【2023/10/7(土)~10/13(金)上映】『怪物』『Winny』

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹は今年話題をさらった邦画の二本立てです。是枝裕和監督・坂元裕二脚本の『怪物』、松本優作監督による『Winny』を上映いたします。

今回、この特集名には「真実が覆い隠されたのは誰のせい?」というタイトルがつけられています。 “真実”という言葉は『怪物』と『Winny』の芯をとらえているのですが、それぞれの作品では、語られる“真実”がやや異なる様相をしています。

『怪物』の発端は、のどかな郊外の町で起きた、小学校教師による校内暴力でした。被害児童・湊の母親である早織が事なかれ主義の教師たちを前に猛抗議し、加害者の保利が辞職することで騒動は収束したかに見えます。しかしそれは、大人の、そしてマジョリティの一面的な世界から見た“事実”に過ぎなかったのでした。映画の中のせりふを借りるならば秘密の場所や感情は「誰かに言うなんてもったいない」ものなのです。だからこそ、目の前にある“正しさ”とは常に正義だとは限らない。もはや禅問答のようにも聞こえますが、“真実”のあやふやさがこの映画の根幹のように思います。『怪物』は、“真実”を既存の「正しさ」のうちに追い求めようとする過程でとりこぼしていく多くの感情があるのだということを突き付けるのです。

他方『Winny』で描かれる“真実”にはもっとよりアクチュアルな力があります。2003年に起きたファイル共有ソフトに絡む著作権法違反の刑事事件「Winny事件」について、あらましをテレビのニュース報道で知っている方は多いかもしれません。しかし、そもそも不当逮捕であったことや、事件にまつわる人間の情動を知る人はほぼいないでしょう。かくゆう私も、逮捕された人物の名前すら知りませんでした。映画は、伝えられている“事実”とは違う側面に踏みこむことができる芸術です。フィクションゆえに重量感を持ち立ち現れる人物たちが、このドラマを信じられる“真実”として完成させているのです。

『怪物』と『Winny』、それぞれで言う “真実”は、 この命題そのものを揺さぶるような問いかけをしてきます。本当のことはいつも遅れてやってくる。だから私たちは後悔することしかできない。この二作品に私はそんなことを思うのでした。

Winny
Winny

松本優作監督作品/2023年/日本/127分/DCP/シネスコ

■監督 松本優作
■企画 古橋智史 and pictures
■脚本 松本優作/岸建太朗
■撮影 岸建太朗
■編集 田巻源太
■音楽 Teje×田井千里

■出演  東出昌大/三浦貴大/皆川猿時/和田正人/木竜麻生/池田大/金子大地/阿部進之介/渋川清彦/田村泰二郎/渡辺いっけい/吉田羊/吹越満/吉岡秀隆

©2023映画「Winny」製作委員会

【2023/10/7(土)~10/13(金)上映】

ネット史上最大の事件。実話を基にした、挑戦と戦いの記録。不当逮捕から無罪を勝ち取った7年の道のり。

2002年、開発者・金子勇は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。次々に違法アップロードした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。そして、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する――。

殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか——。技術者の未来と権利を守るため、権力やメディアと戦った男たちの真実の物語。

Winnyの開発者である金子勇役を演じるのは東出昌大。役作りのために現役の弁護士を交えた模擬裁判を実施し、体重を18kg増量させるなど、徹底したアプローチで撮影に挑んでいる。金子氏と共に裁判へ挑む弁護士の壇俊光役を演じるのは三浦貴大。彼もまた、壇氏本人とコミュニケーションを取りながら役に向き合っていった。さらに、吉岡秀隆、吹越満、渡辺いっけい、吉田羊ら実力派俳優たちが脇を固める。

監督は、自主映画として製作した『Noise ノイズ』が国際映画祭で評価され、『ぜんぶ、ボクのせい』で商業映画デビューを飾った松本優作。これまで、社会の過酷な現場の中で生きる市井の人々を描いてきた松本監督は、金子氏の考えに共鳴し、取材を重ね制作に挑んだ。

Winny事件の顛末は、あまり世の中に知られていない。その事は、事件後の金子勇本人の人生も知られていないという事でもある。これは、技術者の未来と権利を守るため、権力やメディアと戦った男たちの実話に基づく物語。金子勇の人生を目撃してほしい。

怪物
Monster

是枝裕和監督作品/2023年/日本/126分/DCP/シネスコ

■監督・編集 是枝裕和
■企画・プロデュース 川村元気/山田兼司
■製作 市川南/大多亮/依田巽/潮田一/是枝裕和
■脚本 坂元裕二
■撮影 近藤龍人
■音楽 坂本龍一

■出演 安藤サクラ/永山瑛太/黒川想矢/柊木陽太/高畑充希/角田晃広/中村獅童/田中裕子

■2023年カンヌ国際映画祭脚本賞・クィア・パルム賞受賞

©2023「怪物」製作委員会

【2023/10/7(土)~10/13(金)上映】

「怪物」探しの果てに、私たちは何を見るのか――

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。

そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。

監督:是枝裕和×脚本:坂元裕二×音楽:坂本龍一  日本最高峰の才能が集結し描き上げるのは――怪物。

『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と語る脚本家の坂元裕二と初タッグ。坂元は『花束みたいな恋をした』やTVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」などで圧倒的な人気を博す、新作が待ち望まれる脚本家だ。また音楽は、『ラストエンペラー』『レヴェナント:蘇えりし者』など海外でも第一線で活躍し、今年3月に惜しくもその生涯を終えた坂本龍一。映画史上、最も心を躍らせ揺さぶる奇跡のコラボレーションが実現した。

出演は、安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら変幻自在な演技で観る者を圧倒する実力派と、二人の少年を瑞々しく演じる黒川想矢と柊木陽太。その他、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩な豪華キャストが集結する。

いったい「怪物」とは何か。登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに、私たちは何を見るのか。その結末に心揺さぶられる、圧巻のヒューマンドラマ。