【2022/11/26(土)~12/2(金)】 『FLEE フリー』『スープとイデオロギー』// 特別レイト&モーニングショー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』

すみちゃん

アニメーションと聞いた時にみなさんはどんな作品を思い浮かべるだろう? 2009年に日本で公開された『戦場でワルツを』(2008)という映画は、ドキュメンタリーアニメーションという、実際にあった出来事をアニメーションで表現した作品だ。わたしは映画館で初めて観て、とても衝撃を受けた。恐ろしい現実との向き合い方にアニメーションという方法があるのだと知ったのだ。

今回上映される『FLEE フリー』は、主人公のアミンがアフガニスタンから難民として、同性愛者であることを隠し、自分を偽りながら生きていく日々がアニメーションで描かれ、当時の映像も織り交ぜられている。本作の監督であるヨナス・ポヘール・ラスムセンは自身も迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民であり、アミンの親友でもある。アミンをはじめ、周辺の人々の安全を守るためにアニメーションで制作されたという背景もあり、監督とアミンとの信頼関係なくしては成り立たなかった映画だ。

『スープとイデオロギー』は、ヤン ヨンヒ監督の母親(=オモニ)、そして家族の記録であり、オモニの記憶の映画だ。これまでずっとヨンヒ監督は、自身の映画で家族や北朝鮮のことに対峙してきた。母が北朝鮮に息子たちを送り出し、朝鮮総連の活動に熱心だった理由が、「済州4・3事件」により紐解かれる。ヨンヒ監督の夫であるカオルさんとオモニと3人で何度も食卓を共にし、食べるじっくり煮込んだ特製スープ。考え方は違うかもしれないけれど、同じ食卓を囲み、お互いを思いやる空間を作ろうとする行動や、記憶をなくしていくオモニへのヨンヒ監督の眼差しがわたしは忘れられない。

済州島での残虐な事件は、実際に現地に行くことでより現実味を帯びてくるが、オモニの記憶はおぼろげだ。もしかしたらオモニにとっては忘れた方が良い記憶なのかもしれない。でも、これからを生きるわたしたちはこの歴史を無視してはならないだろう。本作もまた、オモニの記憶からなくなってしまいそうな強烈な出来ごとを、アニメーションでとても私的に、こぼれないように、まるですくい取るように描いている。

ドキュメンタリーをアニメーションで表現するときのこの優しさをどう言葉にしたらよいだろうか。ドキュメンタリーは現実そのままの記録だと思われがちだが、実際にはカメラが介在し、監督の意図が存在する。映像の持つ力はあまりにも大きく、撮影される本人が望まない方向へと誘導されかねない危険性もあり、関わってきた人々のその後の人生をも左右する。人にカメラを向けるという行為自体非常に危ういことではあるものの、多くの人に伝えるべきパーソナルな出来ごとは世界中の知らないところに存在しているはずだ。そこにアニメーションという表現があることで、ドキュメンタリーに参加する当事者の負担は少なくなるだろう。

また、彼ら彼女らの現実を線で描きとめるという行為自体、とても柔らかな作業に感じる。人を描くときに割く時間やどんな線を選ぶか、どんなディテールで表現するのかという思考自体が、カメラを向けることとはまた別のベクトルが作用しているような気がする。おそらく私がドキュメンタリーアニメーション作品に惹かれる理由は、その優しさなのではないかと思う。作り手の映画に対する姿勢が、作品内容と等しく重要であり、より一層社会に影響を与える現在において、ドキュメンタリーアニメーションの可能性を大きく感じるこの2作品を、是非劇場で観ていただきたいと強く思う。私は少なくともこの作品たちと出会えたことで、映画を作ることは素晴らしいことだと改めて思えたのだ。

スープとイデオロギー
Soup and Ideology

ヤン ヨンヒ監督作品/2021年/韓国・日本/118分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・ナレーション ヤン ヨンヒ 
■エグゼクティブプロデューサー 荒井カオル
■撮影 加藤孝信
■編集 ベクホ・ジェイジェイ
■音楽監督 チョ・ヨンウク
■アニメーション原画 こしだミカ

© PLACE TO BE, Yang Yonghi

【2022/11/26(土)~12/2(金)上映】

ついに母が教えてくれた、おいしいスープのレシピと、「済州4・3事件」の実体験

大阪・生野区生まれ、在日コリアンのオモニ(母)。2009年にアボジ(父)が亡くなってからは大阪でずっと一人暮らしだ。ある夏の日、朝から台所に立ったオモニは、高麗人参とたっぷりのニンニクを詰め込んだ丸鶏をじっくり煮込む。それは、ヨンヒとの結婚の挨拶にやって来るカオルさんにふるまうためのスープだった。新しい家族に伝えたレシピ。突然打ち明けた「済州4・3事件」の壮絶な悲劇。アルツハイマーでしだいに記憶を失なっていく母を、ヨンヒは70年ぶりに春の済州島へ連れていく――

ひとりの女性の生き様をとおして 国家の残酷さと運命に抗う愛の力を唯一無二の筆致で描き出す

監督は『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』など、朝鮮半島と日本の悲劇的な歴史のうねりを生きる在日コリアン家族の肖像を親密なタッチで写し続けてきたヤン ヨンヒ。本作ではクレイ人形やアニメーションを駆使して母が語ってこなかった記憶を鮮やかにスクリーンに照らし出す。音楽監督を務めたのは『お嬢さん』『タクシー運転手 約束は海を越えて』など、名だたるヒット作を生み出してきたチョ・ヨンウク。

