【2019/9/7(土)~9/13(金)】『芳華-Youth-』+『さらば、わが愛/覇王別姫』/『初恋のきた道』

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹では、『芳華-Youth-』『さらば、わが愛/覇王別姫』『初恋のきた道』の3本を上映いたします。

ある時期の中国を題材にすることは、政治的であることと分かちがたく結びついています。この3作品も例外ではなく、『芳華-Youth-』の主人公たちは軍隊の士気高揚のための芸能集団であり、『さらば、わが愛/覇王別姫』は権力の趨勢に翻弄される京劇俳優、また『初恋のきた道』では、当時の政権による文化人を対象にした思想弾圧が、劇中にはっきりと現れています。

しかしながら、いずれも政治や社会にイシューとして大きくは訴えかけようとせず、友情と恋愛、嫉妬や裏切り、信頼といった、若い登場人物たちの交差する感情を描くことで、みずみずしくも時に残酷な青春時代の肖像が映し出されるのです。それは政治についての監督たちの消極的な態度というより、若者たちの日々の姿を前景化することで、かえって彼らのきらめきに差し込んだ、薄暗い時代の影を浮き彫りにしたように感じるのです。別の見方をすれば、そうした日常での幸せと不幸せが作品の主題であることこそが、社会の大きな波に対する映画を作る者の抵抗と言えるのかもしれません。

もう一つ映画の中の登場人物に共通するのは、頑なに信念を貫いて生きていく態度ではないでしょうか。初恋を心に秘めたシャオピン(『芳華-Youth-』)。愛憎相半ばする叶わぬ想いに身を焦がす蝶衣(『さらば、わが愛/覇王別姫』)。帰らないかもしれない相手を待つディ(『初恋のきた道』)。抗うことができない、濁流のように混乱し変遷していく世界に流されたとしても何を大事に生きていくか―そうした人間の芯のようなものは、いつの時代も不変であるのではないでしょうか。

さらば、わが愛/覇王別姫
Farewell My Concubine

チェン・カイコー監督作品/1993年/香港/172分/DCP/ビスタ

■監督 チェン・カイコー
■原作・脚色  リー・ピクワー
■製作 トン・チュンニェン/シュー・フォン
■撮影  クー・チャンウェイ
■編集 ペイ・シャオナン
■音楽 チャオ・チーピン

■出演 レスリー・チャン/ チャン・フォンイー/コン・リー/ルォ・ツァイ/クー・ヤウ/ホァン・ペイ/トン・ディー/イン・ダー/チー・イートン

■1993年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/ロサンゼルス映画批評家協会賞/外国語映画賞受賞/ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞・助演女優賞受賞/ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞

©1993 ALL RIGHT RESERVED.TOMSON(HK)FILMS CO.,LTD.

【2019年9月7日~9月9日まで上映】

愛しても愛したりない、憎んでも憎みきれない、舞台を染める運命の愛。

幼いころから北京の京劇役者養成所で厳しい訓練を受けながらも、兄弟のように共にかばいあい慕いあって成長したシャオロウとティエイーの二人。やがて逞しい青年に成長したシャオロウは立役者、華奢な美少年のティエイーは女形として、京劇『覇王別姫』の名役者として人気を得る。

しかし、時代は日本による統治、第2次世界大戦、共産党政権樹立、文化大革命と、かつてない動乱を迎え、いやおうなく二人もその趨勢に翻弄されてゆく。どんな苦境にあってもティエイーはシャオロウへの想いを抱き続けるが、シャオロウは高級娼婦のジューシェンと結婚してしまう…。

中国・香港・台湾から一流スタッフ&キャストが結集、壮大なスケールで描く大河ロマン。絢爛たる京劇の世界を激動の歴史が貫く。

京劇の古典「覇王別姫」を演じる2人の役者の愛憎を、国民党政権下の1925年から文化大革命時代を経て、50年に渡る中国の動乱の歴史と共に描く一大叙事詩。中国第五世代の旗手チェン・カイコー監督の代表作で、1993年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。チェン・カイコーは2008年に「覇王別姫」の作者として知られる京劇の名女形・梅蘭芳の生涯を描いた『花の生涯~梅蘭芳~』も制作している。

当時香港のトップスターであったレスリー・チャンが京劇役者役を熱演。レスリーは歌手としてデビュー後、『男たちの挽歌』『欲望の翼』など俳優としても活躍し、本作では京劇の舞いと北京語の猛練習を積んで難しい役どころを見事に演じきった。また、『紅いコーリャン』『秋菊の物語』などで中国を代表する女優・コン・リーが、恋敵となる高級娼婦役で出演。当時考え得る最高のキャスト・スタッフが集結した。

初恋のきた道
The Road Home

チャン・イーモウ監督作品/2000年/アメリカ・中国/89分/DCP/シネスコ

■監督  チャン・イーモウ
■脚本 パオ・シー
■撮影 ホウ・ヨン
■編集 チャイ・ルー
■音楽 サン・パオ

■出演 チャン・ツィイー/スン・ホンレイ/チョン・ハオ/ チャオ・ユエリン/リー・ピン/チャン・クイファ/ソン・ウェンチョン/リウ・チー/チー・ポー/チャン・チョンシー

