【2024/1/13(土)~1/19(金)】『キリエのうた』『すずめの戸締まり』 // 特別モーニング&レイトショー『異人たちとの夏』

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【『キリエのうた』『すずめの戸締まり』ご鑑賞予定の皆様へ】

1/13(土)~19(金)に上映いたします『キリエのうた』および『すずめの戸締まり』には、地震描写や津波・水害を想起させる描写が含まれております。また、『すずめの戸締まり』には緊急地震速報を受信した際の警報音が流れるシーンがございます。

ご鑑賞にあたりましては、予めご了承いただきます様、お願い申し上げます。

令和6年能登半島地震により、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。被災地の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

早稲田松竹

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すみちゃん

東日本大震災が2011年に起こり、今年の初めに能登半島地震が発生した。ただ日常を過ごしていただけなのに、突然何もかもが変わってしまう現実を受け止めきれない。災害が起こるたびに、自分にも生じることだと思いつつ、被災をしていないわたしには、その寒さや震え、失ったものへの悲しみを同じようには共有できないもどかしさ、すぐにでも水や食料を届けたくても自分ひとりの力ではどうすることもできない失望感にさいなまれる。

今回上映される『すずめの戸締まり』『キリエのうた』には東日本大震災の描写がある。能登半島地震発生後に、失った人の生活が映し出されることで、現実と物語の境が曖昧になることへの不安は拭い去れない。それでも映画館にできることは、なかったことにしないということ。作品に伝えるべきものがある限り、わたしたちは人の生きていた軌跡を届けなくてはならない。災害は終わることのない現実であるということを、向き合うための時間にしたい。

地震というわたしたちが抗うことのできないものを、巨大なミミズとして表現している『すずめの戸締まり』では、ミミズの発生場所である扉を閉める“閉じ師”と呼ばれる人物が登場する。代々受け継がれているというその役目、何万人もの命を背負っている人物が生まれる背景には、わたしたちの生活を守りたいという根源的な希望がある。扉の向こうには常世(とこよ)と呼ばれる世界が存在し、わたしたちの住む現世(うつしよ)とは違い、それぞれの人の魂の数だけ見える世界があるという。それは被災した人、しなかった人、ひとりひとりが違う経験をしている過去であり、わたしたちが共有しなければならない世界でもある。

『キリエのうた』では、震災を経験した少女が大人になり、かつて出会った人と偶然に、いや、必然のように出会いなおしていく。物語は、震災以前と震災当時、そして震災以後の現在を目まぐるしく駆け巡り、わたしたちは日常を生きながらも、常に過去の記憶と共に生きているということを実感する。主人公のキリエの歌声に、言葉にできなかった感情が湧きあがり、心が揺さぶられる。声にすること、声を受け取ること。震災を経験した人から、わたしたちは声を聞き、そこから一緒に考えられるものがあるはずだ。

レイトショー『異人たちとの夏』では、もう会えないと思っていた家族とともに食卓を囲むシーンがある。ある夏の暑さと共に、ビールを家族と一緒に飲むそのかけがえのない時間に胸が締め付けられる。日々を忙しなく生きていると、見失うことがたくさんあるだろう。そんな時に、何でもない時間がどれだけ大事な瞬間だったのか、気づかせてくれるような作品だ。

もう会えない人がいる。もう行けない場所がある。それがどれだけ苦しいことか。それが現在でも、未来に起こる災害で被災する人たちにも起こりうるということを、決して忘れてはならない。自然災害は防ぐことはできないかもしれない。それでも、それに付随する問題には事前に準備をし、対策することはできるはずだ。毎日を後悔しないように行動すること、大切な人と過ごす時間を作ること、明日がどうなるか分からない日々を生きる上で、何ができるのか、今ひとりひとりが考える必要があるだろう。

すずめの戸締まり
Suzume

新海誠監督作品/2022年/日本/121分/DCP/シネスコ

■監督・原作・脚本 新海誠
■製作 川口典孝
■企画・プロデュース 川村元気
■キャラクターデザイン 田中将賀
■作画監督 土屋堅一
■美術監督 丹治匠
■音楽 RADWIMPS/陣内一真

■声の出演 原菜乃華/松村北斗/深津絵里/染谷将太/伊藤沙莉/花瀬琴音/花澤香菜/神木隆之介/松本白鸚

■第73回ベルリン国際映画愛コンペティション部門正式出品/第81回ゴールデン・グローブ賞アニメ映画賞ノミネート

©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

【2024/1/13(土)~1/19(金)上映】

扉の向こうには、すべての時間があった――

九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年・草太に出会う。彼の後を追うすずめが山中の廃墟で見つけたのは、まるで、そこだけが崩壊から取り残されたようにぽつんとたたずむ、古ぼけた扉。何かに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…

新海誠 集大成にして最高傑作

国境や世代の垣根を超え、世界中を魅了し続けるアニメーション監督・新海誠。全世界が待ち望む最新作『すずめの戸締まり』は、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる”扉”を閉めていく少女・すずめの解放と成長を描く現代の冒険物語だ。

すずめの声に命を吹き込むのは、1700人を超えるオーディションから選ばれた原菜乃華。扉を閉める旅を続ける“閉じ師”の青年・草太役には松村北斗。そして二人を支える、すずめの叔母・環役に深津絵里、草太の祖父・羊朗役に松本白鸚。さらには染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、神木隆之介という精鋭キャストが集結。すずめの旅を鮮やかに彩る。音楽は、新海作品3度目のタッグとなるRADWIMPSと日米の映画やアニメシリーズで活躍する陣内一真が共作で挑んだ。

