パズー
ナンニ・モレッティとペドロ・アルモドバル。新作を発表すれば必ず国際映画祭に招待される、ヨーロッパを代表する映画監督です。ともに20歳ごろから短編を撮り始め、長編デビューもモレッティは1976年(『自立人間(未)』)、アルモドバルは1980年(『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち(未)』)と同時期。いくつもの代表作を生み出し、今日まで一度も立ち止ることなく活動し続けています。
外から見える作風は全く違う2人ですが、彼らの新作を観て心を打たれたのはどちらも同じ、“自分の言葉で物語を語る”ことへの決意や強さのようなものでした。
ローマの高級住宅街の同じアパートに住む3つの家族が、それぞれ少しずつ関わりながら、家族の不和と対峙していく様を描いたナンニ・モレッティの『3つの鍵』。意外にも初の原作ものの映画化だったという本作ですが、小説では独立していたエピソードを1つの映画に見事にまとめあげています。3階に住むの家の息子が1階の家のガレージに車で突っ込む冒頭のシーンから一気に物語に引き込まれ、まるで自分が“4つ目の鍵”を持つアパートの住人にでもなったような気分で彼らの行く末を覗き見るうちに、あっという間に5年、10年と時が進み、エンディングを迎えてしまいます。
偶然同じ日に母となった2人のシングルマザーが辿る運命と絆を描いたペドロ・アルモドバルの『パラレル・マザーズ』。2人の母の話は、彼女たちの母の話に繋がり、さらに先祖たちが生きたスペイン内戦の時代にまで遡ります。そしてもちろん、新しく生まれてきた娘たちの未来が待っている――常に母たち、女性たちの物語を紡いできたアルモドバルは、本作でスペイン現代史にも踏み込み、個人史と歴史との関わりを描くことを試みています。
映画祭の常連、巨匠と呼ばれるような円熟期の作家が、自分の持ち味や演出手腕を存分に活かしながら、挑戦を恐れずに新たな物語を生み出そうとする軽やかさと勇気が、どちらの作品にも共通しています。家族、人生、歴史や社会に対する深い考察。そのどれもが引き離されたテーマではなく、縦や横に繋がりをもっていること。皮肉とユーモアを忘れずに、多元的な視点で現代を捉える監督たちが創り出す極上のヒューマンドラマは、映画の醍醐味を教えてくれるはずです。
3つの鍵
Three Floors
■監督 ナンニ・モレッティ
■製作 ナンニ・モレッティ/ドメニコ・プロカッチ
■原作 エシュコル・ネヴォ
■脚本 ナンニ・モレッティ/フェデリカ・ポントレーモリ/ヴァリア・サンテッラ
■撮影 ミケーレ・ダッタナージオ
■編集 クレリオ・ベネヴェヌート
■音楽 フランコ・ピエルサンティ
■出演 マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/アルバ・ロルヴァケル/アドリアーノ・ジャンニーニ/エレナ・リエッティ/ アレッサンドロ・スペルドゥティ/ デニーズ・タントゥッチ/ステファノ・ディオニジ/ナンニ・モレッティ
■2021年カンヌ国際映画祭コンペティション正式上映
© 2021 Sacher Film Fandango Le Pacte
【2023/3/25(土)~3/31(金)上映作品】
人生の謎を解く鍵はいくつもある
ローマの高級住宅街の同じアパートに住む3つの家族。顔見知り程度の隣人の扉の向こう側の顔を誰も知らない。ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3 階に住むヴィットリオとドーラの裁判官夫婦の息子アンドレアだった。同じ夜2 階のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中のためたった一人で病院に向かう。仕事場が事故で崩壊した1 階のルーチョとサラの夫婦は、娘を朝まで向かいの老夫婦に預けた。後日、ルーチョはジムに行くために軽率にも認知症が疑われる隣りの夫に娘を預け、二人は一時行方不明になる。ルーチョは娘に何か起きたのではと疑念を持ち始め…。
円熟のモレッティが巧みな演出でみせる新境地 観客をひき込む濃密なドラマ
監督デビュー以来一貫してオリジナル作品を撮り続けてきたモレッティ初の原作の映画化。イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの原作の舞台をテルアビブからローマに移し、3つの独立した物語を5年後10年後と時間を軸に再構成した。1973 年のデビューから常に変化を続け、50年近いキャリアが生み出す卓越した演出力に息をのむ。
時代を見通し先見してきたモレッティは、本作では「孤独」という問題を描いてみせる。監督は“人生はいつでも何度でもやり直せる可能性がある”ことを観客に提示する。主人公たちが人生の扉を開けた時、部屋に新しい風が吹いたように、外に出て人と交わることで思いもよらなかった何かに出会う予兆を感じさせる。責任、価値観がもたらした恐れ、疑い、孤独から自由になる〈解放〉を象徴するかのようにミロンガが効果的に使われる。
キャストには、『夫婦の危機』からモレッティ作品の常連マルゲリータ・ブイ、『あしたのパスタはアルデンテ』のリッカルド・スカマルチョ、『幸福なラザロ』のアルバ・ロルヴァケルら、イタリア映画界を牽引する演技派俳優たちが豪華競演。リアリティを出すためと監督が語る抑制された演技で濃密な時間を生み出した。
パラレル・マザーズ
Parallel Mothers
■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■製作 アグスティン・アルモドバル/エステル・ガルシア
■撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
■編集 テレサ・フォント
■音楽 アルベルト・イグレシアス
■出演 ペネロペ・クルス/ミレナ・スミット/イスラエル・エレハルデ/アイタナ・サンチェス=ギヨン/ロッシ・デ・パルマ/フリエタ・セラーノ
