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ジム・ジャームッシュ

ジム・ジャームッシュ(監督・脚本)

1953年、オハイオ州アクロン生まれ。コロンビア大学卒業後、ニューヨーク大学フィルム・スクールに入学。卒業製作で手掛けた「パーマネント・バケーション」が話題になる。その後ニコラス・レイやヴィム・ヴェンダースの下で「ことの次第」などの製作助手をしながら、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の第一部を発表。84年に長編として再編集し、インデペンデン界の寵児となった。

現在はニューヨークを拠点に活動し、映画のほか、トーキング・ヘッズ、ビッグ・オーディオ・ダイナマイト、トム・ウェイツ、ニール・ヤング&クレイジー・ホースらのミュージックビデオも監督する。

フィルモグラフィ

・パーマネント・バケーション(1980)
・ストレンジャー・ザン・パラダイス(1984)
・ダウン・バイ・ロー(1986)
・ミステリー・トレイン(1989)
・ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)
・デッドマン(1995)
・イヤー・オブ・ザ・ホース(1997)
・ゴースト・ドッグ(1999)
・10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス“女優のブレイクタイム”(2003)
・コーヒー&シガレッツ(2003)
・ブロークン・フラワーズ(2005)
・リミッツ・オブ・コントロール(2009)

ほか撮影・出演など多数

今週の早稲田松竹はジム・ジャームッシュ監督特集。『リミッツ・オブ・コントロール』『コーヒー&シガレッツ』の二本立て。この二本を観るだけでミュージシャンからトップアクターまで揃いも揃って総勢約30人も観ることのできるクラクラするような組み合わせ。「制限」と「連環」の生み出す豊穣な想像の空間を「自由」と名付けてみなさまの来館をお待ちしております。

ロードムーヴィーとオムニバスロードムーヴィーとオムニバス形式の作品を多く撮ることで知られているジム・ジャームッシュ。ロードムーヴィーではストイックなまでに説明の抑制された話法や、大きな事件も起こらず停滞した時間の中で観客の感情にうねりを与え、それぞれのエピソードが有機的なつながりを持つオムニバス形式では異なる国や性別、事情を抱えた人々のすれ違いの様子をユニークに描き、ディスコミュニケーション自体をとろけさせてさせてしまう。その舌触りたるや一度味わえば二度目からは強烈な快感になってしまうから、ファンはやみつきになる。

今回併映する『コーヒー&シガレッツ』はオムニバス形式の中でも集大成と言える傑作。1986年から撮り始め、この作品が2003年の公開時の形になるまで17年も少しずつ撮りためてきた短編の集積だ。ジム・ジャームッシュ特有のオフビートなユーモアセンスの冴え方はこれ以上ないほどで、シーン&キャラクターで作られた映画の結晶と言えるだろう。

『ブロークン・フラワーズ』と『ゴースト・ドッグ』、そして『リミッツ・オブ・コントロール』この他にも、今回の『リミッツ・オブ・コントロール』が生まれるのに欠かせない作品が二つある(もちろん全てのフィルモグラフィを消化しながら作品作りを続けるジム・ジャームッシュには欠かせる作品などないのだが)。

『ブロークン・フラワーズ』では”あなたの息子がもうすぐ19歳になる“と書かれた手紙の差出人を探すために一人の男(ビル・マーレイ)が昔別れた女性たちのもとを訪ねて回るというシチュエーション下でそれぞれの女性たちとの心の探り合いを描いたもの。オムニバス的シチュエーションを横断するロードムーヴィーとも思える方法はキャラクターとシーンから、よりエモーショナルな物語を紡ぎ出す新しい方法だった。