すずめが歩む道の先で待つのは、見たこともない風景。人々との出会いと別れ。驚きと困難の数々。それでも前に進む彼女たちの冒険は、不安や不自由さと隣り合わせの日常を生きる我々の旅路にも、一筋の光をもたらす。

キリエのうた
Kyrie

岩井俊二監督作品/2023年/日本/178分/DCP/ビスタ

■監督・原作・脚本 岩井俊二
■製作 紀伊宗之
■音楽 小林武史

■出演 アイナ・ジ・エンド/松村北斗/黒木華/広瀬すず/村上虹郎/松浦祐也/笠原秀幸/粗品/矢山花/七尾旅人/ロバート・キャンベル/大塚愛/安藤裕子/鈴木慶一/ 水越けいこ/ 江口洋介/吉瀬美智子/樋口真嗣/奥菜恵/ 浅田美代子/石井竜也/豊原功補/松本まりか/北村有起哉

©2023 Kyrie Film Band

【2024/1/13(土)~1/19(金)上映】

だけどココを歩くんだ ココで歌うんだ

歌うことでしか“声”を出せない住所不定の路上ミュージシャン・キリエ。行方のわからなくなった婚約者を捜す青年・夏彦。傷ついた人々に寄り添う小学校教師・フミ。そして過去と名前を捨ててキリエのマネージャーとなる謎めいた女性・イッコ。石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、降りかかる苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す男女4人の13年間にわたる愛の物語。

岩井俊二監督最新作。“唯一無二の歌声”と“今旬の実力派俳優たち”が美しく奏でる音楽映画!

『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』――時代を震わせてきた監督:岩井俊二×音楽:小林武史による新作映画が、遂に誕生した。ふたりの心を射止めたのは、伝説的グループ「BiSH」を経て、現在はソロとして活動するアイナ・ジ・エンド。キリエ役で映画初主演を果たし、本作のために6曲を制作。スクリーン越しに圧巻の歌声を響かせる。

アイナと共に“運命の4人”を演じたのは、次代を担う面々。姿を消したフィアンセを捜し続ける青年・夏彦役に、松村北斗。過去にとらわれた青年の複雑な心情表現を細やかな演技で魅せる。傷ついた人々に寄り添う教師・フミ役は、黒木華。清らかな慈愛を体現し、物語に奥行きを与える。過去を捨て、名前を捨て、キリエのマネージャーを買って出る謎めいた女性・イッコ役には、広瀬すず。今回は従来のイメージを覆す役どころに挑み、新境地を拓いた。

石巻、大阪、帯広、東京。岩井監督のゆかりある地を舞台に紡がれる、出逢いと別れを繰り返す4人の壮大な旅路。儚い命と彷徨う心、そこに寄り添う音楽。“あなた”がここにいるから――。13年に及ぶ魂の救済を見つめたこの物語は、スクリーンを越えて“貴方”の心と共振し、かけがえのない質量を遺す。

【モーニング&レイトショー】異人たちとの夏
【Morning & Late Show】The Discarnates

大林宣彦監督作品/1988年/日本/108分/35mm/ビスタ/ドルビーA

■監督 大林宣彦
■原作 山田太一 
■脚本 市川森一
■撮影 坂本善尚
■音楽 篠崎正嗣

■出演  風間杜夫/秋吉久美子/片岡鶴太郎/名取裕子/永島敏行/川田あつ子/ベンガル/笹野高史

■1988年日本アカデミー賞助演男優賞・脚本賞受賞/ブルーリボン賞助演男優賞・助演女優賞受賞

©1988松竹株式会社

【2024/1/13(土)~1/19(金)上映】

僕が愛した人は異人(死びと)だった。

妻子と別れ、孤独な日々を送るシナリオ・ライターの原田は、故郷である東京・浅草で幼い頃に死別した若い父母とそっくりな二人に出逢う。死んだはず、しかし確かに“再会"した母は、原田がまだ12歳の時のままの美しい姿だった。いっぽう、原田はケイという女とも出会うことになる。渇き切ってしまった生活のなかに、そっと忍び込んできた儚い幻想。その夏、原田は少年に戻った。父、34歳。母、32歳。そして子供である自分自身は40歳。不思議な時間と非現実の空間が交錯する。しかし原田が出逢い、愛したのはこの世のものではなかった。愛した分だけ死に近づく…。ケイは二人にはもう決して逢わないで欲しいと迫るのだが…。

あやかしの幻想世界が官能と恐怖を誘う! 愛と情念を描く、大林流家族映画

渇き切った現代人の生活に、そっと忍び込んでくる孤独と幻想。お伽話といって笑えない不思議な時間と非現実な空間。第一回山本周五郎賞を受賞した山田太一の小説を、市川森一の脚色で大林宣彦が演出した異色作。妻子と別れた人気シナリオライターが体験した、異人である父母とのひと時のふれあいと、奇妙な出会いをした恋人との不思議な愛の幻想を描く。

1988年日本アカデミー賞最優秀賞(脚本賞・助演男優賞)、優秀賞11部門受賞のほか、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞など数々の映画賞を独占した。思いもかけない驚愕の展開が待ち受ける傑作として人気の高い一作となっている。

原作の山田太一は2023年11月に惜しくもこの世を去った。2024年4月には、同原作をイギリスのアンドリュー・ヘイ監督がロンドンを舞台に新たに映画化した『異人たち』が公開予定である。