toppic

マザーグースによれば、男の子は「蛙」と「蝸牛」と「子犬のしっぽ」でできていて、女の子は「お砂糖」と「スパイス」と「すてきなものいっぱい!」でできている。でもわたしたちは知っている。現実の女の子がそんなに素敵になんて、できていないことを。

今週は「結婚式」を機軸として描かれる、
女性の群像劇で二本立てにしてみました。
レバノンの女性群像劇、『キャラメル』と、
ジョナサン・デミの最新作であるホームドラマ、『レイチェルの結婚』です。

結婚式というのは現実の出来事なのに、どこか虚構の世界を感じさせる。
普段は着ないきらびやかな服やドレスを身にまとい、
多くの初対面の人と、新郎新婦の喜びを共有する。

結婚は人生の節目なんていうけれど、
喜びと幸せの真っ最中な当人たちよりも、
まわりの人たちのほうが人生の節目を意識するのではないだろうか。

過去を振り返ったり、未来を憂いだり。
自分に近しい人の結婚であればあるほど、時の流れを感じたり、
自分の人生を省みたりしてしまうんじゃないだろうか。

レバノンの首都、ベイルートの街角にある小さなエステサロンを舞台にした『キャラメル』は、
サロンのスタッフやそこに通う常連客たちの悲喜こもごもが描かれる。

キャラメル
CARAMEL
(2007年 レバノン・フランス 96分 ビスタ・SRD)

pic 2009年9月12日から9月18日まで上映■監督・脚本 ナディーン・ラバキー
■脚本 ジハード・ホジェイリー/ロドニー・アル=ハッダード
■出演 ナディーン・ラバキー/ヤスミーン・アル=マスリー/ジョアンナ・ムカルゼル/ジゼル・アウワード/アーデル・カラム/シハーム・ハッダード

■オフィシャルサイト http://www.cetera.co.jp/caramel/

サロンのオーナー、ラヤール(演じるのは監督・脚本・主演と3役!をこなすアジアン・ビューティー、ナディーン・ラバキー)は不倫の恋真っ最中。スタッフたちも、そこに集う客たちも、何やら問題を抱えている。結婚を間近に控えて婚約者に言えない秘密を持っていたり、同性愛めいた感情をもてあましていたり、年老いていく自分の容姿を受け入れられずにいたり。

pic恥ずかしながら、私はレバノンについてほとんど何も知らない。それ故、「レバノン映画」と聞いてもなんの先入観も抱けない。『キャラメル』は人生で初めて観たレバノン映画だ。しかし一度この映画を見ると、レバノンという国に、否、レバノンの女性たちに親近感のような愛情を抱かずにはいられない。日本の、私たちの周りにごくありふれているガールトーク、すなわち恋愛、結婚、不倫、セックス、エイジングは、当たり前だけど、はるか遠くのレバノンでも共通だった。

私たちには「理想の自分」と「現実の自分」が存在していると思う。現実に対して「こんなはずじゃない」と嘆くのは、「こうありたい」という理想が存在するからだ。理想を夢見て、現実に失望する。人生は、うんざりするほどに理不尽で、矛盾と束縛に満ちている。

「現実の自分」を受け入れられずにいるのは、『レイチェルの結婚』のキム(アン・ハサウェイ)も同様。


レイチェルの結婚
RACHEL GETTING MARRIED
(2008年 アメリカ 112分 ビスタ・SRD)

pic 2009年9月12日から9月18日まで上映 ■製作・監督 ジョナサン・デミ
■脚本 ジェニー・ルメット

■出演 アン・ハサウェイ/ローズマリー・デウィット/デブラ・ウィンガー/トゥンデ・アデビンペ/ビル・アーウィン/アンナ・ディーヴァー・スミス/マーサー・ジッケル/アニサ・ジョージ

■オフィシャルサイト http://www.sonypictures.jp/movies/rachelgettingmarried/

姉のレイチェルの結婚式を前に、とある施設から退所してきたキム。結婚式の準備でおおわらわのレイチェルとその友人たちを前に、9ヶ月ぶりに自宅に戻ってきたキムは、自分の家なのに自分の居場所を見出せないでいる。ぴりぴりした空気を撒き散らすキムの存在は、結婚式の準備で華やぐバックマン家の空気を壊していく。

アン・ハサウェイといえば、『プラダを着た悪魔』や『プリティ・プリンセス』等、「清くかわいい女の子!」な役の印象が強かった。しかし本作のキムはどうだろう。アイラインを囲みで入れて、煙草をすぱすぱとふかし、「FUCK」を連発するジャンキーである。このキムの、「もっとうまくやりたいのに、全てがうまくいかない自分」に対する焦燥感を体現するアン・ハサウェイは見事だ。

キムは、現実の自分を受け入れるための助けの求め方も、求める相手も解らずにいる。解らないから、周りの人に当り散らすしかない。

バックマン家には、かつて悲劇があった。決して立ち直れないその傷を、家族のひとりひとりが胸にしまいこんで、鍵をかけた。誰よりも傷ついているキムが、その鍵をこじあけ、あえて傷をえぐり出す。

「世界で一番美しいホームビデオを目指した」とジョナサン・デミが語るように、リハーサルなし、手持ちカメラで追いかける本作は、本当に家族のドキュメンタリーのよう。このバックマン家ほどドラマティックではないにしろ、どんな家庭にも醜い一面というのは存在する。家族って、存在が近すぎるがゆえに、許せないことも多い。外には取り繕っていても、家族には見せてしまう醜い部分。その醜さがとても生々しく、痛くて、私は始終目が離せなかった。

許すこと。受け入れること。人を、自分を、現実を。

生きていくだけで十分辛い。目に見えるよりももっと、深く沈んで、傷ついて、思い悩んで、苦しんでいる女性たち。悲しくても、うまくいかない現実でも、まだ歩いていかなければならないことを知っているから、そして、そうしていれば、ひょっとしたらこの先にはいいことだって起こりうると信じていられるから。全ての女性は美しい。

レバノンではキャラメルが脱毛に使われる。甘いお砂糖に水を加え、レモンを絞って煮立たせ、煮詰めたもの。おいしいはずの砂糖には塩気と酸味があり、時に人を焦がして痛めつけてしまう。甘くてかわいいお菓子のような映画だと思って見ると、今週の2本は火傷を負うかもしれません。それでも見終わった後、女性に対して、自分に対して優しくなれる二本です。

(mana)


このページのトップへ