監督■ウディ・アレン
1935年、ニューヨーク州ブルックリン生まれ。高校時代からギャグ作りを始め、ニューヨーク大学では映画製作を専攻。TVバラエティや舞台などで台本を手がけ、65年『何かいいことないか子猫チャン』の脚本兼出演者として映画デビュー。77年『アニーホール』でアカデミー監督・脚本賞を受賞するが授賞式には姿を現さず、マンハッタンのクラブでクラリネットを演奏していた。その後もアカデミー賞を欠席し続けるも、ノミネートされたのは21回と最多である。俳優、脚本家、小説家、クラリネット奏者など様々な顔を持つ、いわゆるニューヨーク派の監督の一人。
・『何かいいかことないか子猫チャン』('65)脚本/出演
・『007/カジノ・ロワイヤル』('67)出演
・『泥棒野郎』('69)監督/共同脚本/出演
・『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』('72)監督/脚本/出演
・『ボギー!俺も男だ』('72)脚本/出演
・『スリーパー』('73)監督/脚本/音楽/出演
・『アニーホール』('77)監督/脚本/出演
・『インテリア』('78) 監督/脚本
・『マンハッタン』('79)監督/脚本/出演
・『スターダスト・メモリー』('80)監督/脚本/出演
・『サマーナイト』('82)監督/脚本/出演
・『カメレオンマン』('83)監督/脚本/出演
・『ブロードウェイのダニー・ローズ』('84)監督/脚本/出演
・『カイロの紫のバラ』('85)監督/脚本
・『ハンナとその姉妹』('86)監督/脚本/出演
・『ラジオ・デイズ』('87)監督/脚本/ナレーター
・『セプテンバー』('87)監督/脚本
・『私の中のもうひとりの私』('88)監督/脚本
・『ニューヨーク・ストーリー』('89)エピソード『エディプス・コンプレックス』監督/脚本/出演
・『ウディ・アレンと重罪と軽罪』』('89)監督/脚本/出演
・『アリス』('90)監督/脚本
・『結婚記念日』('91)出演
・『ウディ・アレンの影と霧』('92)監督/出演
・『夫たち、妻たち』('92)監督/脚本/出演
・『マンハッタン殺人ミステリー』('93)監督/脚本/出演
・『ブロードウェイと銃弾』('94)監督/脚本
・『魅惑のアフロディーテ』('95 監督/脚本
・『世界中がアイ・ラブ・ユー』('96)監督/脚本/出演
・『地球は女で回ってる』('97)監督/脚本/出演
・『セレブリティ』('98)監督/脚本
・『アンツ』('98)声の出演
・『ギター弾きの恋』('99)監督/脚本/出演
・『ヴァージン・ハンド』('99)出演
・『おいしい生活』('00)監督/脚本/出演
・『スコルピオンの恋まじない』('01)監督/脚本/出演
・『さよなら、さよならハリウッド』('02)監督/脚本/出演
・『僕のニューヨークライフ』('03)監督/脚本/出演
・『メリンダとメリンダ』('04)監督/脚本
・『マッチ・ポイント』('05)監督/脚本
・『タロットカード殺人事件』('06)監督/脚本/出演
・『ウディ・アレンの夢と犯罪』('07) 監督/脚本
・『それでも恋するバルセロナ』('08)監督/脚本
*日本公開作品のみ
監督■マーティン・スコセッシ
1942年、ニューヨーク州クイーンズ生まれ。幼少期から映画に親しむも、最初はカトリックの祭司を目指していた。のちにニューヨーク大学の映画学部で学び、『明日に処刑を…』を監督。続く『ミーン・ストリート』で独自のスタイルを確立し、76年にはロバート・デ・ニーロを主演に迎えた『タクシードライバー』が大反響を呼んだ。以後、2人のコラボレーションで多くの作品を生み出した。01年の『ギャング・オブ・ニューヨーク』からはレオナルド・ディカプリオとのコンビ作が続いている。アカデミー賞では5度も監督賞にノミネートされながら受賞には至らない「無冠の名監督」であったが、06年の『ディパーテッド』で6度目の監督賞候補となり、ついに悲願のオスカー初受賞となった。現在もニューヨークを拠点に活動を続けている。
・『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』('70)監督/編集
・『明日に処刑を…』('72) 監督
・『ミーン・ストリート』('73)監督/脚本
・『アリスの恋』('74)監督
・『タクシードライバー』('76)監督/出演
・『ニューヨーク・ニューヨーク』('77)監督
・『レイジング・ブル』('80) 監督
・『キング・オブ・コメディ』('83)監督
・『アフター・アワーズ』('85)監督
・『ラウンド・ミッドナイト』('86)出演
・『ハスラー2』('86)監督
・『最後の誘惑』('88)監督
・『ニューヨーク・ストーリー』('89)監督
・『夢』('90)出演
・『グリフターズ/詐欺師たち』('90)製作
