恋の風景
FLOATING LANDSCAPE/戀之風景
(2003年 香港/日本/中国/フランス 105分)
2005年10月15日から10月21日まで上映
■監督・脚本・編集 キャロル・ライ
■脚本 ライ・ホー
■イラストレーション ジミー(『ターンレフト ターンライト』原作)
■出演 カリーナ・ラム/リィウ・イエ(『小さな中国のお針子』『山の郵便配達』)/イーキン・チェン
(C)ユーロスペース“恋の風景”――。それは誰もが心のなかに持っている風景。
病死した恋人サムが遺した一枚の絵。そこに描かれた風景を求めて、マンは香港から青島(チンタオ)にやってくる。サムの日記を一日ずつ書き写しながら、恋人の風景を探し求めるマン。ある日、郵便配達をしながら絵本作家を目指すシャオリエと出会い、彼の優しさに気持が揺さぶられていく。しかし彼女は、サムへの思いが徐々に自分の中から失われていくことに動揺し、過去の思い出に生きようとする。新たな人生を踏み出せぬまま、季節の変わり目をむかえるマン。しかし、愛はゆるやかに、おだやかに、傷跡が残るその心を繕っていく…。
冬の青島の風景は、あたかも彼女の視線を介したかのように、暗く、陰影に富んだ沈鬱なトーンでとらえられている。一方、彼女の回想のなかに現れるサムとの至福の時間は、パステル画や淡彩のスケッチを思わせる美しい色調で描かれており、際立った対照をみせている。
この作品の監督は、これが長編第二作目となるキャロル・ライ。長編デビュー作『金魚のしずく』では、透明感あふれるポップ・アートのような斬新な映像センスが注目され、一躍、香港インディーズ・シーンに久々に現れた逸材として高い評価を受けた。『恋の風景』ではキャロル・ライの特異な色彩感覚はより先鋭的になっており、その卓越した才能を鮮やかに示したといえるだろう。
この作品で注目すべきは、監督のたっての希望で、台湾の人気作家ジミー(幾米)の作品が使われていること。一見ペイネを思わせるロマンティックな作風が特徴だが、白血病で死を意識したことをきっかけに創作活動をはじめたというだけあり、常に<喪失>の感情を内包させた<再生>への美しい祈りが込められている。そんなジミーの世界とキャロル・ライ監督の世界が共鳴し合い、見事な映像に仕上がっている。
恋人との死別―-。絶望の中で人は、失った人生をもう一度同じ愛で取り戻すことができるのであろうか。光と闇。喪失と再生。重さと軽さ。愛の痛み、あるいは悦び。人生に流れゆくそれらすべてこそが、生きることそのもであることを、愛の可能性を持って描いている。
(nico)
故郷の香り
NUAN / 暖
(2003年 中国 109分)
2005年10月15日から10月21日まで上映
■監督 フォ・ジェンチイ(『山の郵便配達』)
■原作 モー・イェン (『至福のとき』原作)
■脚本 チウ・シー (『ションヤンの酒家』)
■出演 グオ・シャオドン/リー・ジア/香川照之
「僕を恨んでる?」──「恨みたいのはこの天気だけよ」
北京の役所に勤めるジンハー(グォ・シャオドン)が10年ぶりに故郷に帰ってきた。恩師を助けるという用件を無事に終え、妻と子供達が北京へ帰ろうとしていたその時、橋の上で一人の女とすれ違う。柴を担ぎ汗と泥にまみれた女であったが、その強い瞳には見覚えがあった。その女こそ、ジンハーの初恋の相手、ヌアン(リー・ジア)であった。彼女を呼び止めたものの、気が動転したジンハーは口走る「僕を恨んでる?」
恩師から、ヌアンが幼馴染の一人で、耳が不自由で口も利けないヤーバ(香川照之)と結婚したことを聞く。しかも彼らの間には娘までいるという。翌日、ヌアンとヤーバを訪ねたジンハー。酒を酌み交わし、ヤーバは先に酔っ払って眠ってしまう。ヌアンとジンハーは思い出話に花を咲かせる。街にやってきた劇団員へのヌアンの初恋、そしてジンハーの嫉妬。ジンハーからヌアンへの初めての告白。そして、二人で乗ったブランコのこと。 夜が明け、ジンハーが北京へ経つ時がやってくる。
派手な仕掛けを用意せず、淡々と物語が進んでいくさまと、中国の山間の風景は、同監督の『山の郵便配達』とも通じる。思えば、『山の郵便配達』は父子の話が核になっているとはいえ、そこにはほとんど画面に登場しない母親の姿があった。そして彼女は山間の故郷の村をいつでも恋焦がれており、その「秘めた想い」は物語の底流となっていた。
今作では、初恋にまつわる身勝手さ、後悔の念、決して戻ることの出来ない月日への想いが物語の核となっている。しかし、出色は香川照之の確かな演技力によって裏打ちされた、ヤーバの「秘めた想い」であり、今作を忘れられない映画にしている最大の要因であるように感じられる。
(Sicky)