『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』// 特別レイトショー『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』

【2025/7/19(土)~7/25(金)】『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』// 特別レイトショー『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』

ちゅんこ

1961年、一人の青年がフォークギターを手に、ニューヨークへ降り立った。ウディ・ガスリーに憧れる若者は、一見どこにでもいそうな普通の青年に見えるが、すでに彼は才能の片鱗をのぞかせている。彼の名は、ボブ・ディラン。『名もなき者/A COMPLETE UN-KNOWN』は、名もなき若者だった一人の青年が、やがてその歌とカリスマ性で世界的なセンセーションを巻き起こし、時代の寵児となるまでを描いているが、人気者になった後も、彼は驚くほど変わっていない。

「奴らは一生「風に吹かれて」を歌っていてほしいんだ」

大ヒット曲「風に吹かれて」誕生の後、プロデューサーや観客たちは皆ボブ・ディランを型に押し込め、これまでのイメージを覆さないことを望む。観衆から求められるがままに、同じことを繰り返すのは簡単なことかもしれない。だけど彼は常に変化を望み、新しい曲を生み出そうとし続ける。

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1979年、ワシントン州の田舎町で、まだ10代の少年だった兄弟がデュオを組み、父親が作ってくれたスタジオで一枚のアルバムを作った。希望に胸を膨らませ、未来は自分たちの手にあると信じる兄弟の期待と夢は、容赦のない現実によって砕かれる。しかし、30年後、コレクターにより発見されたアルバムが再評価されたことにより、一度は諦めた夢が手の届くところまでやってくる。喜ぶ兄のジョーや両親とは異なり、主に作曲を担当していた弟のドニーは複雑な表情をのぞかせる。

映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』は、実在の兄弟デュオ「ドニー&ジョー・エマーソン」が辿った驚くべき実話を映画化した、家族の物語だ。一度は同じ夢を追いながらも、夢を諦めた兄と、諦め切れなかった弟が描かれる。二人の息子の選択を温かく見守る家族の姿に、胸が熱くなる傑作だ。

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卓越したハーモニーと洗練されたアレンジにより、「サーフィン・U.S.A.」など数々のヒット曲を発表したアメリカのロックバンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」。映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は、メンバーの中心的人物であったブライアン・ウィルソンの、人気絶頂期でありながらも家族との関係に苦しみ、なおかつ新しい音楽を生み出そうとする苦悩を見つめながら、後のパートナーとなるメリンダとの出会いを描き出す。

当時精神的な問題を抱えていたブライアンにとって、メリンダの存在がどれほど大きかったか、この映画を見ているとよくわかる。長年連れ添ったメリンダが昨年はじめに亡くなったとき、ブライアンはSNSでこうメッセージを伝えている。

「メリンダは妻以上の存在だった。僕の救世主でした。
キャリアを持つために必要な精神的な安心感を与えてくれた。
僕の心に最も近い音楽を作るよう励ましてくれた。」

彼女の死を悼むように、ブライアンも今年の6月に亡くなった。

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神さまより与えられた特別な才能のことを、英語では“ギフト”と呼ぶ。そのことを知ったとき、なんてうまい言葉だと思った覚えがある。もしも自分に天賦の才があったなら…。誰もが一度はそんなことを考えたことがあるのではないだろうか。“天才は転がる石のように”と名付けられた今特集は、言うなれば皆、そんな天才たちの物語だ。しかし、映画で描かれるのは、彼らがどれほど特別な才能を持ち、偉大だったかということではない。常に新しいものを生み出し続ける苦悩はどれほどのものだろうか。映画は私たちと同じごく普通の一人の人間として、彼らの苦悩や葛藤を描き出している。

ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた
Dreamin' Wild

ビル・ポーラッド監督作品/2022年/アメリカ/111分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 ビル・ポーラッド
■原作 スティーブン・カルッツ
■撮影 アルノー・ポーティエ
■編集 アネット・デイヴィー
■原曲 ドニー・エマーソン
■作曲 レオポルド・ロス

