先のわからない感情を持て余しているようだ。ふたりはお互いの妹、兄の死がきっかけで出会い、奇妙な成り行きで一緒に暮らすことになる。

「知っているタイ語は?」「コンニチハ、アリガトウ、1、2、3、4…」、「兄弟は?」「兄が。死んだけど」「私の妹も死んだ。似た者同士ね」カタコトの英語と日本語とタイ語。ふたりはつたない会話を繰り返し、少しずつお互いを知り、心を近づけ、恋に落ちていく。だが幸せな時間も束の間、ノイが日本へと発つその日がやってくる。

アジアの才能が生み出した至福のラブストーリー

2003年のベネチア国際映画祭は、第60回記念大会。有名監督やスター出演の映画が多数上映された豪華な年となった。そこで注目を集めていた一本のアジア映画が本作『地球で最後のふたり』である。『6IXTTYNIN9』や『わすれな歌』など秀作を次々と生み出し、海外でも高く評価を受けたペンエーグ・ラッタナルアーン監督と、ウォン・カーウァイやチャン・イーモウなどアジアを代表する監督たちに美しい映像を提供し続けているクリストファー・ドイル、その独特な存在感で多くの監督たちを唸らせ、日本映画界を代表する俳優となった浅野忠信という、国境を越えた3人の刺激的なコラボレーションで作り上げられた。

もともと、各地の映画祭で顔を合わせることのあったペンエーグ、クリス、浅野の3人は、ペンエーグ監督曰く「浅く長い付き合い」であり、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたという。共同脚本家としてタイの若者のカリスマ的存在であった作家プラープダー・ユンが参加。ペンエーグ監督も参加を強く求めた彼が加わったことにより、物語はより洗練されたラブストーリーに昇華した。ベネチア映画祭を皮切りにトロント、ロッテルダム、サンダンスなど世界の映画祭で高く評価され、主演の浅野忠信は本作が初の完全海外製作作品への出演にも関わらず、ベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門で主演男優賞受賞という快挙を成し遂げた。