【2022/7/2(土)~7/8(金)】『赤い影』『美しき冒険旅行』// 特別レイトショー『華氏451』

ジャック

撮影監督としてキャリアを積んでいたからでしょうか、ニコラス・ローグの監督作に映し出される風景はとても幻想的です。『美しき冒険旅行』の姉弟が歩くオーストラリアの広大な砂漠や『赤い影』の教会修復の仕事で訪れるヴェネツィアの街並み。しかしその風景の美しさとは裏腹に、これらの映画で描かれる旅路にはどこか不安を煽られるような、妙な落ち着かなさが潜んでいるように思います。

『美しき冒険旅行』の砂漠に取り残された14歳の姉と6歳の弟が出会う、成人儀式中の先住民との交流。『赤い影』の水難事故で娘を失ってしまった夫妻が向かう水の都ヴェネツィア。物語の中で何度も挟み込まれる動物や植物、または赤いレインコートと人物の顔や仕草など、イメージの断片が不吉な何かを予兆させます。次第に異様なトーンを帯びていく中、美しかった風景がまるで異世界のようになり、そこに迷い込んでしまったという戸惑いとスリルが強い印象を残します。

そしてふらふらと彷徨いながら、映画の終わりと共にそれがパっと解消されることに開放感を覚えるのは不思議なことです。一体何だったのか、すべてのことを理解したわけではないけれども、なんだか妙な体験をしてしまったという高揚感。もしかしたら迷路から抜け出したときの感覚に近いのかもしれません。“カッティングの魔術師”とも呼ばれたニコラス・ローグならではの映像美。ぜひご覧頂ければと思います。

美しき冒険旅行
Walkabout

ニコラス・ローグ監督作品/1971年/イギリス/100分/Blu-ray/ビスタ

■監督・撮影 ニコラス・ローグ 
■原作 ジェームズ・ヴァンス・マーシャル
■脚本 エドワード・ボンド 
■音楽 ジョン・バリー

■出演 ジェニー・アガター/リュシアン・ジョン/デヴィッド・ガルピリル/ジョン・メイロン/ロバート・マクダーラ/ピート・カーヴァー

©1971 Si Litvinoff Film Productions. All Rights Reserved.

【2022年7月2日から7月8日まで上映】

あの時、君が望みさえすれば‥‥。

オーストラリアの都会に暮らす14歳の姉と6歳の弟はある日父親とともに砂漠へピクニックに出掛けた。しかし父親が発狂、子供たちに発砲し、自殺した。広大な砂漠に取り残された二人は生き残るための旅を続けるが、水も食糧も尽きてしまう。そこにアボリジナルの少年が現れ、二人を救う。以後、二人は言葉の通じない少年に手助けされながら一緒に旅を続けるが…。

ニコラス・ローグの最高傑作とも評される不朽の名作

1972年に公開されて以来、熱狂的ファンの間でニコラス・ローグの最高傑作として語り継がれてきた“幻の映画”。オーストラリアの原野を旅する少女と弟を主人公に、言葉の通じないアボリジナルの少年との出会い、淡い恋を描く。

原題『WALKABOUT』には二重の意味が込められている。ひとつはアボリジナルの部族に伝わる、少年がたった一人でオーストラリアの奥地を旅する成人儀式。もうひとつは幼い姉弟の生死を賭けた放浪である。14歳の少女役に『若草の祈り』のジェニー・アガター。少女に恋するアボリジナルの少年役に『裸足の1500マイル』のデヴィッド・ガルピリル。憂いを帯びた叙情的な美しい音楽は、ジョン・バリー。

赤い影
Don't Look Now

ニコラス・ローグ監督作品/1973年/イギリス・イタリア/110分/Blu-ray/ビスタ

■監督 ニコラス・ローグ
■原作 ダフネ・デュ・モーリア
■脚本 アラン・スコット/クリス・ブライアント
■撮影 アンソニー・リッチモンド
■編集 グレーム・クリフォード
■音楽 ピノ・ドナジオ