■出演 ケイシー・アフレック/ノア・ジュプ/ズーイー・デシャネル/ジャック・ディラン・グレイザー/クリス・メッシーナ/ウォルトン・ゴギンズ/ボー・ブリッジス

■第79回ヴェネチア国際映画祭正式出品

©2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

【2025/7/19(土)~7/25(金)上映】

あの頃、音楽は人生のすべてだった

1979年、ワシントン州の田舎町でレコーディングされた1枚のアルバム「Dreamin’ Wild」。10代だったドニーは兄とデュオを結成し、父が息子たちのために自作したスタジオで数々の楽曲を生み出した。家族に支えられ情熱を注ぎ込んで作ったアルバムだったが、世間からは見向きもされず、夢に手が届くことはなかった。それから約30年後――。思い描いていた夢とは程遠い人生を送っていたドニーは、コレクターにより発見されたアルバムが再評価され、“埋もれた傑作”として人気を博していることを知る。思いもよらない成功に家族は喜ぶが、ドニーは目を背けてきた過去や感情と向き合うことになり…。

1979年、10代で作った1枚のアルバム 30年後に脚光を浴びた“埋もれた傑作”が紡ぐ、心揺さぶる実話

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でオスカーに輝いた名優ケイシー・アフレックを主演に迎え、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』の監督ビル・ポーラッド、アカデミー賞作品賞受賞『グリーンブック』『それでも夜は明ける』の製作陣がタッグを組み、実在の兄弟デュオ「ドニー&ジョー・エマーソン」が辿った驚くべき実話を映画化。1979年に10代で作った1枚のアルバムが、夢破れてから約30年後に”埋もれた傑作”として再評価され、注目を集めた兄弟とその家族の半生を、世界最高峰の俳優と製作陣が繊細かつ感動的に描き出す。

共演には『(500)日のサマー』のズーイー・デシャネル、『ハニーボーイ』の若手実力派ノア・ジュプ、名優ボー・ブリッジスらが集結。圧巻の演奏シーンに加え、ボブ・ディランの楽曲をはじめ70年代前後に人気を博した珠玉の名曲たちが作品を彩る。”叶わなかった夢”から続いてきた人生に光が差したときに浮かびあがる、家族との深い絆。誰もが心を揺さぶられる、新たなる音楽映画の傑作が誕生した。

名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN
A Complete Unknown

ジェームズ・マンゴールド監督作品/2024年/アメリカ/141分/DCP/シネスコ

■監督 ジェームズ・マンゴールド
■脚本 ジェームズ・マンゴールド/ジェイ・コックス
■撮影 フェドン・パパマイケル
■編集 アンドリュー・バックランド/スコット・モリス
■音楽プロデューサー ニック・バクスター

■出演 ティモシー・シャラメ/エドワード・ノートン/エル・ファニング /モニカ・バルバロ /ボイド・ホルブルック/ダン・フォグラー/ノーバート・レオ・バッツ/スクート・マクネイリー

■第97回 アカデミー賞作品賞ほか7部門ノミネート/第82回 ゴールデングローブ賞最優秀作品賞ほか2部門ノミネート

©2025 Searchlight Pictures.

【2025/7/19(土)~7/25(金)上映】

時代は、変る

1961年、フォークギターだけを手に、きらめきを掴むためにニューヨークへ降り立った青年、ボブ・ディラン。恋人、音楽上のパートナー、才能を認める先輩と出会い、激動の時代に呼応するミュージックシーンの中で、彼の魅力と歌は大きな注目を集めていく。次第に“フォーク界のプリンス”“若者の代弁者”と祭り上げられるボブ。しかし、彼の才能と魂は、次第に違和感を感じていく。そして1965年夏、大観衆を前に最後の決断をする。彼の手にはエレクトリック・ギターがあった…。

