2025.11.13
【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

「アジアの監督たちと林強」
先週上映しました、ジャ・ジャンクー監督特集。『プラットホーム』(2000)、『青の稲妻』(2002)、『長江哀歌』(2006)そして最新作の『新世紀ロマンティクス』(2024)と圧巻の作品群でした。実はジャ・ジャンクー監督作の中では今回は上映しなかった『世界』(2004)も印象に残っています。世界各地の歴史的建造物のミニチュアを展示している中国の「北京世界公園」を舞台に、急速に発展してく北京の街と、そこで暮らす人々に焦点を当てているこの映画。「この街は一体これからどうなっていくのだろう」という思いと共に、エンドロールで流れる、壮大で、そこはかとなく哀愁を感じるテクノミュージックに感動したのを覚えています。
こちらの曲は台湾出身のリン・チャン(林強)というミュージシャンが作曲しています。彼は1990年に歌手としてデビューし、「新台湾語歌運動」の代表作の一つである台湾語の歌「向前走」で一躍に有名になりました。その後、ポップスターとして人気を博しながらも、電子音楽に傾倒し、2000年以降は自らスタジオを設立。そこから映画音楽などに専念しているようです。ジャ・ジャンクー監督とのタッグは多く、『長江哀歌』(こちらのエンドロールの曲も素晴らしい!)、『四川のうた』(2008)、『罪の手ざわり』(2013)、『帰れない二人』(2018)、『新世紀ロマンティクス』と『世界』以降の大半をリン・チャンが務めています。さらにホウ・シャオシェン監督との関係性も深く、『憂鬱な楽園』(1996)、『ミレニアム・マンボ』(2001)、『黒衣の刺客』(2015)の音楽を担当。さらに、ビー・ガン監督作、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018)も彼が担当しています。知らず知らずのうちに聞いていた映画ファンの方々も多いのではないでしょうか。
さて、彼は俳優としても映画に出演していて、思い入れがあるのは『憂鬱な楽園』のチンピラの主人公の弟分ピィエンです。かなりメインのキャラクターとして登場しているのですが、映画に出演しながらかつ音楽も作っています。ちなみにオリヴィエ・アサイヤス監督作で、ホウ・シャオシェンを中心に、台湾ニューシネマを牽引した映画人たちへのドキュメンタリーである『HHH:侯孝賢』(1997)にも、ちらっと出演していて、役柄とは違う普段の感じをのぞくことができて、なんだかほっこりします。
2024年には映画のサウンドトラックではない自作のオリジナルアルバム『The Realm Of Otherness 別境』を20年ぶりに発表! 風景をイメージさせる音楽から、より抽象度の高い電子音まで、約80分のボリュームとなっています。まだまだ彼の活躍から目が離せないですね。
林強『The Realm Of Otherness 別境』(2024)
(ジャック)