さらに彼のフィルモグラフィ中で異色かつ重要な作品は『ゴースト・ドッグ』だ。鈴木清順『殺しの烙印』(1967) やジャン・ピエ−ル・メルヴィルの『サムライ』(1967)の影響が大きく見受けられるこの作品はフィルム・ノワール調のフォルムにRZAのヒップホップミュージックの響きが斬新な作品。それはロードムーヴィーでもオムニバスでもなく、「何もかもすっかり変わってしまった」以降の時代の西部劇を彷彿とさせる作品だった。通信手段は伝書鳩、愛読書は「葉隠」。武士道の精神で時代に立ち向かうその孤独な殺し屋(フォレスト・ウィテカー)は、使命を全うしながら、血が血を呼ぶ殺し合いを終結させる(最後には銃を捨てる)のだが、その勇志を見届けるのは親友役を演じるイザック・ド・バンコレだった。

そのイザック・ド・バンコレを主役に起用して作られた『リミッツ・オブ・コントロール』。「自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ」という一言だけを与えられて任務についた殺し屋、”孤独な男”。『ゴースト・ドッグ』の精神的な兄弟とも思える主人公の守るルールは、携帯も銃も仕事中のセックスもなしという殺し屋らしからぬ禁欲的なもの。前作の『ブロークン・フラワーズ』で見られるようなシーンとキャラクターから紡ぎ出す物語の語り方も健在の本作では、ジム・ジャームッシュの作品作りの充実ぶりを目撃できる。想像力だけを武器に戦う主人公の前に説明の一切は省かれ、途轍もなく広がる想像の荒野は私たちの目を画面に釘付けにする。

ジム・ジャームッシュの想像力これは映画か?という問いがジム・ジャームッシュの映画を観ると浮かぶ。大きなパラダイム・シフトの一端をジム・ジャームッシュという映画監督が背負っている気がしてならない。その影響が映画のみに留まらず、たとえばかつて保坂和志が柴崎友香の小説「きょうのできごと」のあとがきに「ジム・ジャームッシュ以降の作家」と書いていたことも同時に思い出す。移り行く風景をみつめて、私たちの想像力は開かれていく。きっと映画が私たちの目を変え始めているのだ。かつての学生にとってジャン・リュック・ゴダールがそうであったように、ジム・ジャームッシュの映画を観ることで「映画が作れるかもしれない」と思い立つ者も多いのではなかろうか。そこには共通する我々を掻き立てるものが存在するように思う。

一体想像力とはなんだろうか?シュミレーションすること?アイディア?ひらめき?しかし、どれも可能性の足し算のように扱われることが多い。ジム・ジャームッシュの映画を観て「掻き立てられるもの」はそうはこたえない。ただその「掻き立てられるもの」と出会ったときから止まない興奮と欲動がその人を支配し、動かし続けている。それこそが想像力ではないのだろうか?

ここまでミニマルなのにも関わらず彼の映画が秘める世界の広さとエネルギーは計り知れない。ちょうど押韻の規則に支配されると、すぐれた詩人はかえって、この上なく美しい詩句を見つけ出すようにジム・ジャームッシュの自由のための戦いはますます美しさを増して私たちを誘っている。

(ぽっけ)


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コーヒー&シガレッツ
COFFEE AND CIGARETTES
(2003年 アメリカ 96分 ビスタ/SR) 2010年4月17日から4月23日まで上映 ■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■撮影  トム・ディチロ/フレデリック・エルムズ/エレン・クラス/ロビー・ミューラー

■出演 ロベルト・ベニーニ/スティーヴン・ライト/ジョイ・リー/サンキ・リー/スティーヴ・ブシェミ/イギー・ポップ/トム・ウェイツ/アレックス・デスカス/イザック・ド・バンコレ/ジャック・ホワイト/アルフレッド・モリナ/スティーヴ・クーガン/ケイト・ブランシェット/ビル・マーレイ ほか

■カンヌ国際映画祭短編部門 パルム・ドール(カリフォルニアのどこかで)

■オフィシャルサイト http://c-cigarettes.com/

コーヒーを一杯、煙草を一服

picカフェを舞台に、コーヒーと煙草にまつわるエピソードを展開した11の短編集。コーヒーを飲みながら、煙草を吸いながら、様々な登場人物がひとくせある会話を繰り広げる。どうでも良いようで良くない、愛すべき珠玉の物語が集まった。ジャームッシュが10年以上もあたためてきた本作には、ジャームッシュ作品常連の俳優・女優からミュージシャンまで、魅力あるクセ者たちが勢ぞろい。彼らの多くは“自分自身”を演じ、彼らの性格にあわせて役作りが行われた。観終わった後の爽快な気分は、まるでカフェでの穏やかなひとときを過ごしたかのよう。あなたをめくるめく至福へと誘う、究極のリラックスムービー!

