【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛 | 早稲田松竹 official web site | 高田馬場の名画座

2025.10.09

【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛

めっきりと涼しくなりましたね。今ではあの夏の暑さも恋しくなるくらいに秋のもの寂しさを感じている日々です。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋…と秋はなにかと新しいことに挑戦するのにうってつけの季節ですが、皆さまはこの秋に挑戦したいことはありますか? 私はというと、「読書の秋」にするぞ! と密かな目標を掲げています。元々、活字を読むことが苦手だったのですが、本を読もうと思ったきっかけとして、最近小説原作の映画をよく観ているなあと感じたことがありました。今後当館で上映する『ミステリアス・スキン』『クィア/QUEER』など、小説を原作に映像化された作品って多いですよね。映画から入ると、「一体原作ではどのような描写がされているんだろう?」「映画のあの部分は原作に忠実だったのか?」など、いろいろ気になってくるところがあります。とにかく、自分が観た映画の原作を読んでみようではないかと思ったのです。

さて、そんな私が今読んでいるのは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「怪談」です。このメルマガを愛読している方は「あれ、先週も目にした人物だな?」と思われるかもしれませんが、私もいち早稲田松竹日和の読者のため、先週のコラムで取り上げられていたこの本が気になった勢いで購入したのです。

ギリシャ系のルーツを持ち、明治時代にまだ珍しかった異邦人として、日本の怪談話の伝承に尽力した八雲さん。特に「怪談」の中で印象深かったのは、「耳無芳一の話」の一遍です。幼い頃から昔話などで知ってはいましたが、改めて原作を読んでみて、「こんなに恐ろしいお話だったっけ?」と驚きました。かつての印象だと、芳一の耳が引きちぎられるシーンなど、直接的に亡霊と対峙する
シーンが怖かったのですが、実際に原作を読んでみると、該当部分は意外にもあっさりと描写されているではありませんか。そんなことよりも、お話の中で一番恐ろしいと感じたのは、盲目の芳一が亡霊に連れられ、雨の中の墓の前でひとり琵琶を鳴らしているという描写でした。

今回、小泉八雲の原作を読んだ上で、実際に映像化された小林正樹監督の『怪談』(65)をはじめて鑑賞しました。原作を読んでから観てみると、私が小説で印象的に思った雨のシーンが自分の創造力の何倍、いや何十倍もドラマチックに感じる! もちろんこの作品が巨額な製作費と年月をかけて撮影されたということもありますが、自分の想像力を凌駕する映像表現の面白さを痛感したのでありました。壇ノ浦の戦いで敗れた平家の亡霊たちの無念さ、人ならざる者の不気味さや芳一の不安を画面いっぱいに感じられて、「なるほど、こんな表現の方法もあるのか…」と自分の想像力のちっぽけさに驚いたのでした。

読書をすることも、映画を観ることも、またそれぞれ違った面白さがありますが、二つを掛け合わせることでまだ見ぬ映画の楽しみ方に気づかされたのでした。今は、『クィア/QUEER』の原作を読んでみようと企んでいるところです♪

(牛)