【2024/12/7(土)~12/13(金)】『自由の暴力』『エフィ・ブリースト』// 特別レイト&モーニングショー『リリー・マルレーン』

ミ・ナミ

“幸福が描かれている映画が観客の慰めになるとは限らない”という、映画についてのある視点を教えてくれた人がいました。登場人物たちが紆余曲折ののち大団円を迎えるハートフルな作品も楽しいですが、困難と苦痛が報われることなく、ただただ失っていく主人公たちに痛ましさと同時に安らぎを得る瞬間があるのも、事実なのかもしれません。そして私にとってそれは、「幸福は必ずしも愉快ではない」(『不安は魂を食い尽くす』)としたファスビンダー監督の作品群を指すのだと思います。今週の早稲田松竹では、『エフィ・ブリースト』と『自由の暴力』の二本立てと、特別興行で『リリー・マルレーン』を上映いたします。

ドイツ映画研究者の渋谷哲也氏の解説(※1)によると、ファスビンダーは当時の社会状況ではめずらしくセクシャリティをオープンにし、一度も悩んだ様子がなかったようです。マイノリティであることへの葛藤は一切描かれることはなく、彼らをあからさまに差別する登場人物はほとんど姿を見せないのはそれがためなのだそうです。ファスビンダーの映画にある残酷さや悲劇とは属性によるものではなく、たとえば愛する者と愛される者といった、我々が生きていればなすすべなく絡めとられるものにシビアな勾配が横たわっているということなのではないでしょうか。老若男女、誰でもひどい奴はとことん冷酷。とりわけ自身のことを愛してくれる誰かの前ではいくらでも奪う側になれるし、それほど愛とはトキシック(有害)なものである。人間関係や感情のもつれにあるそんなことを、むき身にしてファスビンダーは見せてくるのです。

『自由の暴力』で、上流階級のハンサムガイであるオイゲンを愛した垢ぬけないフランツに待ち受けているのは破滅でしかないのですが、それでも彼は「僕は後悔したい」とつぶやきます。『リリー・マルレーン』のディーヴァ、ビリーは戦禍の中でナチスの軽薄なマスコットにされ、愛する者にも利用されてしまいます。しかし、暗い時代だからもっと明るく〝リリー・マルレーン〟を歌うように促されても「私は胸につかえるような重みをなくしたくない」と吐露し、苦しみを背負う人生を自ら選択します。そして人生の重たい選択と言えば『エフィ・ブリースト』でタイトルロールを演じるエフィ。結婚という生き方だけが正解だった時代に別の生き方を選び、そのことを終生にわたって苦悩する彼女は、家庭から逃走したことに後ろ髪を引かれつつも、置いてきた幼い娘がエフィとは真逆の従順な人生を歩もうとしていることに戦慄するのです。

他人から見ていかほどの価値もなく、哀れな人生を生きようとするアウトサイダー的営みを肯定するこの3作品。ファスビンダー映画には精神をとことんえぐられるのですが、しかしえぐった片方の手で優しく抱きしめられるような気持ちになるから不思議です。観客の皆様も、ぜひファスビンダーの痛ましくも慰めを感じる世界へ浸りに来ていただきたいです。

(※1)ZINEライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2024「ファスビンダーの生きた時代、そして現代へ」より

エフィ・ブリースト
Effi Briest

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品/1974年/西ドイツ/140分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■原作 テオドール・フォンターネ
■撮影 ユルゲン・ユルゲス/ディートリッヒ・ローマン

■出演 ハンナ・シグラ/ウォルフガング・シェンク/ウリ・ロンメル/カールハインツ・ベーム

©︎Rainer Werner Fassbinder Foundation

【2024/12/7(土)~12/13(金)まで上映】

籠の鳥は

20歳も年上のインシュテッテン男爵に見初められて結婚した、自由奔放な貴族の娘エフィ。堅物で出世欲の強いインシュテッテンはエフィを躾けようとする上、彼女を残し留守にしてばかり。田舎町の生活に馴染むことができないエフィは、常識にとらわれない夫の友人クランパス少佐と浮気をしてしまう。数年後、妻と友人の裏切りを知ったインシュテッテンは、クランパスに決闘を申し込むのだが……。