なぜ父と母は、頑なに“北”を信じ続けてきたのか? ついに明かされる母の秘密。あたらしい家族の存在…。これまで多くの映画ファンを魅了してきた、あの〈家族の物語〉が、まったくあらたな様相をおびて浮かび上がる。

「これまで私は、自身の家族と北朝鮮との関係を描いてきたが、今作で初めて韓国との関係に焦点をあてた。タイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いを込めた。」――ヤン ヨンヒ

FLEE フリー
Flee

ヨナス・ポヘール・ラスムセン監督作品/2021年/デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス/89分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 ヨナス・ポヘール・ラスムセン
■製作総指揮 リズ・アーメッド/ニコライ・コスター=ワルドー 
■プロデューサー モニカ・ヘルストローム/シャルロッテ・デ・ラ・グルヌリー/シーネ・ビュレ・ソーレンセン
■編集 ヤヌス・ビレスコフ=ヤンセン
■アニメーション監督 ケネス・ラデケア
■アートディレクター ジェス・ニコルズ
■音楽 ウノ・ヘルマーソン

© Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

【2022/11/26(土)~12/2(金)上映】

故郷とは、ずっといてもいい場所――

アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。

だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。

アフガニスタンに生まれ、ある日突然、家族と居場所を奪われたこと、同性愛者の存在が許されない国でゲイとして生きること、ある青年が語る真実に世界は耳を傾け、そして、心を震わせた――

2021年アカデミー賞にて、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門同時ノミネートの快挙を成し遂げ、ドキュメンタリー、アニメーションという表現の垣根を越えて高い評価を受けた本作『FLEE フリー』。英題である“FLEE”とは危険や災害、追跡者などから(安全な場所へ)逃げるという意味である。主人公のアミンをはじめ周辺の人々の安全を守るためにアニメーションで制作され、いまや世界中で大きなニュースになっているタリバンとアフガニスタンの恐ろしい現実や、祖国から逃れて生き延びるために奮闘する人々の過酷な日々、そして、ゲイであるのひとりの青年が、自分の未来を救うために過去のトラウマと向き合う物語を描く。

本作が伝えるアミンの物語は非常に個人的なものでありながらも、紛争、難民、人種差別、LGBTQ+など現代社会を覆う数々のテーマが内包されており、彼の声は、今を生きる我々の心に深く語り掛けてくる。自身も迫害から逃れるためにロシアを離れたユダヤ系移民の家系であるヨナス・ポヘール・ラスムセン監督は、インタビューでこう語っている。「この物語は、過去やセクシュアリティも含め、 自分が誰なのか。 それを知ることのできる場所を見つける、一人の人間の物語なのです」

【特別レイト&モーニング】ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言
【Late & Morning show】Final Account

ルーク・ホランド監督作品/2020年ビスタ/アメリカ・イギリス/94分/DCP/ビスタ

■監督・撮影 ルーク・ホランド
■製作 ジョン・バトセック/ルーク・ホランド/リーテ・オード
■製作総指揮 ジェフ・スコール/ダイ アン・ワイアーマン/アンドリュー・ラーマン/クレア・アギラール
■アソシエイト・プロデューサー サム・ポープ
■編集 ステファン・ロノヴィッチ
■追加編集 サム・ポープ/バーバラ・ゾーセル
■音楽監修 リズ・ギャラチャー

■第77回ヴェネツィア国際映画祭公式セレクション/第6回放送映画批評家協会ドキュメンタリー賞・最優秀歴史・伝記ドキュメンタリー賞・楽曲賞ノミネート

©2021 Focus Features LLC.

★本作品はレイト&モーニングショー上映です。どなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます(12/1は映画サービスデーのため800円)。
★チケットは連日、朝の開場時より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

【2022/11/26(土)~12/2(金)上映】

ナチスドイツの子供たちが晩年を迎え語る真意とは――現代を生きる我々は、彼らの言葉に何を感じ、何を學ぶのか。

ヒトラー率いるナチス支配下のドイツ”第三帝国”が犯した、人類史上最悪の戦争犯罪“ユダヤ人大量虐殺【ホロコースト】”を実際に目撃した人々。武装親衛隊のエリート士官から、強制収容所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、近隣に住む民間人まで、終戦から77年を迎えた今、「現代史の証言者世代」と呼ばれる高齢になったドイツ人やオーストリア人など加害者側の証言と当時の貴重なアーカイブ映像を記録したドキュメンタリー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』が日本公開となる。

イギリスのドキュメンタリー監督ルーク・ホランドは、アドルフ・ヒトラーの第三帝国に参加したドイツ人高齢者たちにインタビューを実施した。ホロコーストを直接目撃した、生存する最後の世代である彼らは、ナチス政権下に幼少期を過ごし、そのイデオロギーを神話とするナチスの精神を植え付けられて育った。戦後長い沈黙を守ってきた彼らが語ったのは、ナチスへの加担や、受容してしまったことを悔いる言葉だけでなく、「手は下していない」という自己弁護や、「虐殺を知らなかった」という言い逃れ、果てはヒトラーを支持するという赤裸々な本音まで、驚くべき証言の数々だった。そして、監督は証言者たちに問いかける。戦争における“責任”とは、”罪”とは何なのかを。