■監督 クリント・イーストウッド
1930年5月31日サンフランシスコに生まれる。陸軍除隊後、ロサンゼルス・シティ・カレッジで演劇を学び、ユニヴァーサルと契約。TVシリーズ「ローハイド」で人気を博し、セルジオ・レオーネ監督の『荒野の用心棒』('64)『夕陽のガンマン』('65)『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』('66)でマカロニ・ウェスタンのスターとなる。さらに、ドン・シーゲル監督と組んだ『ダーティ・ハリー』('71)でスターの地位を不動のものにする。
68年に自らの製作プロダクションを設立。『恐怖のメロディ』('71)で監督デビューを果たすと、『荒野のストレンジャー』('72)『アウトロー』('76)などの作品を立て続けに発表。"最後の西部劇"『許されざる者』('92)では、念願のアカデミー賞作品賞・監督賞に輝いた。
その後も『マディソン郡の橋』('95)や『ミスティック・リバー』('03)などの文芸性の高い作品も手掛け、近年も『グラン・トリノ』('08)や『ヒア アフター』('10)など、毎年のように傑作を発表し続けている。最新作『アメリカン・スナイパー』('14)は、アメリカの戦争映画史上最高の興行収入を記録する大ヒット作となった。
■監督作品
※印以外は兼出演
・恐怖のメロディ('71)
・荒野のストレンジャー('72)
・愛のそよ風('73)<未>※監督のみ
・アイガー・サンクション('75)
・アウトロー('76)
・ガントレット('77)
・ブロンコ・ビリー('80)
・ファイヤーフォックス('82)
・センチメンタル・アドベンチャー('82)
・ダーティハリー4('83)
・ペイルライダー('85)
・バード('86)※監督のみ
・ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場('86)
・ホワイトハンター ブラックハート('90)
・ルーキー('90)
・許されざる者('92)
・パーフェクト・ワールド('93)
・マディソン郡の橋('95)
・真夜中のサバナ('97)※監督のみ
・目撃('97)
・トゥルー・クライム('99)
・スペース・カウボーイ('00)
・ブラッド・ワーク('02)
・ミスティック・リバー('03)
・ピアノ・ブルース('03)
・ミリオンダラー・ベイビー('04)
・父親たちの星条旗('06)※監督のみ
・硫黄島からの手紙('06)※監督のみ
・チェンジリング('08)※監督のみ
・グラン・トリノ('08)
・インビクタス/負けざる者たち('09)※監督のみ
・ヒア アフター('10)※監督のみ
・J・エドガー('11)※監督のみ
・ジャージー・ボーイズ('14)※監督のみ
・アメリカン・スナイパー('14)※監督のみ
人生が均衡を失い、事故や失敗、ちょっとした出来事によって狂い始める。自分が望むと望まざるとに、正しいか正しくないかにかかわらず、そのツケを払わずに歩むことは不可能だ。今日の過失の借りを明日返さなくてはならない。クリント・イーストウッドの映画を観ていると、生きることはそんな仮借なき荒野を歩むことだと思わされる。
小さなイタズラをきっかけに始まった事件が、3人の少年の人生を大きく狂わせる。2人の偽警官に誘拐された『ミスティック・リバー』のデイブは、何を避ければ良かったのだろう。その車に乗らなければ。生乾きのコンクリートに名前を刻まなければ。ホッケーの球を下水溝に落とさなければ良かったのだろうか。しかし、そこにはどうすればいいかなどという答えはない。どこまで遡ってもその始まりなど知ることのできない、社会や歴史の闇の部分や悪意に触れてしまった。 ただそれだけで、人生は二度と戻れない大きな流れに搦めとられていく。
「犯罪が日常茶飯事の、ニュージャージーで最も貧しい地区。そこから抜け出すには、軍に入るか、ギャングになるか、スターになるか、しか方法がなかった。」
イーストウッドの映画で描かれる人物たちは、ささいな暮らしを守る人々から、表舞台で偉業を成し遂げる人々まで平等に苦しみがある。盗んではそれを売って暮らしていくこと。少年院との出入りを繰り返しながら、それでもメンバーは歌を歌うことをやめない。『ジャージー・ボーイズ』のザ・フォー・シーズンズが曲を生み出す音色。それはメンバー4人分、それぞれの生き方の決算が生み出すハーモニーだ。
ボブ・ゴーディオが音楽プロデューサーとしてソロで活躍しようとも、トミー・デヴィートやニック・マッシがバンドを去り表舞台から姿を消そうとも、フランキー・ヴァリが一人でバンドの背負った借金を返そうとも、ここでバンドが背負った宿命はすべて4人のものであることは変わらない。彼らが、あの夜ひとつのハーモニーを生みだした。ただそのことだけが彼らを運命共同体にしてしまったのだ。(事実、この『ジャージー・ボーイズ』がミュージカル化され、ヒットしたことで、表舞台から姿を消したトミーたちの生活を支えるだけのお金が支払われた。)
84歳にして、世界最高の映画作家と称されるクリント・イーストウッドもまた、友人や、家族同然の自身の会社「マルパソ・プロダクション」の仲間のことを考えながら、アメリカ映画とのどこまでも仮借なき関係をいまだに続けている。