最も輝きに満ち、永遠に語り継がれるボブ・ディラン60年代激動の日々を完全映画化。

20世紀最大の詩人・パフォーマーかつ、今なお現役ミュージシャンとして舞台に立ち続ける“生きる伝説”ボブ・ディラン。その神話的な若き日々を完全再現したのは、ハリウッド新時代のスターとして頂点に立つティモシー・シャラメ。全ての歌唱シーンを自身の声で歌い上げる圧巻のパフォーマンスを披露したシャラメは、その演技で世界中を熱狂させている。

また、ピート・シーガー役のアカデミー賞ノミネートの名優エドワード・ノートン、当時のディランの恋人にインスパイアされたシルヴィ役のエル・ファニング、「フォークの女神」ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロら最高の共演陣が当時の熱気を蘇らせる。監督は『フォードvsフェラーリ』、ジョニー・キャッシュを主人公にした『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』などの実録モノの名作を送り続ける名匠ジェームズ・マンゴールド。

今なお歌い継がれる名曲誕生の瞬間、そして、ロック、カルチャーの転換点となり、世界がこの目で見ることを待ち望んだ運命のステージをスクリーンで目撃せよ!!

【レイトショー】ラブ&マーシー 終わらないメロディー
【Late Show】Love & Mercy

ビル・ポーラッド監督作品/2015年/アメリカ/122分/DCP/PG12/ビスタ

■監督 ビル・ポーラッド
■製作 ビル・ポーラッド/クレア・ラドニック・ポルスタイン/ジョン・ウェルズ
■脚本 オーレン・ムーヴァーマン/マイケル・アラン・ラーナー
■撮影 ロバート・イェーマン
■編集 ディノ・ヨンサーテル
■音楽 アッティカス・ロス

■出演 ジョン・キューザック/ポール・ダノ/エリザベス・バンクス/ポール・ジアマッティ/ジェイク・アベル/ケニー・ウォーマルド/ブレット・ダヴァーン/グレアム・ロジャース

©2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

【2025/7/19(土)~7/25(金)上映】

いつかは、ここを出て、愛を迎えに行かなくちゃ。

1960年代、カリフォルニア。夏とサーフィンの歌が大ヒットし、ザ・ビーチ・ボーイズは人気の頂点にいた。だが、新たな音を求めてスタジオで曲作りに専念するブライアン・ウィルソンと、ツアーを楽しむメンバーたちの間に亀裂が入り、さらには威圧的な父との確執も深まって、ブライアンはドラックに逃避するように。心血を注いだアルバムの不振をシングルで挽回するが、新作へのプレッシャーから心が完全に折れてしまう。

それから20余年、彼に再び希望の光をもたらしたのは、美しく聡明な女性メリンダとの出会いだった。しかし、惹かれ合う二人の間に、ブライアンのすべてを管理する精神科医ユージンが立ちはだかる。メリンダの協力のもと、遂にブライアンは自分の本当の歌を取り戻すために立ち上がるのだが──。

ザ・ビーチ・ボーイズの知られざる真実を映画化! 孤独な彼が見つけたラブソングが、明日も世界を優しく包む――

誕生から半世紀を経た今も、時代を超えて愛され続けている名曲を生み出したザ・ビーチ・ボーイズの中心的存在ブライアン・ウィルソン。だが、それらの曲を作っていた時、ブライアン自身は苦悩に引き裂かれ、極限まで壊れていた。いったい何がそこまで彼を追いつめたのか? 数々の名曲が彩るブライアン・ウィルソンの衝撃の半生が、本人公認のもと、初の映画化となった。

監督は、『それでも夜は明ける』のプロデューサー、ビル・ポーラッド。異なる二つの時代のブライアンを二人一役で描くという大胆なアイデアで、いくつもの魅力的な顔を描き出すことに成功した。60年代のブライアンをポール・ダノ、80年代のブライアンをジョン・キューザックという、新旧実力派俳優が競演した。

想像を絶する苦闘の果てに、希望を見つけるブライアン。映画の最後には、そんな彼からの贈りものが用意されている。自分と同じ孤独を抱えたすべての人たちへ、愛と慈愛に満ちた幸せの贈りものが──。