サシャ・バロン・コーエン。
ただのクレイジー野郎と思しき過激発言や傍若無人な振る舞いの一方で、
アメリカの痴態を淡々と暴き出す才気を見せつけた、コメディ界の異端児です。
そんな彼が最新作『ディクテーター〜』のために選んだテーマは、「独裁 meets 民主主義」。
開始早々どーんと登場する“あの方”の肖像に度肝を抜かれたと思ったら、もう止まらない。
コーエン扮するアラジーン将軍のエキセントリックな挙動に、炸裂する猛毒ギャグ。
ぐぶふっ!っと吹きださずにはいられない中にも、
一筋縄ではいかない視点の鋭さを感じさせるのがコーエン流。
もしアメリカが独裁政治だったら?
そんなこと、考えたことがありますか。
独裁万歳! いったい民主主義のどこがいいんだ?
この問いかけに、あなたは即答できるでしょうか。
あらゆるボーダーを軽々と飛び越え、ひっちゃかめっちゃかにかき混ぜてしまう鮮やかさ。
マトモと思っていた世の中に対して、いつの間にか疑問符がついてしまう。
それがコーエン作品の面白さであり、また侮れないところでもあるのです。
本作のせいで北朝鮮から脅迫までされたという、体を、いや命までもを張った男の挑戦です(たぶん)。
もう一本の『ロック・オブ・エイジズ』では、
なんといっても主役を完全に食った異彩を放つトム・クルーズが激ヤバ。
この作品で新たに彼のファンになったという人も絶対いるはずです(私です)。
今回の役どころは、視線の一撃だけで失神者続出、
骨の髄からメロメロのトロトロ状態にさせてしまう超絶カリスマロックスター。
何万人ものファンを集めるライブパフォーマンスは、
もはやBon Jovi!? いやGuns N' Roses!?? と見紛うほど。
選ばれた人間しか持ちえない神オーラを身に纏いながらも、
一時代を築き上げた男の疲弊感とやさぐれ感まで醸し出し、しかも何故だか笑える。
これぞ、熟練の演技力というものでしょう。
もちろん、映画は総じて超エキサイティング。
ビッグな夢! 燃える恋! 輝く青春! かき鳴らすギター! 刻むビート!
目も眩むほどゴージャスなメアリー・J・ブライジ! キュートに壊れてるキャサリン・ゼタ=ジョーンズ!
胸躍る魅力がたっぷり詰まっています。
というわけで、特に共通点が見当たらない二本立てではありますが、
くっつけたら面白そうだという予感にどうしても抗うことができませんでした。
題して、「ハマるな危険! カリスマはいつもクレイジー」。
激しく華麗なひとときをお過ごしください。