・『グッドフェローズ』('90)監督/脚本
・『真実の瞬間(とき)』('91)出演
・『ケープ・フィアー』('91)監督
・『キング・オブ・アド』('91)監督
・『恋に落ちたら…』('93)製作
・『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』('93)監督/脚本
・『クイズ・ショウ』('94)出演
・『クロッカーズ』('95) 製作
・『カジノ』('95)監督/脚本
・『サーチ&デストロイ』('95)出演/製作総指揮
・『グレイス・オブ・マイ・ハート』('96)製作総指揮
・『ステューピッド・イン・ニューヨーク』('97)製作総指揮
・『クンドゥン』('97)監督
・『ハイロー・カントリー』('98)製作
・『ハリウッド・ミューズ』('99)出演
・『救命士』('99) 監督
・『アルマーニ』('00) 出演
・『ギャング・オブ・ニューヨーク』('01) 監督/製作
・『チャーリー・チャップリン ライフ・アンド・アート』('03)出演
・『ゴッドファーザー&サン』('03)製作総指揮
・『デビルズ・ファイヤー』('03)製作総指揮
・『ロード・トゥ・メンフィス』('03)製作総指揮
・『レッド、ホワイト&ブルース』('03)製作総指揮
・『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』('03)監督/製作総指揮
・『ソウル・オブ・マン』('03)製作総指揮
・『アビエイター』('04)監督
・『ライトニング・イン・ア・ボトル 〜ラジオシティ・ミュージックホール 奇蹟の夜〜』('04)製作総指揮
・『シャーク・テイ』('04)声の出演
・『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』('05)監督/製作
・『LONDON CALLING/ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー』('06)出演
・『ディパーテッド』('06)監督/製作
・『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』('08)監督/出演
・『ヴィクトリア女王 世紀の愛』('09)製作
・『ラスト・ワルツ』('78)監督
・『シャッター アイランド』('09)監督/製作
*日本公開作品のみ
今週の早稲田松竹は、ウディ・アレン×マーティン・スコセッシ。『ウディ・アレンの夢と犯罪』と『シャッター アイランド』のニューヨーク出身の映画監督の最新作二本立て。それぞれの監督についての映画を十分すぎるほど皆さまと語り合いたい作家たちです。すでに彼らの作品ならば、ほとんど観ている!という方も多いはず。私は今週の二作品を“出口のない海”と称してご紹介したいと思います。
夢、犯罪、精神病、監獄・・・一般に普段社会生活をしているところではあまり深く接触しない事柄たち。オフィスでの仕事中や、恋人とのデートの最中、車の運転をしているときにこんなことを考えてはいけません。普段これらのことを思い悩んでいては“必要なこと”を遂行できないことを私たちはよく知っているからです。しかし、これらの事に秘められた真実が日常を穿った時に為す術を、私たちは知らないのではないでしょうか。その穴を覗いた人たちのことをロンドン三部作の最終作『ウディ・アレンの夢と犯罪』を撮り上げたウディ・アレンは彼らしい言い回しで言っています。
そして迷うことと似て、人には心に抱えた弱さと裏腹に断固として譲らない偏屈な考え方をしてしまうこともあることを、マーティン・スコセッシ監督に繰り返し描かれるキャラクターはよく教えてくれます。偏屈で、思い込みが強くて、とても社会的とは思えない行動に出て、自分の考えていることがすべてのように振る舞う人物。一昔前には『タクシー・ドライバー』や『レイジング・ブル』『ミーン・ストリート』のような作品で、ロバート・デ・ニーロがそれを象徴するキャラクターを演じていたように思います。
特に『ケープ・フィアー』でのロバート・デ・ニーロの役はその中でもひどく屈折した人物でした。復讐を合法的に遂行する−それは凄惨な犯行への決め付けで、刑を軽くすることの可能な(裁判で有利な)情報を隠蔽した自らの弁護士に対する復讐でした。正義とは何か?公平とは何か?お門違いとも言われそうな“悪役”の復讐はならずとも、渦の中に消えていくその姿に恐怖と悲哀、なぜか観客にさえ言い訳を許さないような“罪悪感”を感じさせる視線を今でも覚えています。