“自分自身”を演じる個性的な豪華キャストと、

アメリカの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」に依頼され『コーヒー&シガレッツ/変な出会い』を撮ったことが、この短編集の始まりだった。以来、長い時間をかけてプロジェクトは進行していく。登場人物や撮影された場所は11のストーリーごとに様々だが、『ナイト・オン・ザ・プラネット』などで試みられた、各エピソードを連結するジャームッシュ独特の仕掛けが随所に見受けられる。その仕掛けは本作中のみならず、過去の作品との間にも施されていることから、これまでの集大成的な要素も覗える作品となっている。

“酔いどれ詩人”ことトム・ウェイツ、圧倒的な存在感を放つミュージシャンのイギー・ポップ、インディーズムービーを代表する怪優スティーヴ・ブシェミなど、個性的な面々が異色な組み合わせで登場するのも見どころのひとつ。また、劇中に使用されるトム・ウェイツやイギー・ポップらの音楽にも要注目。ジャームッシュ作品を語る上で欠かせない重要な要素である音楽が、本作でも心地よいグルーヴで楽しませてくれる。


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リミッツ・オブ・コントロール
THE LIMITS OF CONTROL
(2009年 スペイン・アメリカ・日本 115分 ビスタ/SRD PG-12 2010年4月17日から4月23日まで上映 ■監督・脚本 ジム・ジャームッシュ
■製作総指揮 ジョン・キリク
■撮影 クリストファー・ドイル
■音楽 ボリス

■出演 イザック・ド・バンコレ/アレックス・デスカス/ジャン=フランソワ・ステヴナン/ルイス・トサル/パス・デ・ラ・ウエルタ/ティルダ・スウィントン/工藤夕貴/ジョン・ハート/ガエル・ガルシア・ベルナル/ヒアム・アッバス/ビル・マーレイ

■オフィシャルサイト http://loc-movie.jp/

無情な大河を下りながら―もはや船曳きの導きを感じなくなった アルチュール・ランボー『酔いどれ船』

pic自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ―という一言だけを与えられて任務についた殺し屋”孤独な男”がスペインの地に降り立った。彼にわずかな暗号を託すコードネームを持った仲間たち。「裏切り者がいる」その言葉とは裏腹に「自分も仲間ではない」と男は呟いた。マッチ箱から取り出される暗号、謎めいた発言と不審な人物たち。わずかな、情報ともいえない”しるし”から男は少しずつ標的に近づいていく。想像力だけを武器に、携帯も銃も仕事中のセックスもなしという殺し屋らしからぬルールを守りながら”孤独な男”は任務を遂行できるのか。そして、その標的の正体とは一体。

選び抜かれた“映像×音楽”の新たなる世界

pic主演はジャームッシュ作品4度目の出演となる盟友、イザック・ド・バンコレ。さらに工藤夕貴、オスカー女優・ティルダ・スウィントン、ビル・マーレイと監督作品のオールスターが集結。新たな顔ぶれとして、『アモーレス・ペロス』『モーターサイクル・ダイアリーズ』のガエル・ガルシア・ベルナルなど、ジャームッシュ史上最高にクールなキャストが集結した。

元クラッシュのジョー・ストラマーの遺言より、ジャームッシュがかねてから撮影することを夢見た色彩の国、スペインでのオールロケを敢行。『花様年華』などで世界中の注目を浴びるクリストファー・ドイルを撮影監督に迎え、まるでトリップするかのようなカメラワークが冴えわたる。そして音楽は、監督の強い希望により日本のロックバンドとして初のコラボレーションを遂げたボリス。エッジの効いた音と映像のマジックが新たな世界を描き出す。



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