【2023/4/29(土)~5/5(金)】『エンパイア・オブ・ライト』『イニシェリン島の精霊』

パズー

今年もゴールデンウィークの季節がやってきました。早稲田松竹では、イギリスの名匠たちによるヒューマンドラマを上映します。例年よりややしっとりとした感じでお届けいたします。

1923年のアイルランドの孤島が舞台の『イニシェリン島の精霊』。中年の主人公パードリックが、親友のコルムから絶交されることから映画は始まります。突然の理不尽な絶交宣言に、わたしたち観客はパードリックになった気持ちで「なぜ?ひどい!」と困惑します。けれど、パードリックやコルムの人となりや、閉鎖的で息苦しい島の雰囲気を知るにつれ、この喧嘩が一筋縄ではいかないことが徐々にわかってくるのです。

『エンパイア・オブ・ライト』は1980年代のイギリスの海辺の街にたたずむ映画館に関わる人々の物語。ベテランホールスタッフのヒラリーは、新しく映画館で働きだした青年スティーヴンと出会い、すぐに心を通わせます。しかし過去の出来事から心に闇を抱えたままのヒラリーは、スティーヴンとの恋によって、やがて心のバランスを崩してしまうのです。

年齢を重ねるにつれて、人との付き合い方が難しくなったと感じることはないでしょうか。パードリックのように、長年の友人に対して思いやることを忘れ惰性で付き合ってしまったり、ヒラリーのように、新しく誰かと出会っても、人生経験があるからこそ信頼関係を築くことに臆病になってしまったり…。問題が起こった時、それを解決するのは若い時よりもむしろ厄介です。映画の登場人物たちも、人間関係に悩み苦しみ、やがて自らの人生についても顧みることになります。

『イニシェリン島の精霊』のマーティン・マクドナー監督も、『エンパイア・オブ・ライト』のサム・メンデス監督も、アカデミー賞にノミネートされる名フィルムメーカーでありながら、舞台をいくつも手掛けてきた演出家としての顔も持ち合わせています。両作品は、会話やシチュエーションで心の機微を表現する演劇的手法が遺憾なく発揮されていると感じます。

アイルランド内戦の終結した年である1923年。失業率が高まりイギリス各地で暴動が起こっていた1980年代。それぞれの時代を背景にしつつ、いつの時代、どの場所にいても起こりうる、“人と人との関係の困難”に直面する主人公たちの人生のひとときを見つめる2本立てです。

エンパイア・オブ・ライト
Empire of Light

サム・メンデス監督作品/2022年/イギリス・アメリカ/115分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 サム・メンデス
■製作 ピッパ・ハリス/サム・メンデス
■撮影 ロジャー・ディーキンス
■美術 マーク・ティルデズリー
■衣装 アレクサンドラ・バーン
■編集 リー・スミス
■音楽 トレント・レズナー/アッティカス・ロス

■出演 オリヴィア・コールマン/マイケル・ウォード/コリン・ファース/トビー・ジョーンズ/ターニャ・ムーディ/トム・ブルック/クリスタル・クラーク/ハンナ・オンスロー

■第95回 アカデミー賞撮影賞ノミネート/第80回 ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞ノミネート

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【2023/4/29(土)~5/5(金)上映】

人生を照らす光は、きっとある。

1980年代初頭のイギリスの静かな海辺の町、マーゲイト。辛い過去を経験し、今も心に闇を抱えるヒラリーは、地元で愛される映画館、エンパイア劇場で働いている。厳しい不況と社会不安の中、彼女の前に、夢を諦め映画館で働くことを決意した青年スティーヴンが現れる。職場に集まる仲間たちの優しさに守られながら、過酷な現実と人生の苦難に常に道を阻まれてきた彼らは、次第に心を通わせ始める。前向きに生きるスティーヴンとの出会いに、ヒラリーは生きる希望を見出していくのだが、時代の荒波は二人に想像もつかない試練を与えるのだった…。

名匠サム・メンデスが心を込めて贈る映画と映画館、そして人生へのオマージュ…エンパイア劇場に集う人々の愛と友情と絆を描く感動の物語

主人公ヒラリーを演じるのは、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマン。共演は英国アカデミー賞ライジング・スター賞に輝く新鋭マイケル・ウォード。さらに、『英国王のスピーチ』でアカデミー賞を受賞したコリン・ファースら、イギリスが誇る名優たちが脇を固める。

