ヴァージン・スーサイズ
THE VIRGIN SUICIDES
(1999年 アメリカ 98分)
2004年11月20日から11月26日まで上映
■監督・脚本 ソフィア・コッポラ
■原作 ジェフリー・ユージェニデス
■出演 キルステン・ダンスト/ハンア・ホール/ジェームズ・ウッズ/キャスリーン・ターナー/ジョナサン・タッカー/ジョシュ・ハートネット
■2001年MTVムービー・アワード新人監督賞受賞
★本編はカラーです
最初はセシリアだった。空に飛び交うヘビトンボが美しい郊外の町を多い尽くす6月、聖母マリアの写真を胸に抱きながら、彼女はバスタブで手首を切った。なんとか一命を取り留めたものの、わずか13歳の少女が下した決断に周囲の大人たちは困惑する。「人生の辛さもまだ知らない年なのに」という医師に対し、セシリアは言い放った。「先生は13歳の女の子になったことないじゃない」
父は数学教師、母は厳格で敬虔なクリスチャンであるリズボン家には、ブロンドの髪を持つ美しい5人姉妹がいた。セシリア13歳、ラックス14歳、ボニー15歳、メアリー16才、テレーズ17歳。最初の自殺未遂から2週間後、セシリアは再び窓から身を投げた。そしてセシリアの死から1年も経たないうちに、残りの姉妹も全て自殺してしまった。
彼女たちは世界中の光を集めたように輝いていて、僕らはその光に触れようと、必死で手を伸ばしたけれど、彼女たちはあざ笑うかのように指をすりぬけてしまう。あれから25年が経った。僕らだけが大人になり、彼女たちは今も僕らの記憶の中で、相変わらず輝き続ける…
ジェフリー・ユージェニデスの原作『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』を読んで惚れ込んだソフィア・コッポラが自分で脚本を書き上げ、自ら監督も手がけた。原作と同じく、大人になった少年が当時を回想する形で語られていく展開は、原作の魅力をそのまま引き継いでいる。
しかし少年たちの憧れというフィルターを通して描かれる姉妹像は、映画のほうがより一層きらきらとした魅力にあふれ、その神格化され具合は恋愛初期の心象をとてもシンボリックに表現している。
ソフィア・コッポラといえばキム・ゴードンと並び90年代後半のガーリーカルチャーの立役者だが、フォトグラファー・デザイナー・モデルなど、彼女が展開してきた多岐な活動の、すべてのエッセンスが垣間見え、デビュー作にして彼女の、またガーリーカルチャーの集大成とも言える映画である。
それはオープニングの数ショットから明白に現れていて、音楽の使い方や全体の色彩感覚、ファッションや小道具など、映画をつくっている要素のひとつひとつに目を向ければきりがない。
下着にこっそり書いた男の子の名前、十字架にひっかかった下着、ごちゃごちゃに散らかった化粧道具や香水瓶…。部屋のだらしない散らかり具合ひとつ取り上げても妙に女の子的なリアルさがあって、だからこそそういう小さなところにすら、未熟でいながら現実に辟易して絶望した姉妹の心情がとても伝わるのだ。
タイトルは直訳すれば「処女の自殺」とか「汚れない自殺」という意味だが、自殺がテーマの映画ではない。自殺はあくまで象徴でしかなく、これはむしろ少女性の喪失を具現している映画だ。この年代に特有の、未成熟であるが決してイノセントではない危うい生態を、陳腐に貶めず繊細に描きあげていて、とても苦しくて切ない。10cc、トッド・ラングレン、ハートといった、当時の空気を再現する70sロックと、フランスのテクノユニットAIRの甘く切ない旋律の融合で引き出される、音楽の効果も素晴らしい。
(mana)
ロスト・イン・トランスレーション
LOST IN TRANSLATION
(2003年 アメリカ 102分)
2004年11月20日から11月26日まで上映
■監督・製作・脚本 ソフィア・コッポラ
■撮影 ランス・アコード
■出演 ビル・マーレイ/スカーレット・ヨハンソン/ジョバンニ・リビシ/アンナ・ファリス/竹下明子/マシュー南(藤井隆)/田所豊(DIAMOND☆YUKAI)/林文浩/HIROMIX/藤原ヒロシ
■2003年アカデミー賞脚本賞受賞、作品・監督・主演男優賞ノミネートほか
★本編はカラーです
(C)東北新社「眠れないの」「僕もだ」
フォトグラファーの夫の仕事に同行してきた若妻シャーロットと、コマーシャル撮影の為来日したハリウッドスターのボブ。それまで見ず知らずの他人であった二人は、異国の地、東京のホテル パークハイアットのバーラウンジではじめて言葉を交わす。
お互いの孤独と不安が呼び寄せたその出会いは、やがて二人だけが共有する不思議な絆へと変わっていく。日中はスシ屋やシャブシャブ屋でランチを共にし、夜はホテルの部屋で枡酒を飲みながら古い映画を見て時を過ごす。二人が交す言葉の数は決して多くはない。今まで誰にも話せなかった心の奥底の不安や悩みを告白し合ううち、胸にしまい込んだわだかまりが溶けていくように感じられるのだった。そしてそんな孤独感を共有した2人に、やがて別れのときが近づく…
初監督作『ヴァージン・スーサイズ』でその鋭敏な感性を世界中に披露したソフィア・コッポラ。監督第二作である本作で表現されたリリカルなメッセージは、早くも巨匠の域に達した。
繊細にして大胆、なおかつ丁寧なフレームワークは「スナップショットを撮るような、インフォーマルな感覚」を目指して実現された。オール東京ロケ、スタッフの90%が日本人、画面には、わたし達日本人が見慣れた風景。それらのインフォメーションはたとえ「東京」がロンドンであってもN.Y.であっても同じ効果をもたらしたであろう。映画の視点はソフィア・コッポラのものであり、本作の主人公シャーロットやボブのものであるから。
しかし本作ではソフィアが「東京」にこだわった。だからこそ、スクリーンの向こう側、普段見慣れた風景はきっと、旅情的でメランコリックなものに感じる事ができるだろう。わたし達が普段気付かない、あるいは気付いているけれど通り過ぎてしまっているものをこの映画は映し出す。
本作はゴールデングローブ賞他数々の映画賞で作品賞を受賞し、主演男優(ボブ役ビル・マーレー)、主演女優(シャーロット役スカーレット・ヨハンソン)、オリジナル脚本(ソフィア監督による)、そして監督自身がそれぞれ、アカデミー賞各部門ノミネートをはじめ、多くの賞に輝いた。
(Ben)