ぽっけ
「私たちは大人たちの裏切りに気づき始めている」
幼い頃、誰もが「よく学べ」と周りの大人たちに言われた。でも見たままの事実を子供たちが口にしたとき、大人はそれを受け入れることができるだろうか。「わかってない」「だまっていろ」と怒鳴りはしないだろうか。もしある事実に直面したときに、目をそらして黙っていなければいけないのだとしたら、学びには一体どんな価値があるというのだろう。
あまりにも悲惨な窮状に耐えかねて家を飛び出した少年ゼインが見たひどい社会の実状。彼はまるで世界中のストリートチルドレン『存在のない子供たち』を代表するような嘆きを込めて、両親を告訴する。理由は「僕を産んだから」。
大旱魃(だいかんばつ)によって、国民の70%が飢饉で苦しむマラウイで育つ勤勉な少年ウィリアム。誰もが目先の生活のために土地を売ろうとするなか、身の回りにある技術と学校で得たわずかな知恵でその現実と立ち向かおうとする『風をつかまえた少年』。
誰かにとって都合のいい学びではなく、幼いながらも相対する現実に立ち向かうために未来を学びとる子供たちの物語。それは一見感動的で、未来を憂える大人たちを安心させる物語かもしれない。しかし私たちは無自覚に子供たちや、未来にすべてを託すことにあまりにも慣れ過ぎてしまっているのではないだろうか。
冒頭の言葉は昨年話題を呼んだ(つい先日17歳の誕生日を迎えた)当時16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの演説の中の一文だ。そのメッセージの中で最も新鮮だったのは、もう「未来を守る」キャンペーンに子どもたちを付き合わせて安心するのはやめてほしいことを表明したことだった。子供たちが人類の未来のために高い意識と希望を持った発言をすることを求めているのは、その姿に安心したい大人たちだけなのではないか。実際に大人たちに都合よくない発言をしたグレタさんの発言は世界中で賛否を巻き起こした。
ゼインの嘆きはこの訴えに似ている。「生んでもらったことを感謝せよ」は人類の合言葉のように繰り返されてきた。しかしいまこの世に子供を生み出すことを不安に思う人は多い。それは自然と社会と個人が結んできた関係が変わってきてしまっているということではないだろうか。いま希望を語ろうとするときに無視してはいけないこと。この二本の映画にはそのヒントがあるように思う。
風をつかまえた少年
The Boy Who Harnessed the Wind
■監督・脚本 キウェテル・イジョフォー
■原作 ウィリアム・カムクワンバ/ブライアン・ミーラー
■撮影 ディック・ポープ
■編集 ヴァレリオ・ボネッリ
■音楽 アントニオ・ピント
■出演 マックスウェル・シンバ/キウェテル・イジョフォー/アイサ・マイガ/リリー・バンダ/レモハン・ツィパ/フィルベール・ファラケザ/ノーマ・ドゥメズウェニ
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
【2020年1月18日から1月24日まで上映】
14歳の少年は荒れ果てた土地の真ん中でいかにして電気と未来を手に入れたのか?
2001年、アフリカの最貧国のひとつマラウイを大干ばつが襲う。14歳のウィリアムは飢饉による貧困で学費を払えず通学を断念するが、図書館で1冊の本と出会い、独学で風力発電のできる風車を作り、乾いた畑に水を引くことを思いつく。いまだに祈りで雨を降らせようとする村で、最愛の父でさえウィリアムの言葉に耳を貸さない。それでも家族を助けたいという彼のまっすぐな想いが、徐々に周りを動かし始める――。
世界を感動で包んだベストセラーついに映画化! 奇跡の実話が学ぶことの大切さを教えてくれる。
2010年に日本でも出版された1冊のノンフィクションが、世界を驚かせた。中等学校を退学になった14歳の少年が、当時人口のわずか2%しか電気を使うことが出来ない、世界で最も貧しい国のひとつアフリカのマラウイで、自分の頭脳と手だけを頼りに自家発電することに成功したのだ。彼は家族と村の人々を救うだけでなく、大学へ進学し、様々な活動を通して2013年にタイム誌の「世界を変える30人」に選ばれるという素晴らしい人生も手に入れた。
この現代の奇跡に感銘を受けた、『それでも夜は明ける』の名優キウェテル・イジョフォーが、10年の歳月をかけて初監督作品として映画化を実現。2019年、サンダンス映画祭を皮切りに、ベルリン国際映画祭でも公式上映され熱い喝采を浴びた。ウィリアムを演じるのは、これまで全く演技の経験がなかった少年、マックスウェル・シンバ。逃げ出したくなるほど険しい道も、絶望するほど高い壁も、好奇心と勇気を武器に変えて次々とクリアしていくウィリアムを生き生きと演じ切った。