■2021年アカデミー賞主演女優賞・作曲賞ノミネート/ヴェネチア国際映画祭最優秀女優賞受賞/全米批評家協会賞主演女優賞受賞/LA批評家協会賞女優賞・音楽賞受賞/ゴールデン・グローブ賞外国映画賞・音楽賞ノミネート ほか多数ノミネート
© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU
【2023/3/25(土)~3/31(金)上映作品】
その絆が愛を変える。
フォトグラファーのジャニスと17歳のアナは、出産を控えて入院した病院で出会う。共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた二人は、同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。だが、ジャニスはセシリアと名付けた娘と対面した元恋人から、「自分の子供とは思えない」と告げられる。そして、ジャニスが踏み切ったDNAテストによって、セシリアが実の子ではないことが判明する。アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスだったが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選ぶ。それから1年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされる──。
歴史と世界、そして人間を見つめ続ける瞳で 愛と絆の新たな形を描く衝撃の感動作
自らの人生を投影した前作『ペイン・アンド・グローリー』で、世界各国から絶賛されたペドロ・アルモドバル監督。本作は、ライフワークでもある母の物語に戻り、同じ日に母となった二人の女性の数奇な運命と不思議な絆、この困難な時代における生き方を描く。さらに、アルモドバル監督の中で年を重ねるごとに重要となっていった「スペイン内戦」、彼らしいアプローチで人生のドラマの中に織り込み、深く広く多様な世界観を作り上げた。
ジャニスには、アルモドバル監督のミューズ、ペネロペ・クルス。答えの出ない問いを抱え続けるジャニスの複雑な心情を見事に体現し、ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞受賞をはじめ高い評価を得た。アナには、これが長編映画2作目の出演となるミレナ・スミット。アルモドバルに「偉大な新発見だ」と言わしめる恐るべき才能で、無垢なアナを繊細に生き切った。アナの母親役にアイタナ・サンチェス=ギヨン、さらにロッシ・デ・パルマも顔を出し、スクリーンに味わいを添える。
今この瞬間も世界のあちこちで戦いが続くからこそ、目の前の人を愛することの大切さを教えてくれる、アルモドバル渾身の一作。
【特別レイトショー】神経衰弱ぎりぎりの女たち
【Late Show】Women on the Verge of a Nervous Breakdown
■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■製作総指揮 アグスティン・アルモドバル
■撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
■編集 ホセ・サルセド
■音楽 ベルナルド・ボネッツィ
■出演 カルメン・マウラ/フェルナンド・ギリエン/フリエタ・セラーノ/アントニオ・バンデラス/ロッシ・デ・パルマ/マリア・バランコ
©1988 El Deseo, SA. All Rights Reserved.
★本作品はレイトショー上映です。
★3/25(土)~27(月)の3日間上映です。
☟入場料金
一律1000円/各種割引なし
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
【2023/3/25(土)~3/27(月)上映作品】
俳優のペパとイバンは同棲している。ある日イバンが留守番電話に伝言を残したきり突然姿を消してしまう。混乱したペパは必死にイバンの行方を探しながら、彼と暮らしたアパートを貸すことを決意する。そんな時、同じく気が動転した女ともだちのカンデラが一大事だと押し掛けてきた。さらにペパの部屋の下見に、カルロスとマリサという若いカップルまでがやってきて…。
突然恋人に去られた女、20年前の恋人を追いかける女、テロリストを好きになってしまった女─。追い詰められた女たちが繰り広げる恋愛狂騒劇。国際的にヒットし注目されたアルモドバル出世作!
【特別レイトショー】KIKA キカ
【Late Show】Kika
■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■製作総指揮 アグスティン・アルモドバル
■撮影 アルフレッド・メイヨ
■衣装 ジャン=ポール・ゴルチエ
■編集 ホセ・サルセド
■音楽 ペレス・プラド
■出演 ベロニカ・フォルケ/ピーター・コヨーテ/ビクトリア・アブリル/アレックス・カサノヴァス/ロッシ・デ・パルマ/サンティアゴ・ラフスティシア
©1993 – EL DESEO – TF1 All Rights Reserved.
★本作品はレイトショー上映です。
★3/28(火)~31(金)の4日間上映です。
☟入場料金
一律1000円/各種割引なし
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
【2023/3/28(火)~3/31(金)上映作品】
陽気で気立てのよいメイクアップ・アーティストのキカは、フォトグラファーで年下のラモンと同棲中。さらにラモンの義父で人気小説家のニコラスとも関係を結んでいた。そんなある日、脱獄したレイプ魔が自宅に侵入、キカが犯されてしまう。さらにその様子を向かいの建物から見ていた覗き魔が通報したことで、駆け付けた下劣なワイドショーのレポーターにその現場を撮影されてしまい…。
レイプ魔、殺人鬼、覗き魔、下衆なレポーター─。イカれたキャラクターたちを活写したアルモドバルの集大成的異色作!