■出演 ジュリー・クリスティ/ドナルド・サザーランド/ヒラリー・メイソン/クレリア・マターニア/マッシモ・セラート/レナート・スカルパ

■1973年英国アカデミー賞撮影賞受賞・作品賞・主演男優賞ほか3部門ノミネート

©Tamasa Distribution

【2022年7月2日から7月8日まで上映】

未来を見てしまった。恐ろしい未来を。

バクスター夫妻は、突如として愛娘クリスティンを水難事故で失ってしまう。数ヶ月後、ジョンは妻ローラを連れ、教会修復の仕事でイタリアのベニス(ベネツィア)へと赴いていた。ある日、夫妻は年老いた姉妹と邂逅する。姉ウェンディ曰く、盲目の妹ヘザーには霊感があり、赤いレインコートを着た亡き娘さんの姿が視えるというのだ。その後、姉妹と再会したローラは、亡き娘の言葉を借りたヘザーから「ベニスを去らなければ、ジョンの身に危険が降りかかる」と忠告される。ジョンはその警告に取り合わず、ローラは不安になるのだった…。

映像の魔術師ニコラス・ローグが贈る美しくオカルティックな愛憎劇

“家族の悲劇から恐怖の悪夢へ”と。『レベッカ』『鳥』等ヒッチコック作品の原作でも知られるダフネ・デュ・モーリアの小説を、映像の魔術師ニコラス・ローグが水の都ヴェネチアを舞台に描くカルト・サイコスリラー。赤を生かした色彩演出が光る美しくオカルティックな愛憎劇で、イギリス映画人150人が選ぶ 〈イギリス映画ベスト100〉(Time Out London)の第一位に選出されている。出演は『M★A★S★H』のドナルド・サザーランドと『ドクトル・ジバゴ』『華氏451』のジュリー・クリスティ。

【特別レイトショー】華氏451
【Late Show】Fahrenheit 451

フランソワ・トリュフォー監督作品/1966年/イギリス・フランス/112分/Blu-ray/ビスタ

■監督 フランソワ・トリュフォー
■原作 レイ・ブラッドベリ
■脚本 フランソワ・トリュフォー/ジャン・ルイ・リシャール
■撮影 ニコラス・ローグ
■音楽 バーナード・ハーマン

■出演 オスカー・ウェルナー/ジュリー・クリスティ/シリル・キューザック/アントン・ディフリング/ジェレミー・スペンサー/アレックス・スコット

©️Images courtesy of Park Circus/Universal

★レイトショー上映はどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

【2022年7月2日から7月8日まで上映】

もし、この世界から文字が抹殺されたら?

徹底した思想管理体制のもと、書物を読むことが禁じられた社会。禁止されている書物の捜索と焼却を任務とする消防士のモンターグは、偶然出会った可憐な女性クラリスの影響で、本の存在を意識し始める。やがて、活字の持つ魔力の虜となったモンターグ。だが、彼を待っていたのは、妻リンダの冷酷な裏切りだった…。

原作ブラッドベリ×監督トリュフォー×撮影ローグ 極度に発達した物質文明の未来社会を鋭く描いた問題作!

トリュフォー監督にとって初のカラー作品、スタジオでのセット撮影、英語によるセリフ等、それまでとは大きく異なる環境で作られたファン必見の1本。「火星年代記」で名高いSF文学の巨匠レイ・ブラッドベリの原作をもとに映画化された本作は、読書が禁じられた近未来の超管理社会を舞台に、焚書官の男と本を所持している女の心の交流を、後に映画監督となるニコラス・ローグの硬質な映像美で描いた異色作。

ポー、ナボコフ、ルブランら古今東西の名作が多数引用される場面は読書家トリュフォーならでは。ネット依存で活字離れが進む現代を予見した傑作。タイトルは書物に火がつき、燃え上がる温度を意味している。(2014年デジタルリマスター版公開時のHPより一部抜粋)