19世紀ドイツを代表するリアリズム小説の映画化。抑圧の中でいきる女性を描いた文芸作。

19世紀後半の家父長制度のなかで、社会や美徳について問い、悩み、そして自らの道にも違和感を抱き続けながら生きたひとりの女性の姿を、デジタルリマスターされた繊細で美しいモノクロ映像で描く。ファスビンダーにとっては後年の『ベルリン・アレクサンダー広場』にならぶ重要な文学映画。ヒロインを演じるのは長年にわたるファスビンダーのミューズ、ハンナ・シグラ。

自由の暴力
Fox and His Friends

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品/1974年/西ドイツ/123分/DCP/PG12/スタンダード

■監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■脚本 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/クリスチャン・ホホフ
■撮影 ミヒャエル・バルハウス
■音楽 ペール・ラーベン

■出演 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ペーター・カテル/カールハインツ・ベーム

©︎Rainer Werner Fassbinder Foundation

【2024/12/7(土)~12/13(金)まで上映】

奪われて、奪われる。

身寄りはアル中の姉しかいない大道芸人フランツは、宝くじに当たったことをきっかけに、ブルジョワのゲイのサークルに入り込み、ハンサムなオイゲンに恋をする。一夜で富と愛を手に入れたフランツは有頂天になってオイゲンに貢ぐが、工場経営者の御曹司オイゲンと粗野なフランツとでは趣味も会話も何もかも相容れない。それでもひたすら愛を信じるフランツだったが、やがてふたりの齟齬は決定的となり・・・・・・。

大金を手にした男がたどる、愛ゆえの破壊。ファスビンダー自らが主人公を演じた、あまりにも痛ましい衝撃作。

ファスビンダーが初めて男性同性愛を正面から取り上げた作品。ひとりの資本家の男に夢中になったばかりに、利用されるだけし尽くされる主人公をファスビンダー自身が熱演。資本主義社会の冷酷さを暴きだすと同時に、愛の名のもとに展開される哀しく痛ましい暴力的な関係が、デジタルリマスターされた美しい映像で鮮烈に描かれる。

【レイト&モーニングショー】リリー・マルレーン 4Kデジタルリマスター版
【Late & Morning Show】Lili Marleen

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品/1980年 /西ドイツ/120分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■脚本 マンフレート・プルツァー/ジョシュア・シンクレア/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■撮影 ザヴィエ・ショワルツェンベルガー
■音楽 ペール・ラーベン

■出演 ハンナ・シグラ/ジャンカルロ・ジャンニーニ/メル・ファーラー/カール・ハインツ・フォン・ハッセル/クリスティーネ・カウフマン/ウド・キアー

©︎ 1980 by ROXY / CIP

【2024/12/7(土)~12/13(金)まで上映】

愛に焦がれ 愛を歌った

ナチス政権下のドイツで、国民に愛された歌手ビリー。しかし、彼女自身が愛したのは、たったひとりの男だった。

時代に翻弄された歌姫の半生。ファスビンダー屈指の絢爛たる大作。

第二次大戦中、敵味方を超えて兵士の心をとらえた名曲“リリー・マルレーン”。その一曲によってスターとなった実在の女性歌手の半生を、絢爛の映像美で描いたメロドラマの傑作。ユダヤ人の恋人との仲を引き裂かれ、ナチスのマスコットと蔑まされながらも、ひたすら愛を貫いてステージに立ち続けるビリーを艶やかに演じるのは『マリア・ブラウンの結婚』のハンナ・シグラ。ビリーと激しい恋に落ちる音楽家ロバートを演じるのはルキノ・ヴィスコンティ監督作『イノセント』のイタリアの美男俳優、ジャンカルロ・ジャンニーニ。他にもオードリー・ヘップバーンの夫だったメル・ファーラー、ラース・フォン・トリアー作品の常連ウド・キアーなど豪華なキャストが、時代に翻弄されながらも決して信念を曲げない女の物語を彩る。