そして今回『シャッター アイランド』に主演しているのは、レオナルド・ディカプリオ。彼は『ギャング・オブ・ニューヨーク』以来、マーティン・スコセッシとタッグを組んで大作を生み出してきました。ロバート・デ・ニーロと違うのは、所謂アウトサイダーとして描かれることがないことでしょうか。しかしそれでも、端正な顔立ちに繊細な感情を宿らせていた天使のような子役時代と違って、レオナルド・ディカプリオの眉間の皺は作品ごとに深くなるばかりです。
殺された父のための、ギャングの親分(父性)への復讐(裏切り)。(『ギャング・オブ・ニューヨーク』)
潔癖症でありながら大富豪。(『アビエイター』)
警察官でありながらマフィア。(『ディパーテッド』)
いわば分裂された純粋な感情と社会の抑制との間にあの眉間の皺はあると言える気もします。二つに分裂した額はそれぞれを裏切り、その罪悪感に苛まれながらも強引に進んでいく…。
彼らの漕ぎ出した舟は彼岸に辿りつくことができるのでしょうか。あるいは「人生において確実なのは”死ぬこと”だけだ」と『ウディ・アレンの夢と犯罪』の劇中で言われるように、最期の時を待つしかないのでしょうか。監督たちは映画のラストにそれぞれの物語に与えられた奇跡的な瞬間を描きだします。この輝きが希望の灯なのかどうかは分かりません。あるいは悲惨と思う人もいるでしょう。それでも、“出口のない海”にはそれが何の光だとしても、照らす光が多ければそれに越したことはないのではないか。寂しくならないもんな、とそんなことを私は思うのでした。
是非とも、皆様のご感想をお待ちしております。
2010年9月4日から9月10日まで上映
■監督・脚本 ウディ・アレン
■撮影 ヴィルモス・ジグモンド
■編集 アリサ・レプセルター
■音楽 フィリップ・グラス
■出演 ユアン・マクレガー/コリン・ファレル/ヘイリー・アトウェル/サリー・ホーキンス/トム・ウィルキンソン/フィル・デイヴィス/ジョン・ベンフィールド/クレア・ヒギンズ
きらびやかなビジネスの世界での成功を夢見るイアンと、酒とギャンブルと恋人と過ごす日々にそれなりの充足感を得ているテリー。そんな彼らの人生が、ふとしたきっかけでドラマチックにうねり出す。イアンは若く美しい舞台女優アンジェラに心奪われ、彼女との優雅な新生活を実現させようと焦りを募らせていく。一方、テリーは出来心でのめり込んだポーカー勝負で惨敗し、巨額の借金を背負うはめに。その苦境を救ってくれるはずの大金持ちの伯父ハワードからある頼みごとを持ちかけられた兄弟は、とてつもない代償を伴う人生の賭けに身を投じていく…。
人生の不条理をお好み次第でコメディ、ミステリー、ロマンス、心理ドラマなどに仕立ててきたアレンが、今回は究極の悲劇に挑戦。ギリシャ神話やドストエフスキーに代表されるロシア文学の影響を色濃く滲ませながら、破滅への坂道を転がり落ちる兄弟の姿を映し出す。人間という生き物の切なさやおかしさを、丸ごとあぶり出す鋭い観察眼とユーモア。そして登場人物がところどころで出くわす運命の分かれ目に観る者を立ち会わせ、さりげなく手に汗握らせるサスペンスの妙。さすがはアカデミー賞の脚本賞ノミネート歴が実に14回を数える話術の達人、アレンの魔法の威力に脱帽の一作と言えよう。
2010年9月4日から9月10日まで上映
■監督 マーティン・スコセッシ
■脚本 レータ・カログリディス
■原作 デニス・ルヘイン『シャッター・アイランド』(早川書房刊)
■撮影 ロバート・リチャードソン
■音楽監修 ロビー・ロバートソン
■出演 レオナルド・ディカプリオ/マーク・ラファロ/ベン・キングズレー/ミシェル・ウィリアムズ/エミリー・モーティマー/マックス・フォン・シドー/パトリシア・クラークソン/ジャッキー・アール・ヘイリー/イライアス・コティーズ
精神を患った犯罪者だけを収容する絶海の孤島“シャッター アイランド”。四方を海に囲まれた厳戒な監視体制の中、一人の女性患者が失踪した。患者の名前はレイチェル・ソランド。3人の子供を溺死させた罪で収容されていた彼女は、鍵のかかった病室から煙のように消えてしまったのだ。ハリケーンが直撃した島で、連邦保安官のテディは洞窟に潜んでいる謎の女性を発見する。もしかすると、彼女が失踪したレイチェルではないか?疑念を持つテディに向かって、彼女は驚くべき一言を発する。「あなたは島から出られない。わかっているでしょう?」…この島は、何かがおかしい。深まる謎に囚われたテディに、不可解な出来事か次々と襲いかかる!
アカデミー賞受賞作品『ミスティック・リバー』の原作者デニス・ルヘインの超絶ミステリー小説をマーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオ主演で完全映画化!全米で公開されるや否や堂々の1位に、オープニング興行収入では、過去のディカプリオ主演作品、スコセッシ監督作品全てを抜く歴代1位の記録を樹立した。残された暗号、消えた医師、厳重警備の廃灯台、何かを隠すような職員たち。あなたは巧妙に仕組まれた数々のヒントを見つけ出し、驚愕の真相を見破ることができるだろうか?