■第50回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞

©2000 COLUMBIA PICTURES FILM PRODUCTION ASIA LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

【2019年9月10日から9月13日まで上映】

悲しみも幸せも、長い長い道の向こうからやってきた。

華北の美しい村。都会で働く青年は、父の訃報を聞いてこの村に戻って来た。母は伝統の葬儀をすると言って周囲を困らせる。石のように頑なな母。その様子を見ながら息子は伝説となった父母の恋物語を思い出していた…。

都会からやってきた若い教師に恋して、その想いを伝えようとする18歳の少女。手作り料理の数々に込めた少女の恋心は、やがて彼のもとへと届くのだが、時代の波が押し寄せ二人は離れ離れに。少女は町へと続く一本道で、来る日も来る日も愛する人を待ち続ける。その二人の一途な想いが、様々な人々の人生を切り拓いてくれたのだと、母があれほどこだわった葬儀の日に明らかになり…。

お料理で初恋を伝える少女とその想いに教壇の声で応える青年教師 不思議に懐かしく、あまりにも清冽な感動を運ぶラブ・ストーリー

『初恋のきた道』は、移ろいゆく四季の中、都会と村をつなぐ一本の道を通して語られる親子2代の愛の物語である。真心とは?人間が誠実であるとは何か?を切々と、そして瑞々しい映像美で描き出す。

監督は『HERO』(02)『LOVERS』(04)などワイヤーアクション武術映画の大ヒット作品を手掛け、2008年の北京オリンピック開会式及び閉会式のディレクターも務めた中国を代表する巨匠チャン・イーモウ。『紅いコーリャン』(87)『菊豆』(90)など、それまで情念の濃い原色の映像美を打ち出してきたイーモウが、2000年に公開された本作では、ヴェネチア映画祭グランプリ受賞の『あの子を探して』(99)に続き、まったく新しい作家性で爽やかな光溢れる人間賛歌を謳い、第50回ベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた。主演はアジアのトップ女優チャン・ツィイー。これが彼女の記念すべき映画デビュー作となった。

芳華-Youth-
Youth

フォン・シャオガン監督作品/2017年/中国/135分/DCP/シネスコ/PG12

■監督 フォン・シャオガン
■製作 フォン・シャオガン/ワン・チョンジュン/ワン・チョンレイ
■原作 ゲリン・ヤン
■撮影 パン・ルオ
■編集 チャン・チー
■音楽 チャオ・リン

■出演 ホアン・シュエン/ミャオ・ミャオ/チョン・チューシー/ヤン・ツァイユー/リー・シャオファン/ワン・ティエンチェン/ヤン・スー/チャオ・リーシン

■第12回アジア・フィルム・アワード最優秀作品賞受賞ほか4部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd Huayi Brothers Pictures Limited
IQiyi Motion Pictures(Beijing) Co., Ltd Beijing Sparkle Roll Media Corporation
Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd All rights reserved

【2019年9月7日から9月13日まで上映】

あの頃、初恋を心に秘めて、あなただけをみつめていた――。

文化大革命、毛沢東の死、中越戦争という激動の時代に揺れる1970年代の中国。17歳のシャオピンは、ダンスの才能を認められ、歌や踊りで兵士たちを慰労し鼓舞する歌劇団・文工団に入団する。周囲となじめずにいる彼女の唯一の支えは、模範兵のリウ・フォン。しかし、時代が大きく変化する中、ある事件をきっかけに、二人の運命は非常な岐路を迎える――。

4000万人が涙した――。激動の嵐に包まれた70年代、中国。時代に翻弄された若者たちの美しく切ない青春の日々。

『狙った恋の落とし方。』(08)、『唐山大地震』(10)など、中国を代表する巨匠フォン・シャオガン監督が、軍の歌劇団である文芸工作員(=文工団)に所属した自らの若き日の記憶をよみがえらせ、同じく若き日に文工団に所属し、「シュウシュウの季節」「麦への家路」で知られる作家ゲリン・ヤンの原作をもとに、満を持して映画化した本作。

中国で公開されるや2週連続1位を獲得し、1ヶ月で興収230億円という爆発的な大ヒットを記録、文芸ドラマというジャンルにも関わらず年間興収ベスト10入りを果たし、国内の映画賞を席巻、のみならずアジアのアカデミー賞と呼ばれるアジア・フィルム・アワード最高の最優秀作品賞に輝いた。

激しい戦線のすぐ傍らで、青春を送る若者たちの日々。裕福で時代の変化にうまく乗る者。貧しくとも誠実に生きる者。時代に残酷に翻弄されながらも、彼らの若さ輝く瑞々しいきらめきと純粋な想いは、観客の胸をしめつけ、深い余韻とともに心に刻み込まれる。