【2024/12/14(土)~12/20(金)】『きみの色』『化け猫あんずちゃん』// 特別レイト&モーニングショー 映画『聲の形』

ちゅんこ

アヌシー国際アニメーション映画祭で上映され大きな話題となり、続く上海国際映画祭にて、金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞した『きみの色』は、全世界が注目するアニメーション監督・山田尚子待望の最新作にして、初のオリジナル長編映画だ。アニメファンのみならず、普段あまりアニメーションを観ない人々からも熱烈な支持を集める山田監督の魅力は、彼女にしか描けないその作家性にある。

『きみの色』の主人公・トツ子は、子どものころから人が「色」で見える。一見特殊な設定のようにも思えるが、山田監督はインタビューの中でトツ子の「色を感じる」というのも、そのことを特別なこととして描きたかったわけではないと答えている。

「何でも簡単にカテゴライズしてしまうのではなくて、曖昧模糊としたものをそのまま提示することの価値もある気がするんです。(中略)言葉にならないものはそのままでいい。そうやって受け止めたものも、とても大切だと思うので」(「キネマ旬報8月号」より)

さりげない日常生活の中で、細やかな人物描写に定評のある山田監督は、アニメーション作品を監督するうえで最も大事なのはキャラクターを愛することだという。

「皮肉めいたものの見方をしない。彼ら・彼女らの尊厳を踏みにじらない。見られたくないと思う瞬間に、わざわざ正面に回ってアップにするようなことはしない。興味本位で撮らない」(「キネマ旬報8月号」より)

その繊細な映像表現は、こんなところにも表れている。映画『聲の形』はいじめがひとつの重要なキーワードになっている。高校生の将也は周囲から孤立し、他人の顔を見ることを避けるように俯いて足元ばかりを見ている。たとえばほかのアニメーション作品だったらこんなとき、主人公の苦悩にフォーカスした映像を映し出しそうなものだが、山田作品はそのことだけを特別に強調したりはしない。キャラクターたちの苦悩がどれほど深くても、その周囲には青い空が広がり、花や植物が息吹き、美しい世界が広がっている。

映画『化け猫あんずちゃん』は、お寺の和尚さんに拾われた化け猫のあんずちゃんが繰り広げる日常を描いた、いましろたかしの原作を、イラストレーター・漫画家としても活躍するアニメーション作家の久野遥子と、『リンダリンダリンダ』(2005)『カラオケ行こ!』(2024)などでも知られる山下敦弘監督が映画化した、異色のアニメーションだ。

『化け猫あんずちゃん』はロトスコープという手法で作られている。これは実写で撮影した映像をトレースしアニメーションにする技法だ。手法自体は古くからあり、日本では一部の場面で限定的にロトスコープを活用しているケースが多いのだが、本作がすごいのは、なんと一度すべての映画を実写撮影した後、登場人物たちの肉感や温もりを再度アニメーションに変換していることだ。人の動きをトレースするといっても、ただそのままなぞればいいわけではない。どの動きをどこまで拾うかは、作り手のセンスが大きく影響する。実写とアニメーションの表現の違いについて、久野監督は、商業的なアニメと実写の現場は進め方が逆だという印象を受けると、以前インタビューで答えている。

「アニメは最初にカットを全て決めてしまって、そこから絵の印象や背景をどうするかなど、ちょっとずつ広げるというやり方です。実写は撮ったものから絞り込んでいくという感じですよね。映画には偶然による奇跡ってあると思うんです。商業アニメの作り方だとそれが起きにくい。でも、ロトスコープはアニメーションでアクシデントを起こすために有効だと思います」(「Real Sound」“『音楽』岩井澤健治×久野遥子対談」”より)

つまり本作は、アニメと実写両方の良いところを同時に楽しめる作品であるとも言えよう。『化け猫あんずちゃん』は、カンヌ国際映画祭「監督週間」に選出された後、『きみの色』と並び、アヌシー国際アニメーション映画祭にも出品され、高い評価を得た。

今週は新時代を切り拓く、珠玉のアニメーションWEEKです。どうぞお楽しみください。

化け猫あんずちゃん
Ghost Cat Anzu

久野遥子 | 山下敦弘監督作品/2024年/日本・フランス/94分/DCP/ビスタ

■監督 久野遥子/山下敦弘
■原作 いましろたかし(講談社 KCデラックス 刊)
■脚本 いまおかしんじ
■キャラクターデザイン 久野遥子
■作画監督 石舘波子/中内友紀恵 
■撮影監督 牧野真人
■編集 小島俊彦 
■音楽 鈴木慶一
■主題歌 佐藤千亜妃「またたび」(A.S.A.B)

