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多くの人々が生活している日中に、地下室でひっそりと夜が来るのを待つ気分はどんなだろう?
ニューヨーク・インディペンデント映画の旗手として、カルト的な人気を集め続けてきたジム・ジャームッシュ。
待望の最新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は、見たことないほどクールでエレガントなヴァンパイア映画だ。
彼らは欲望のままに血を追い求めて毎晩街路を彷徨ったり、いい女と見ればすぐにたぶらかしたりしない。
それは、いま人間たちの血は「汚れている」からだそうだ。

ゴーストシティと化したデトロイトの街や、モロッコの古都タンジールに暮らす、知的でオーガニック指向なヴァンパイアたち。
永遠の命を持つ彼らは、多くの時代の文明や芸術に触れて、人間よりも遥かに文化的な生活を営んでいる。

アダム(トム・ヒドルストン)は、「せめてアダージョだけは世に出したかった」と、
シューベルトに楽曲を提供したことをほのめかしたり、
マーロウ(ジョン・ハート)は、※「愛はつかの間に過ぎる時間や週とともに変わるものではない。」なんて手紙を送ったり、
暗躍してきた各時代のアートシーンを彷彿とさせる。
(※「シェイクスピアのソネット116番」からの引用。実際に同名の劇作家クリストファー・マーロウは謎の死を遂げていて、
死んだ時期とシェイクスピアのデビューが同時期であるため、シェイクスピアはマーロウなのではないかという一説がある。)

どうだろう、もし本当に人間たちが作りだしたと考えられてきた芸術作品に、
その時代その時代で、ある数人のヴァンパイアの創造力が関わり続けていたとしたら?

もしかしたらニコラス・ウィンディング・レフンはそんな現代を生きるヴァンパイアの一人なのかもしれない。
自ら映画狂を標榜し、その影響からアレハンドロ・ホドロフスキーなんてカルトな映画監督に最新作を捧げたりしてしまう。
そんな恐れ知らずの映画『オンリー・ゴッド』(原題「Only god forgives」)は復讐の連鎖が織り成す、神なき裁きの映画だ。

この作品では、誰も赦されることがない。罪深き人間たちに容赦なく罰を与えるのは、
鬼神のような警察官・チャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)だ。

ジュリアン(ライアン・ゴズリング)の兄は娼婦の少女を強姦して殺害。
その兄は、チャンにけしかけられて怒り悲しむ娼婦の父親に殺され、
その父親は娘たちを娼婦にした罰としてチャンに腕を切り落とされる。
さらに最愛の息子を殺された絶対的な支配欲を持つジュリアンの母(クリスティン・スコット・トーマス)は、
ジュリアンをけしかけてチャンを殺そうとする。もう笑ってしまうほどの地獄絵図。

しかし、どんなに人が死に、腕が刺され、斬り飛ばされようとも、
この映画ではそれが現実に起こったことのように見ることはできない。
「周りにあるものすべてを変え、そこから何が出てくるか見るために、
 フルスピードで創造性の衝突を起こしてみたかったんだ。」
とニコラス・W・レフン監督が語るように、これはエモーションを得る映画。
毎朝刀を振り回しながら敵を切り捨てる日を待つチャンと、内向きに溜め込まれた怒りが解放される瞬間を待つジュリアンの、
暴力的なエネルギーとが混じり合い、スパークを起こす時の、この堪えようのなさ!
それはまるでデヴィッド・リンチや、ホドロフスキーの映画にある不気味なエモーションを彷彿とさせる。

どこからどうみても、この2人の映画監督たちは、多くのコマーシャルな映画の作り手と比べて作品との向き合い方が違う。
今まで触れてきた芸術や文化からのエモーションを再生産しようと情熱を隠さない。
私たちの想像力を触発する、この失いかけた純潔(血?)への渇望のエネルギー。
そう、今週の早稲田松竹はまさに唯一無二“ワン・アンド・オンリー”なカルトパワー全開の二本立て。
噛まれたらきっとあなたも彼らの仲間。ヴァンパイアたちは闇の中であなたを待っている。

(ぽっけ)


オンリー・ゴッド
ONLY GOD FORGIVES
(2013年 デンマーク/フランス 90分 DCP R15+ ビスタ)pic 2014年5月10日から5月16日まで上映 ■監督・脚本・製作 ニコラス・ウィンディング・レフン
■製作 レネ・ボーグルム/シドニー・デュマ/ヴァンサン・マラヴァル
■撮影 ラリー・スミス
■編集 マシュー・ニューマン
■音楽 クリフ・マルチネス