監督は『アメリカン・ビューティー』『1917 命をかけた伝令』『007/スペクター』など、芸術性と娯楽性を兼ね揃えた傑作を作り続けるサム・メンデス。コロナ禍におけるロックダウンを経験し、「映画館が無くなってしまうのではないか」という懸念を持ったメンデス監督が、いまこそ映画館への愛を形にする時だと考えたことから本作はスタートした。

メンデス監督自らが多感な時期を過ごした、現代に通じる社会の激しい分断と激動の80年代初頭を舞台に、あのころ、人々に寄り添い心躍らせた音楽や映画といった当時のポップカルチャーをふんだんに盛り込みながら、いまを生きる私たちにとってかけがえのないオリジナルストーリーを紡ぎ出す。困難な時代にこそ、仲間が、音楽が、そして映画館がいつもそばにいてくれた…。世界が待ち望んだ、すべての人の人生に温かな光をさす、奇跡と感動のストーリー。

イニシェリン島の精霊
The Banshees of Inisherin

マーティン・マクドナー監督作品/2022年/イギリス・アメリカ・アイルランド/114分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 マーティン・マクドナー
■製作 グレアム・ブロードベント/ピート・チャーニン/マーティン・マクドナー
■撮影 ベン・デイヴィス
■美術 マーク・ティルデズリー
■衣装 イマー・ニー・ヴァルドウニグ
■編集 ミッケル・E・G・ニールセン
■音楽 カーター・バーウェル

■出演 コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/ケリー・コンドン/バリー・コーガン/ゲイリー・ライドン/パット・ショート/シーラ・フリットン

■第95回 アカデミー賞作品賞・主演男優賞ほか多数ノミネート/第80回 ゴールデングローブ賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀脚本賞受賞/第79回 ベネチア国際映画祭最優秀男優賞・最優秀脚本賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©2023 20th Century Studios. All rights reserved.

【2023/4/29(土)~5/5(金)上映】

すべてがうまく行っていた、昨日までは。

舞台は1923年、アイルランド西海岸沖のイニシェリン島。内戦に揺れる本土とは対照的に、のどかな平和が保たれたこの島の誰からも愛される素朴な男パードリックが、親友コルムから突然絶交を告げられる。理由さえわからず困惑したパードリックは、賢い妹シボーンや若い隣人ドミニクを巻き込んで関係修復を図るが、コルムは頑なに彼を拒絶。やがてコルムは「これ以上俺を煩わせたら、自分の指を切り落とす」という恐ろしい最終通告をパートリックに突きつけ、両者の対立は想像を絶する事態へと突き進んでいくのだった…。

『スリー・ビルボード』で世界中を熱狂させた鬼才マーティン・マクドナー、待望の最新作! 友情が崩壊した男たちが行き着く、予測不能にして衝撃の結末とは?

アメリカ中西部を舞台にした『スリー・ビルボード』から一転、自らのルーツであるアイルランドの精神に回帰したマーティン・マクドナー監督が描くのは、長年の友情が壊れた男たちの世にも奇妙な葛藤の物語。刺激的で寓意に富んだセリフの応酬、一寸先も予測できない展開に魅了され、濃密なサスペンスとダークなユーモアがせめぎ合う映像世界に心振るわずにいられない。

主人公パードリックを演じるのは、本作で見事ゴールデン・グローブ賞、ベネチア国際映画祭共に主演男優賞を受賞したコリン・ファレル。コルム役には「ハリー・ポッター」シリーズや『ある神父の希望と絶望の七日間』など数々の話題作に出演してきた名優ブレンダン・グリーソン。共にアイルランド出身のファレルとグリーソンが、マクドナー監督の『ヒットマンズ・レクイエム』以来の共演で、迫真の演技合戦を披露する。

比類なきストーリーテラー、マクドナー監督が人間の切なさや滑稽さをエモーショナルにあぶり出し、人生の皮肉を鋭く洞察したこの悲喜劇は、いかなる結末に行き着くのか。詩的な美しさと神秘性が入り交じり、古くからの言い伝えで“死を予言する”という精霊が舞い降りる、アイルランド伝承の深遠な世界観も想像力をかき立ててやまない。