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私は、自由だ。
パスポートを握りしめ、いろんな国を旅していろんなものを見る。
今までたくさんそうしてきたし、これからだってそうするつもりだ。

私には、帰る場所がある。
生活の地、思い出の地、ただ一つのふるさとへ、
日本へ、家族のもとへ、私は帰ることができる。

誰にも監視されず、何にも脅かされずに。
それが当然のことだとは、もう思わない。

『かぞくのくに』『希望の国』
デジタル配給のため、これまで早稲田松竹では上映できなかったこの二本を
今ようやくご紹介できることに、喜びと安堵を感じている。

スクリーンに映し出されるのは、ごく普通の家族の風景。
日本に生きる誰かの、あの人の、もしかしたらあなたや私の姿かもしれない。

父と息子、母と娘、兄と妹。
血のつながった者同士の間で飛び交う会話のそこかしこに現れる、
限りない親密さと思いやり、そして祈り。

「お前そういうの持っていろんなとこ行けよ」
北朝鮮より一時帰国した兄ソンホから、スーツケースを手にした妹リエへ。
「いい子を産むんだよ」
避難区域に残ることを決意した父泰彦から、出産を控えた義理の娘いずみへ。

そのぬくもりを肌で感じたことのある私たちなら、
彼らに起こった出来事を、今はすぐ側に感じることができる。

日本という国に生きる全ての人々へ
どうしても届けたかった「家族」の物語、二本立て。
あなたの帰る場所に想いを馳せて、ご覧いただけたらと思う。

(ザジ)

希望の国
(2012年 日本/イギリス/台湾 133分 DCP ビスタ) 2013年6月8日から6月14日まで上映 ■監督・脚本 園子温
■撮影 御木茂則
■美術 松塚隆史
■編集 伊藤潤一
■助監督 吉田聡

■出演 夏八木勲/大谷直子/村上淳/神楽坂恵/清水優/梶原ひかり/菅原大吉/山中崇/河原崎建三/筒井真理子/でんでん/吹越満/伊勢谷友介

■2012年日本映画プロフェッショナル大賞特別賞(大谷直子:「希望の国」、及び長年の功績に対して)

それでも世界は美しい

pic東日本大震災から数年後、20XX年の長島県。酪農を営む小野泰彦は、家族と満ち足りた日々を送っていた。しかし、長島県東方沖を襲ったマグニチュード8.3の地震と、それに続く原発事故は、人々の生活をたちまち一変させる。

原発から半径20キロ圏内が警戒区域に指定される中、道路ひとつ隔てただけで避難区域外となる小野家。だが、かつてこの国で起きた未曾有の事態を忘れていなかった泰彦は、自主的に息子夫婦を避難させる。一方、妊娠がわかった息子の妻いずみは、子を守りたい一心から放射能への恐怖を募らせていく。 「これは見えない戦争なの。弾もミサイルも見えないけど、そこいらじゅう飛び交ってるの、見えない弾が!」 終わりなき絶望と不安の先に、果たして希望の未来はあるのだろうか?

鬼才・園子温にしか描けない――
原発事故に翻弄される、どこにでもいる家族の物語

pic作品を発表するごとに話題を呼ぶ監督・園子温が、実際に被災地で取材を重ね、見聞きした事実をもとに描かれる本作。フィクションでありながら、未曾有の事態に巻き込まれた人々の情感を克明に記録し、“生”や“尊厳”を鮮やかに描写する。 静謐で美しい映像がとらえるのは、震災後の新たな日常と懸命に格闘する家族のひたむきなたたずまいだ。

主人公の小野泰彦には、日本映画にその足跡を残してきた名バイプレイヤーであり、5月11日に急逝した夏八木勲。妻に扮した大谷直子と共に警戒区域に残る夫婦を熱演した。私たちの帰る場所はどこにあるのか? もし、その場所が消え去ろうとしていたら――。絶望の中、それぞれの希望を胸に大きな決断をする人々の物語は、誰の胸にも強烈な印象を残し、やがて大きな感動を呼び起こすだろう。


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かぞくのくに
(2011年 日本 100分 DCP ビスタ) 2013年6月8日から6月14日まで上映 ■監督・脚本 ヤン・ヨンヒ
■企画 河村光庸
■プロデューサー 佐藤順子/越川道夫
■監督補 菊地健雄
■撮影 戸田義久
■編集 菊井貴繁
■音楽 岩代太郎
■助監督 高杉考宏

■出演 安藤サクラ/井浦新/ヤン・イクチュン/京野ことみ/大森立嗣/村上淳/諏訪太朗/宮崎美子/津嘉山正種

■米アカデミー賞外国語映画賞日本代表/第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、C.I.C.A.E(国際アートシアター連盟)賞受賞/2012年ブルーリボン賞作品賞・主演女優賞・助演男優賞受賞/2012年キネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位

25年ぶりに兄が帰ってきた
父が楽園と信じたあの国から。

pic病気治療のために3か月間だけ許された兄・ソンホの帰国には、見知らぬ男が監視役として同行していた。微妙な空気に包まれる25年ぶりの家族団欒。奇跡的な再会を喜ぶかつての級友たち。一方、治療のための検査結果は芳しくなく、3か月では責任を持って治療できないと告げられてしまう。妹のリエや家族が必死で解決策を探していた矢先、本国からソンホに「明日、帰国するように」との電話が来るのであった…。

監督ヤン・ヨンヒが、今なお北朝鮮で暮らす家族を想い
書き下ろした<<真実の物語>>

pic処女作『ディア・ピョンヤン』が世界の映画祭で受賞、話題を呼んだヤン・ヨンヒの監督第三作。自身の実体験を基に書き起こした初のフィクション映画である。1970年代、帰国事業により北朝鮮へ帰った兄と、生まれた時から自由に生きてきた妹、そして兄を送った両親。束の間の再会を果たす家族の姿を通して見えてくるものとは――。公開直後から大きな反響を呼び多数の賞を受賞した他、米アカデミー賞外国語映画賞日本代表にも選ばれた。日本に生きる私たちが、絶対に観ておかなくてはならない一本。

pic★帰国事業とは
1959年から20数年間にわたって続いた北朝鮮への集団移住のこと。日本で民族差別や貧困に苦しんでいた9万人以上の在日コリアンが当時“地上の楽園”と謳われた北朝鮮へ渡った。国交が未だ樹立されていないため、帰国者たちの日本への再入国はほとんど許されていない。



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