■声の出演  森山未來/五藤希愛/青木崇高/市川実和子/鈴木慶一/水澤紳吾/宇野祥平

■第77回カンヌ国際映画祭「監督週間」選出/アヌシー国際アニメーション映画祭2024長編コンペティション部門正式出品 ほか多数ノミネート

©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

【2024/12/14(土)~12/20(金)上映】

「母さんに会いたい。」母を亡くした少女と共に向かうのは地獄の果て―

雷の鳴る豪雨の中。お寺の和尚さんは段ボールの中で鳴いている子猫をみつける。その子猫は「あんず」と名付けられ、それは大切に育てられた。時は流れ、おかしなことにあんずちゃんはいつしか人間の言葉を話し、人間のように暮らす「化け猫」になっていた。移動手段は原付。お仕事は按摩のアルバイト。現在37歳。そんなあんずちゃんの元へ、親子ゲンカの末ずっと行方知れずだった和尚さんの息子・哲也が11歳の娘「かりん」を連れて帰ってくる。しかしまた和尚さんとケンカし、彼女を置いて去ってしまう。大人の前ではいつもとっても“いい子”のかりんだが、お世話を頼まれたあんずちゃんは、猫かぶりだと知り、次第にめんどくさくなっていく。かりんは哲也が別れ際に言った「母さんの命日に戻ってくるから」という言葉を信じて待ち続けるも、一向に帰ってこない。母親のお墓に手を合わせたいというささやかな望みさえ叶わないかりんは、あんずにお願いをする。「母さんに会わせて」
たった一つの願いから、地獄をも巻き込んだ土俵際の逃走劇が始まるんだニャ。

実写×アニメーション 日本×フランス ジャンルや国を超えた才能がタッグを組んだ、前代未聞のアニメーション映画!

アニメーション・イラストレーター・漫画家と各方面から熱い支持をうける気鋭のクリエイター久野遥子監督。長年映画ファンから絶大な支持を集め続ける日本映画名手・山下敦弘監督。主役である「あんずちゃん」には数々の話題作に出演し、俳優だけでなく多岐に渡るジャンルで活躍を続ける森山未來。日本の芸術分野をけん引する才能が集結し、いましろたかし原作の『化け猫あんずちゃん』がアニメーション映画化された。本作では実写で撮影した映像からトレースし、アニメーションにする「ロトスコープ」という手法を採用。山下監督ら実写映画班が撮影した映像や音声をもとに、久野監督が緻密な芝居から抽出するエッセンスを吟味し、アニメーションを作り上げている。

森山の他キャスト(声・動き)に、あんずちゃんと共に過ごす少女“かりん”を山下監督の『1秒先の彼』でもフレッシュな魅力を発揮した五藤希愛、かりんの父を青木崇高、母を市川実和子、おしょーさんを鈴木慶一、さらに水澤紳吾、吉岡睦雄、宇野祥平ら名バイプレイヤーたちも集結。鈴木は本作の音楽も担当し、独特な世界観を味のある繊細な音楽で彩る。また主題歌を佐藤千亜妃が本作のための新曲『またたび』を書き下ろした。

一方アニメーションは、日本のアニメ会社「シンエイ動画」とフランスの気鋭スタジオ「Miyu Productions」が日仏共同で制作。キャラクターデザインは監督である久野が自ら手掛け、作画監督を久野の大学時代の同窓生でもある石舘波子(『ペンギン・ハイウェイ』作画監督)、中内友紀恵(『あはれ!名作くん』作画)が務めている。本作ならではの最強の布陣が実現した。

きみの色
The Colors Within

山田尚子監督作品/2024年/日本/100分/DCP/ビスタ

■監督 山田尚子
■脚本 吉田玲子
■キャラクターデザイン・作画監督 小島崇史
■キャラクターデザイン原案 ダイスケリチャード
■撮影監督 富田喜允
■編集 廣瀬清志
■音楽・音楽監督 牛尾憲輔
■主題歌 Mr.Children「in the pocket」

■声の出演 鈴川紗由/髙石あかり/木戸大聖/やす子/悠木碧/寿美菜子/戸田恵子/新垣結衣

■第26回上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞受賞/アヌシー国際アニメーション映画祭2024長編コンペティション部門出品