■出演 ライアン・ゴズリング/クリスティン・スコット・トーマス/ヴィタヤ・パンスリンガム/ラター・ポーガーム/ゴードン・ブラウン/トム・バーク

■第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

その復讐は 神への挑戦

picタイのバンコクでボクシング・クラブを経営しているビリーとジュリアンの兄弟は、裏でドラッグビジネスに関わっていた。ある日、兄のビリーが殺されてしまう。彼がなぶり殺しにした若い売春婦の父親に報復されたのだ。溺愛する息子の死を聞きアメリカから駆け付けた母のクリスタルは、怒りのあまりジュリアンに復讐を命じる。しかし、彼らの前には元警察官だと名乗る謎の男チャンが立ちはだかっていた。そして、壮絶な復讐劇が幕を開ける――。

全世界を騒然とさせた、
映画史に残る美しくも冷酷な復讐劇

pic2011年カンヌ国際映画祭で監督賞受賞、世界中で数々の賞を受賞した『ドライヴ』の主演ライアン・ゴズリングと監督ニコラス・W・レフンが再びタッグを組んだ最新作が遂に登場。ハリウッドや世界中からオファーが殺到しているニコラス・W・レフン監督が次に選んだ本作のテーマは、自身が長年囚われてきたと語る「神と対峙する男」。2013年カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に正式出品され、観客の想像を遥かに超えた映像美と、過激なアクション描写で上映後は騒然となった。

主人公・ジュリアンには盟友ライアン・ゴズリング。今やハリウッドで最も注目される実力派俳優の一人である。母親クリスタルには世界的評価の高い女優クリスティン・スコット・トーマス。謎の男・チャンには、ハリウッド映画にも出演している、タイ人俳優のヴィタヤ・パンスリンガムなど個性派が揃った。全世界で賛否両論を巻き起こし、観る者の想像力と感性を否応なく研ぎ澄まして、“観る覚悟”が試される挑戦的な映画がここに誕生した。

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オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
ONLY LOVERS LEFT ALIVE
(2013年 アメリカ/イギリス/ドイツ 123分 dcp ビスタ) pic 2014年5月10日から5月16日まで上映 ■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■製作 ジェレミー・トーマス/ラインハルト・ブルンディヒ
■撮影 ヨリック・ル・ソー
■編集 アフォンソ・ゴンサウヴェス
■音楽 ヨーゼフ・ヴァン・ヴィッセム

■出演 ティルダ・スウィントン/トム・ヒドルストン/ミア・ワシコウスカ/アントン・イェルチン/ジェフリー・ライト/スリマヌ・ダジ/ジョン・ハート

■第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/第38回トロント国際映画祭正式出品

世紀を越える愛

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謎のカリスマ・ミュージシャンとして活躍するアダムは、今を生きる吸血鬼。しかしここ近年の自己破滅的な人間たちの振る舞いにアダムは抑鬱を抱えていた。

そんなとき恋人イヴがデトロイトに住む彼の元を訪れる。もちろん、彼女も吸血鬼で2人は何世紀も愛し合い、生き続けてきた。久々の再会もつかの間、イヴの破天荒な妹エヴァが現れ、3人の運命は、ゆっくりと変わり始める…。

孤高の巨匠ジム・ジャームッシュ監督最新作!
この世で一番美しいアダムとイブの、
永遠に続くラブストーリー

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『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『コーヒー&シガレッツ』『ブロークン・フラワーズ』など、オフビートなユーモア感覚と秀逸な音楽センスで独自の世界観を繰り広げるジム・ジャームッシュ監督。本作は、米インディペンデント映画界の最大の巨匠と呼ばれ、マイペースに作品を作り続ける彼が実に7年間構想を温めていた4年ぶりの新作となる。本年度カンヌ、トロント国際映画祭に出品され、ジャームッシュ監督が描いたエレガントな吸血鬼のラヴ・ストーリーに世界中が釘付けとなった。

アダム役には『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』の悪役ロキで世界の注目を集めたイギリス人俳優トム・ヒドルストン。イヴ役には、『ムーライズ・キンダム』『ナルニア国物語』シリーズほか様々な分野で大活躍するティルダ・スウィントン。ほか、『アリス・イン・ワンダーランド』『イノセント・ガーデン』のミア・ワシコウスカ、ジャームッシュ作品では常連のジョン・ハートが脇を固める。

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