【2022/9/24(土)~9/30(金)】『コーダ あいのうた』『ベルファスト』

パズー

耳の聴こえない両親を持つ子供=“CODA”である主人公と、その家族の物語である『コーダ あいのうた』は、監督を務めたシアン・ヘダーの強い希望で、全員実際のろう者の俳優がキャスティングされています。そのことが作品に与える影響はとても大きくて、これほど“聴こえない日常”が現実感をもって描かれたことはなかったように思います。

主人公のルビーは、家を出て大好きな歌の道に進みたいと望みますが、両親は彼女の気持ちがどうしても理解できません。ルビーの歌を聴くことができないということに加えて、家族の通訳係を担ってきた彼女が独り立ちするということは、家族全員にとっても外の世界へ踏み出すこと、つまりルビーなしで家族以外の人たちと関係を築いていかなければいけない大きな挑戦になるのです。“聴こえること”と“聴こえないこと”の壁は簡単には埋まらない。『コーダ』はその隔たりや葛藤を、美化するのでなく丁寧に、しかも辛辣にならず笑いをもって描いています。

『ベルファスト』は監督であり著名な俳優でもあるケネス・ブラナーの自伝的作品。北アイルランド紛争(*)が始まったとされる1969年のベルファストに暮らす家族の日々を、自身の幼少期の記憶を通してカメラに焼き付けています。本作も『コーダ』同様キャスティングへのこだわりがあり、実際に北アイルランドにルーツを持つ俳優たちが起用されています。訛りなどは正直わからないけれど、日本に置き換えてみれば、大阪の物語は大阪出身の俳優が演じるのが自然に感じることと同じで、それは作品が纏う雰囲気を決定づけていることのように思えます。

2020年のロックダウン中に脚本を書き始めたというブラナー監督。パンデミック、ウクライナ侵攻など、つい昨日までの日常が簡単に奪われてしまうという現実を経験した私たちに、非常事態のなかでも、人は互いに支え合い、小さな幸せを見つけて笑って生きていられるという『ベルファスト』のメッセージは、まっすぐ心に響くはずです。

今年の米アカデミー賞で賞を分けあった『コーダ あいのうた』と『ベルファスト』。この2本が多くの人から支持された理由は、いま、必要とされている物語だったからではないでしょうか。時に衝突しながらも未来に向けて歩み出すパワフルな家族の絆を描いた、珠玉の二本立てです。

*北アイルランドの領有を巡るイギリスとアイルランドの領土問題、地域紛争の総称。詳しくは作品公式HPの「歴史背景」に記載されています。 

ベルファスト
Belfast

ケネス・ブラナー監督作品/2021年/イギリス/98分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ケネス・ブラナー
■製作  ローラ・バーウィック/ケネス・ブラナー/ベッカ・コヴァチック/ テイマー・トーマス
■撮影 ハリス・ザンバーラウコス
■編集 ウナ・ニ・ドンガイル
■音楽 ヴァン・モリソン

■出演  カトリーナ・バルフ/ジュディ・デンチ/ジェイミー・ドーナン/キアラン・ハインズ/ララ・マクドネル/コリン・モーガン/ジュード・ヒル

■2021年アカデミー賞脚本賞受賞・作品賞ほか5部門ノミネート/2021年ゴールデン・グローブ賞脚本賞受賞/2021年トロント映画祭観客賞(最高賞)受賞/2021年英国アカデミー賞英国作品賞受賞・助演男優賞ほか4部門ノミネート/2021年放送映画批評家協会賞アンサンブル演技賞・若手俳優賞・脚本賞受賞ほか8部門ノミネート

© 2021 Focus Features, LLC.

【2022年9月24日から9月30日まで上映】

明日に向かって笑え!

ベルファストで生まれ育ったバディは家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。たくさんの笑顔と愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの暴徒が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々のなか、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。

ケネス・ブラナーのキャリア最高傑作!自身の幼少期を投影し、故郷ベルファストの愛情と厳しさを描いた自伝的作品

シェイクスピア俳優として名を馳せ、俳優・監督・演出家として映画や舞台の最前線で活躍し続けるケネス・ブラナーが自身の幼少期を投影して描いた自伝的作品。9歳の少年バディの目線を通して、愛と笑顔と興奮に満ちた日常から一変、1969年という激動の時代に翻弄され様変わりしていく故郷北アイルランドのベルファストを克明に映し出す。

少年バディを演じたのは本作が映画デビューとなる新星ジュード・ヒル。祖母グラニーには世界的大女優ジュディ・デンチ(『007』シリーズ)。そのほか、母親役にはカトリーナ・バルフ(『マネーモンスター』)、父親役にはジェイミー・ドーナン(『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』)、祖父役にはキアラン・ハインズ(『裏切りのサーカス』)など英国とアイルランドの実力派俳優たちが集結し、本作に圧倒的なリアリティをもたらしている。

変わりゆく故郷、移りゆく時代を前に、何があろうとも決して変わることのない人間の気高さと生命力をモノクロ映像でパワフルに魅せる傑作がここに誕生した。

コーダ あいのうた
CODA

シアン・ヘダー監督作品/2021年/アメリカ/112分/PG12/DCP/ビスタ

■監督・脚本 シアン・ヘダー
■製作 フィリップ・ルスレ/ファブリス・ジャンフェルミ/パトリック・ヴァックスベルガー
■撮影 ポーラ・ウイドブロ
■編集 ジェロード・ブリッソン
■音楽 マリウス・デ・ヴリーズ

■出演 エミリア・ジョーンズ/トロイ・コッツァー/マーリー・マトリン/ダニエル・デュラント/フェルディア・ウォルシュ=ピーロ

■2021年アカデミー賞作品賞・助演男優賞・脚色賞受賞/2021年サンダンス映画祭観客賞・審査員賞・監督賞・アンサンブルキャスト賞受賞/2021年英国アカデミー賞助演男優賞・脚色賞受賞/2021年インディペンデント・スピリット賞助演男優賞受賞/2021年放送映画批評家協会賞助演男優賞受賞

© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

【2022年9月24日から9月30日まで上映】

聴こえない家族の「通訳」係だった少女の知られざる歌声。それはやがて家族の夢となる──

豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聴こえる。ルビーは幼い頃から家族の“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし・・・。

夢へ踏み出す勇気を持ち続けたキャストとスタッフで贈る 誰もが大好きになる爽快な感動作

原題の『CODA』とは”Child of Deaf Adults”の略語で、ろう者の親を持つ子どもという意味。2014年に製作されたフランス映画『エール!』のリメイクで、4人家族の中でひとりだけ耳が聞こえるという設定を引き継ぎながらも、登場人物一人ひとりの愛と葛藤に深く踏み込み、笑って泣いて家族の誰かに共感できる普遍的な物語へと昇華。劇中に流れる数々の名曲もアップデートされ、新たな作品として高い評価を受けて2021年サンダンス映画祭にて4冠独占、アカデミー賞では作品賞を含む主要3部門受賞の快挙を成し遂げた。

主人公のルビーには、大ヒットTVシリーズ「ロック&キー」で一躍人気のエミリア・ジョーンズ。共演は『シング・ストリート 未来へのうた』の主役でも話題のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。ルビーの家族を演じるのは、オスカー女優のマーリー・マトリンを始め全員が実際に聞こえない俳優たち。そのキャスティングにこだわったのは、若き実力派監督シアン・ヘダー。

抱き合い支え合っていた家族が、それぞれの夢に向かって歩き始めることで、さらに心の絆を強くする──熱く美しい瞬間を共に生き、あなたの〈大好きな一本〉になる、爽快で胸熱な感動作!