©2024「きみの色」製作委員会

【2024/12/14(土)~12/20(金)上映】

わたしが惹かれるのは、あなたの「色」。

高校生のトツ子は、人が「色」で見える。嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。そして、自分の好きな色。ある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、音楽好きの少年・ルイと古書店で出会う。勝手に退学したことを、家族に打ち明けられないきみ。母親からの将来の期待に反して、隠れて音楽活動をしているルイ。そして、自分の色だけは見ることができないトツ子。それぞれが誰にも言えない悩みを抱えていた。3人はバンドを組むことになり、音楽で心を通わせていくにつれ、友情とほのかな恋のような感情が生まれ始める…。

全世界が注目するアニメーション監督・山田尚子 「音楽×青春」集大成となる待望の完全オリジナル長編最新作

社会現象を巻き起こした『映画 けいおん!』、国内外問わず高い評価を受けた名作『映画 聲の形』、両作品の監督を務めた山田尚子は、稀有な映像センスと、小さな心の揺れ動きさえ表現していく繊細な演出で、全世界から最も脚光を浴びるアニメーション監督の一人となった。

待望の最新作となる映画『きみの色』は、山田監督が最も得意とする「音楽×青春」の物語。脚本は「けいおん!」シリーズ以降、幾度となく山田監督とタッグを組む吉田玲子。音楽・音楽監督は『映画 聲の形』など山田監督作品のほか、「チェンソーマン」を担当する牛尾憲輔。そして、キャラクターデザイン・作画監督を小島崇史、キャラクターデザイン原案をダイスケリチャードがそれぞれ務める。

声の出演として、1600人に及ぶオーディションから選ばれた鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖が、それぞれトツ子、きみ、ルイ役に決定。大抜擢された新たな才能の登場に、大きな注目が集まる。さらに、声優の悠木碧、寿美菜子、お笑い芸人のやす子、戸田恵子、そして新垣結衣など豪華キャストが本作に参加している。主題歌は日本を代表するロックバンド・Mr.Childrenが、本作のために書き下ろした「in the pocket」。多様な色のような繊細で切実な感情と、鮮やかな映像表現、そしてエモーショナルなバンドサウンドが響き渡る!

【レイト&モーニングショー】映画『聲の形』
【Late & Morning Show】The Shape of Voice

開映時間  
山田尚子監督作品/2016年 /日本/129分/DCP/ビスタ

■監督 山田尚子
■原作 大今良時「聲の形」(講談社コミックス刊)
■脚本 吉田玲子  
■キャラクターデザイン 西屋太志
■撮影監督 高尾一也
■編集 重村建吾
■音楽 牛尾憲輔
■主題歌 aiko「恋をしたのは」 

■声の出演 入野自由/早見沙織/悠木碧/小野賢章/金子有希/石川由依/潘めぐみ/豊永利行/松岡茉優

■第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞/2017年アヌシー国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門正式出品 ほか多数受賞・ノミネート

©大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

【2024/12/14(土)~12/20(金)上映】

大嫌いだった。もう一度、会うまでは。

“退屈すること”を何より嫌う少年、石田将也。ガキ大将だった小学生の彼は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。彼女が来たことを期に、少年は退屈から解放された日々を手に入れた。しかし、硝子とのある出来事がきっかけで将也は周囲から孤立してしまう。やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。“ある出来事”以来、固く心を閉ざしていた将也は硝子の元を訪れる。これはひとりの少年が、少女を、周りの人たちを、そして自分を受け入れようとする物語――。

伝えたい“こえ”がある。聞きたい“こえ”がある。

「週刊少年マガジン」に連載され、数々の賞に輝いた、大今良時の漫画「聲の形」。このベストセラーコミックが、日本アカデミー賞 優秀賞を獲得した『映画 けいおん!』など、多くの作品を輩出し続けている京都アニメーションにより新たにアニメーション映画として生まれ変わった。

監督はTVアニメ「けいおん!」で初監督を務め、『たまこラブストーリー』にて文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門新人賞を獲得した、京都アニメーションに所属する(*1)山田尚子。脚本には「ガールズ&パンツァー」など大ヒットシリーズを手掛ける吉田玲子を迎え、『映画 けいおん!』『たまこラブストーリー』以来のコラボレーションが実現。キャラクターデザインを、「氷菓」、TVシリーズ「Free!」、『映画 ハイ☆スピード! Free! Starting Days』を手掛けた京都アニメーションの西屋太志が務めた。

*1 劇場公開当時。2019年に京都アニメーションを離れ、サイエンスSARUに軸足を移す。