存在のない子供たち
Capharnaum
■監督 ナディーン・ラバキー
■製作・音楽 ハーレド・ムザンナル
■脚本 ナディーン・ラバキー/ジハード・フジャイリー/ミシェル・カスルワーニー
■撮影 リストファー・アウン
■編集 コンスタンティン・ボック/ロール・ガルデット
■出演 ゼイン・アル=ラフィーア/ヨルダノス・シフェラウ/ボルワティフ・トレジャー・バンコレ/カウサル・アル=ハッダード/ファーディー・カーメル・ユーセフ/シドラ・イザーム/アラーア・シュシュニーヤ/ナディーン・ラバキー
■2018年カンヌ映画祭コンペティション部門審査員賞・エキュメニカル審査員賞受賞/アカデミー賞外国語映画賞ノミネート/ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート
© 2018MoozFilms
【2020年1月18日から1月24日まで上映】
両親を訴えたい。こんな世の中に僕を産んだから。
中東の貧民窟に生まれた12歳のゼインは、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らないし、法的には社会に存在すらしていない。学校へ通うこともなく、兄妹たちと路上で物を売るなど、朝から晩まで両親に劣悪な労働を強いられていた。唯一の支えだった大切な妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみから家を飛び出したゼインを待っていたのは、さらに過酷な“現実”だった――。
誕生日も知らない、戸籍もない少年ゼイン。両親を告訴するに至るまでの痛切な思いが心を揺さぶる。
苛烈なまでの中東の貧困と移民の問題に、一歩もひるむことなく果敢に挑んだ監督は、レバノンで生まれ育ったナディーン・ラバキー。監督・脚本・主演を務めたデビュー作『キャラメル 』が、いきなりカンヌ国際映画祭の監督週間で上映された逸材だ。本作のリサーチ期間に3年を費やし、監督が目撃し経験した事を盛り込んでフィクションに仕上げた。
主人公ゼインをはじめ出演者のほとんどは、演じる役柄によく似た境遇にある素人を集めた。感情を「ありのまま」に出して自分自身を生きてもらい、彼らが体験する出来事を演出するという手法をとった結果、リアリティを突き詰めながらも、ドキュメンタリーとは異なる“物語の強さ”を観る者の心に深く刻み込む。
ゼインが求めているもの、それはすべての子供たちにあるはずの<愛される権利>。その権利を手にするまでの長い旅路に胸を締めつけられる慟哭の物語が誕生した。
【特別レイトショー】マイライフ・アズ・ア・ドッグ
【Late Show】My Life as a Dog
■監督 ラッセ・ハルストレム
■原作 レイダル・イェンソン
■脚色 ラッセ・ハルストレム /レイダル・イェンソン /ブラッセ・ブレンストレム/ペール・ベルイルント
■撮影 イェリエン・ペルション
■音楽 ビョルン・イシュファルト
■出演 アントン・グランセリウス/メリンダ・キナマン/マンフレド・セルネル/アンキ・リデン
■1988年ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞/NY映画批評家協会賞最優秀外国語映画賞/アカデミー賞監督賞・脚色賞ノミネート
©1985 AB Svensk Filmindustri Still Photographer: Denise Grünstein
【2020年1月18日から1月24日まで上映】
スプートニクがライカ犬を乗せて飛んだ夜、僕は大人への一歩を踏み出した――
12歳のイングマルは、いじめっ子の兄、病気がちなママ、愛犬シッカンと暮らしていた。パパは南洋の海に行ったきり。夏になりママの病状が悪化し、兄は祖母の、イングマルは叔父の家に預けられることに。大きなガラス工場のある小さなオーフェルシュ村にやって来たイングマルは、都会ではお目にかかれないような人々に出会うが、特に村のガキ大将だと思っていたサガが女の子だったことに仰天する…。
『ギルバート・グレイプ』『サイダーハウス・ルール』、近年では『僕のワンダフル・ライフ』など犬映画の名手としても知られるラッセ・ハルストレム監督が、スウェーデン時代に製作した出世作。病気の母親を持つ少年が、愛犬の存在を心の支えに悲劇的な運命や、自身の思春期の変化に戸惑いながらも、前向きに生きようとする姿が感動的に描かれる。やんちゃな主人公をはじめ、子役たちの生き生きとした演技を監督が巧みに引き出している。ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞作。