【2024/1/20(土)~1/26(金)】『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』/『グッドフェローズ』/『エイジ・オブ・イノセンス』

ミ・ナミ

私が初めて観たマーティン・スコセッシの映画は、『グッドフェローズ』でした。大物マフィアの仲間たち“グッドフェローズ”の生態を実在したアウトローの視点で活写したこの映画で、アジアのギャングとはまた異なる共同体の醍醐味に唸らされた記憶があります。常に底流しているのは、人間存在への諦めから生まれる乾ききった感情なのではないでしょうか。家族を思わせる親密な彼らが、しかしあっさりと裏切りを重ねるのもそれゆえかもしれません。そして登場人物たちが裏切りと背反を繰り返すほどに映画が駆動していくのがスコセッシ映画のアトラクティブな面だと私は思っているのです。

1870年代の社交界を舞台にしたロマンティックな悲恋物語の様相を見せる『エイジ・オブ・イノセンス』もまた、集団で生きることの鬱屈を映画の中に感じるのです。弁護士ニューランドは、夫から逃げて思うがまま生きようとする幼馴染エレンと互いに恋焦がれながらも、時代や社会にはばまれ願望を果たせずに苦しみます。集団意識が人間の抑圧的な本質を醸成するということを、社交界という閉塞的な共同体にある偽善の中で生涯を送る二人を通して表現しています。

アメリカの暗い近代史をテーマに撮り上げた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、実在の歴史を人間の感情や欲望を中心に織り上げたサーガとなっています。スコセッシ映画の美徳は悪役であり、むしろヒールこそが映画の華であることを改めて思い出させてくれる作品でもあります。一筋縄ではいかぬ“ワル”をさも居心地良さそうに演じるレオナルド・ディカプリオに大きく快哉を叫びたくなります。

今週の早稲田松竹は、マーティン・スコセッシ監督の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と、代表作である『グッドフェローズ』『エイジ・オブ・イノセンス』の3作品を上映いたします。エンターテインメントに昇華されたブラッド&バイオレンス、人間という共同体の光と影をぜひスクリーンでご堪能下さい。

【1本立て】キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
Killers of the Flower Moon

マーティン・スコセッシ監督作品/2023年/アメリカ/206分/DCP/PG12/シネスコ

■監督 マーティン・スコセッシ
■製作 マーティン・スコセッシ/ダン・フリードキン/ブラッドリー・トーマス/ダニエル・ルピ
■製作総指揮 レオナルド・ディカプリオ/リック・ヨーン/アダム・ソムナー マリアン・バウアー/リサ・フレチェット/ジョン・アトウッド/シェイ・カマー/ニールス・ジュール
■原作 デイヴィッド・グラン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」(早川書房)
■脚本 エリック・ロス/マーティン・スコセッシ
■撮影 ロドリゴ・プリエト
■編集 セルマ・スクーンメイカー
■音楽 ロビー・ロバートソン

■出演 レオナルド・ディカプリオ/ロバート・デ・ニーロ/ジェシー・プレモンス/リリー・グラッドストーン/タントゥー・カーディナル/カーラ・ジェイド・マイヤーズ/ジャネー・コリンズ/ジリアン・ディオン/ウィリアム・ベルー/ルイス・キャンセルミ/タタンカ・ミーンズ/マイケル・アボット・ジュニア/パット・ヒーリー/スコット・シェパード/ジェイソン・イズベル/スターギル・シンプソン

■2024年ゴールデングローブ賞最優秀作品賞ほか6部門ノミネート

画像提供 Apple TV+

【2024/1/20(土)~1/26(金)上映】

「花殺しの月」の夜、先住民を標的にした連続殺人の幕が開く。

地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイルを頼ってオクラホマへと移り住んだアーネスト・バークハート。アーネストはそこで暮らす先住民族・オセージ族の女性、モリー・カイルと恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。町が混乱と暴力に包まれる中、ワシントンD.C.から派遣された捜査官が調査に乗り出すが、この事件の裏には驚愕の事実が隠されていた――。

ディカプリオとの6度目のタッグを組む、スコセッシ待望の最新作!

数多くの傑作を世に送り出し、『ディパーテッド』でオスカーを手にしたマーティン・スコセッシ監督。これまで6度アカデミー賞にノミネートされ、『レヴェナント:蘇りし者』で主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプリオ。彼らがタッグを組むのは6度目だが、今回共演の名優ロバート・デ・ニーロとのトリオは、実は長編では初めてとなる。そんなゴールデン・チームが挑んだのは、アメリカの歴史に暗い影を落とす実際の事件を基にしたサスペンス超大作だ。

オクラホマで起こった先住民族の連続殺人という凄惨な事件を、実際に起こった土地で正確に描写するため、地元のキャストやスタッフと協力し、アメリカの歴史の中で絶対にあってはならない時代を永遠に残すというスコセッシ監督の考えのもと撮影された。スコセッシは監督に加え、エリック・ロスとともに脚本を手がけている。

原作はデイヴィッド・グランの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』。オセージ族を取り巻く、オイルマネーと人種差別が絡みあった巨大な陰謀。米国史の最暗部に迫り、ニューヨーク・タイムズ他主要メディアで絶賛された犯罪ノンフィクション作品がついに映画化され、本年度アカデミー賞最有力候補と目されている。

【1本立て】グッドフェローズ
Goodfellas

マーティン・スコセッシ監督作品/1990年/アメリカ/145分/DCP/R15+/ビスタ

■監督 マーティン・スコセッシ
■製作 アーウィン・ウィンクラー
■製作総指揮 バーバラ・デ・フィーナ
■原作 ニコラス・ピレッジ
■脚本 ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ
■撮影 ミヒャエル・バルハウス
■編集 セルマ・スクーンメイカー

■出演 ロバート・デ・ニーロ/レイ・リオッタ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルビノ/サミュエル・L・ジャクソン

■1990年アカデミー賞助演男優賞受賞、作品賞ほか4部門ノミネート/ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞/全米批評家協会賞作品賞・監督賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

© 1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Resened.