それは簡単に攻め入ることのできないアメリカ映画の牙城、世界中に影響する映画の力を感じられる場所。最新作『アメリカン・スナイパー』を観た方も観ていない方も、『ジャージー・ボーイズ』と『ミスティック・リバー』の2本を是非ご覧いただければと思います。
(ぽっけ)
ミスティック・リバー
MYSTIC RIVER
(2003年 アメリカ 138分 シネスコ/SRD)
2015年5月16日-5月22日上映
■監督・製作 クリント・イーストウッド
■製作 ジュディー・G・ホイト/ロバート・ロレンツ
■製作総指揮 ブルース・バーマン
■脚本 ブライアン・ヘルゲランド
■原作 デニス・ルヘイン「ミスティック・リバー」(早川書房刊)
■撮影 トム・スターン
■編集 ジョエル・コックス
■ショーン・ペン/ティム・ロビンス/ケビン・ベーコン/ローレンス・フィッシュバーン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ローラ・リニー/トーマス・ギーリー/エミー・ロッサム
■2003年アカデミー賞主演男優賞・助演男優賞受賞・ほか4部門ノミネート/2003年ゴールデングローブ賞男優賞・助演男優賞受賞・ほか3部門ノミネート/2003年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート/2003年全米批評家協会賞監督賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
たったひとつの忌まわしい出来事が、少年たちの運命を変えた――。 ジミー、デイブ、ショーンは幼なじみ。ある日、いつものように路上で遊んでいた彼らに警官を装った男が近づき、デイブだけを車に乗せて走り去った。デイブが戻って来たのは4日後のこと。誘拐され、監禁された4日間。デイブの身に何が起こったのかは、語られなくてもわかった…。その日、彼らの少年時代は終わりを告げた。
25年後、大人になった3人は、悲惨な殺人事件を通じて再び出会うことになる。ひとりは娘を殺された父親として、ひとりは刑事として、そしてもうひとりは、容疑者として――。それは、かつての幼なじみが果たしたあまりにも過酷な再会だった…。
原作は、全米でベストセラーとなり、日本でもベスト・ミステリーとして話題を呼んだデニス・ルヘインの同名小説。イーストウッド監督は、最初に読んだ瞬間にこの作品の映画化を決意したという。殺人事件の謎解きを超えて、心を揺さぶる登場人物たちの痛ましいまでの悲しみと、それを生き抜く力強い物語が、名匠イーストウッドを捉えたのだ。
そして、ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンといういずれ劣らぬ実力派が揃い、その才能と魅力を遺憾なく発揮した。本作でショーン・ペンは2003年度アカデミー賞主演男優賞を、ティム・ロビンスは助演男優賞を揃って受賞した。彼らの激情、苦悩、葛藤がスクリーンを席巻する!
ジャージー・ボーイズ
JERSEY BOYS
(2014年 アメリカ 134分 シネスコ)
2015年5月16日-5月22日上映
■監督・製作 クリント・イーストウッド
■製作 グレアム・キング/ロバート・ロレンツ
■脚本・ミュージカル版台本 マーシャル・ブリックマン/リック・エリス
■製作総指揮 フランキー・ヴァリ/ボブ・ゴーディオ/ティム・ムーア/ティム・ヘディントン/ブレット・ラトナー/ジェイムズ・パッカー
■撮影 トム・スターン
■編集 ジョエル・コックス/ゲイリー・D・ローチ
■出演 ジョン・ロイド・ヤング/エリック・バーゲン/マイケル・ロメンダ/ビンセント・ピアッツァ/クリストファー・ウォーケン/マイク・ドイル/レネー・マリーノ/エリカ・ピッチニーニ
■2014年ブルーリボン賞外国作品賞受賞/2014年日本アカデミー賞外国作品賞ノミネート
彼らが生まれたのは、犯罪が日常茶飯事の、ニュージャージーで最も貧しい地区。そこから抜け出すには、軍隊に入るか、ギャングになるか、スターになるしかなかった。金も、コネもない彼らにあったのは、神から与えられた歌声と、曲を作る才能、そして見事に息の合った完璧なハーモニー。それだけを武器に、4人の若者はスターダムにのし上がった。しかし、強い光には濃い影が差す。待っていたのは、栄光の果ての挫折だった…。
本作は、二度のアカデミー賞監督賞に輝く巨匠クリント・イーストウッドが、トニー賞受賞の傑作ブロードウェイ・ミュージカルを基に映画化したヒューマン・ドラマ。音楽界に不滅の伝説を打ち立てた4人組――ザ・フォーシーズンズの栄光と挫折の物語を、代表曲「シェリー」「君の瞳に恋してる」など、一世を風靡した名曲の数々とともに綴る。
出演は、リード・ヴォーカルのフランキー・ヴァリ役を演じブロードウェイ版でトニー賞を受賞したジョン・ロイド・ヤングに加え、エリック・バーゲンとマイケル・ロメンダが、全米ツアーで演じたボブ・ゴーディオ役とニック・マッシ役をそれぞれ演じている。トミー・デヴィート役に舞台版は未経験のビンセント・ピッツァ、共演には名優クリストファー・ウォーケンを起用している。
老練の名匠クリント・イーストウッドが、監督33作目となる本作で描く人生とは――。輝いても、曇っても、生きていくのは悪くない。いま明かされる、時代を越えた名曲の真実が、胸に深くしみわたる。