【2024/1/20(土)~1/26(金)上映】

大統領になるより、マフィアになることが憧れだった――

ヘンリー・ヒル、1943年ブルックリン生まれ。大物ギャング、ポーリーのアジトで育った彼は、物心ついた頃からマフィアに憧れていた。やがて念願の"グッドフェローズ"の仲間となり、"強奪"専門のジミー、野心旺盛なチンピラ、トミーと共に犯罪に犯罪を重ねていく。が、麻薬に手を出したことから育ての親、ポーリーに見放され、さらにジミーたちが起こした600万ドル強奪事件を追うCIAの捜査の手もヘンリーに迫る…

実在のギャングたちの友情と裏切りを軸に波乱の人生を描き、その真価を極めた傑作。

『タクシードライバー』『レイジング・ブル』など、アメリカを代表する作品を生み出してきたマーティン・スコセッシとロバート・デニーロのコンビ5作目。原作は全米でベストセラーとなったニコラス・ビレッジの‟wiseguy"(邦題:グッドフェローズ)。原作の英題”ワイズガイ”とは、”グッドフェローズ”と同じ意味のマフィア用語で、ギャングたちが自分たちのことをお互いに呼び合うときに使用している。脚本は原作者ピレッジとスコセッシの共同執筆で、マフィアの人間たちの複雑な人間関係、友情、同志愛、恋愛、結婚、戯れ言、そして彼らの”ビジネス”というものを内側から正確にドキュメントしている。

主人公ヘンリー・ヒルを演じるのは、2022年に惜しくもこの世を去った『サムシング・ワイルド』のレイ・リオッタ。本作が出世作となった。ロバート・デ・ニーロは組織の幹部ジミー・コンウェイに扮し、チンピラのトミーを演じた『レイジング・ブル』のジョー・ペシは本作でアカデミー賞助演男優賞に輝いた。

作品内で“Fuck”とそれに類したセリフが発せられた総数は321回。1分平均2.04回となっている。その約半分は、ジョー・ペシのセリフだった。脚本上では70回のはずだったが、撮影現場ではセリフの多くが即興で話され、全篇に下品で乱暴なセリフが溢れかえった。配給会社はそれらのセリフと暴力描写に神経をとがらせ、事前試写の反応も悪かったというが、公開されると予想を超える高評価を得、スコセッシの名声をさらに高める結果となった。(午前十時の映画HPより引用)

【1本立て】エイジ・オブ・イノセンス
The Age of Innocence

マーティン・スコセッシ監督作品/1993年/アメリカ/139分/ブルーレイ/シネスコ

■監督 マーティン・スコセッシ
■原作 イーディス・ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス」
■製作 バーバラ・デフィナ
■脚本 ジェイ・コックス/マーティン・スコセッシ
■撮影 ミハエル・バルハウス
■編集 テルマ・スクーンメイカー
■音楽 エルマー・バーンスタイン

■出演 ダニエル・デイ=ルイス/ミシェル・ファイファー/ウィノナ・ライダー/ジェラルディン・チャップリン/リチャード・E・グラント/メアリー・ベス・ハート/ジョナサン・プライス/ロバート・ショーン・レナード/ジョアン・ウッドワード

■1994年アカデミー賞衣装デザイン賞受賞・助演女優賞ほか3部門ノミネート/1994年ゴールデングローブ賞最優秀助演女優賞受賞・最優秀作品賞ほか2部門ノミネート

© 1993 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

【2024/1/20(土)~1/26(金)上映】

この恋の本当の結末は、あなたの心の中にある

1870年代初頭のある一月の夕べ、ニューヨークの高等音楽院の舞台を見るために社交界の人々が集まっている。弁護士のニューランドには婚約者のメイがおり、率直そうな額、まじめな目、明るく無邪気な口を持ち、これ以上にない結婚相手だった。しかし、社交界に突然、夫から逃れてヨーロッパから帰国したという噂のエレンが現れる。幼なじみのエレンの突然の出現に心を揺さぶられ、彼女の率直な態度や考え方に、自分の住む社交界にはない新しさを感じる。メイがいながらもニューランドはエレンに惹かれ、新たな恋の苦悩に身を焦がすことに…。

1870年当時のニューヨーク社交界を忠実に再現。豪華なキャスト・スタッフが作り上げた“完璧なラブ・ストーリー”

ピューリッツァー賞を受賞したイーディス・ウォートンの「エイジ・オブ・イノセンス」(1920年出版)をもとに、スコセッシ監督はこの世に存在しえない”完璧なラブ・ストーリー”を映像化することに成功した。舞台は1870年代のニューヨーク。当時の自由なヨーロッパの雰囲気を嫌ったニューヨーク社交界は内よりも外観、真実よりも偽善を好み、家の格式と富の多寡によって厳然と形作られた欺瞞のピラミッドを構成していた。ニューヨークにこだわり続けるスコセッシ監督は、メイ、アーチャー、エレンの三人の男女に当時のニューヨークの過去と現在、そして未来を投影させた。

出演はアーチャーに『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイス、エレンに『危険な関係』『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』のミシェル・ファイファー、そしてメイには『シザーハンズ』『17歳のカルテ』のウィノナ・ライダー。他にジェラルディン・チャップリン、ミリアム・マーゴリーズ、リチャード・E・グラント、メアリー・ベス・ハース、スチュアート・ウィルソンら米英の重厚なスター陣が複雑な人間関係を説得力をもって演じている。(公開当時のプレスを参照)