パズー
2021年も早くも終わろうとしております。年末の早稲田松竹は、Music Film Festival特集! 2週に渡って、今年公開された音楽映画の傑作をお届けします。1週目に上映するのは『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』『イン・ザ・ハイツ』の二本立てです。
1969年にNYのハーレムで開催された幻のフェス「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の映像を映画化した『サマー・オブ・ソウル』。監督はバンド、ザ・ルーツのドラマーで、近年は俳優や大学で教鞭をとるなどマルチに活躍するアミール・“クエストラブ”・トンプソンが務めています。
「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」は6週にわたり週末に開催され、のべ30万人の観客を集めたという一大イベントだったにも関わらず、記録された膨大な映像は地下に眠ったまま、約50年も日の目を見ることなくフェス自体が忘れ去られていたといいます。クエストラブも最初にこの映像を観たときは、まさか本物だとは信じられなかったそう。
映画が始まると彼が信じられなかったというのも納得です。若きスティービー・ワンダーの超絶ドラム演奏(ピアノじゃない!)に始まり、B.B.キングの激シブなブルース、マヘリア・ジャクソンの魂のゴスペルと序盤から圧倒されっぱなし。そして後半のニーナ・シモンやスライ・ザ・ファミリー・ストーン…カリスマの登場に観客たちの熱狂は最高潮に。ブラック・ミュージックの錚々たるメンツがこれでもかと総出演したこの歴史的なステージが、音楽史から葬り去られていたなんて! しかも、貧困地域であるハーレムのど真ん中での開催ということでチケットはなんと無料、警備はあのブラックパンサー党が担当したという異例尽くしのイベントだったのです。
映画は、過去のニュース映像、出演した存命のアーティストや実際に観客として来場したという人のインタビューなども挟まれています。それにより、単なる音楽映画ではなく、近年のBLM運動につながる社会的メッセージを含む作品になっています。劇中で明らかになる、タイトルの副題“あるいは、革命がテレビ放映されなかった時”の意味を知る時、クエストラブが本作に込めた思いを強く感じるはずです。
いっぽう、『イン・ザ・ハイツ』は同じくNYのハーレムよりもっと北、ワシントンハイツというドミニカ共和国出身者やプエルトリコ、キューバ、メキシコなどのヒスパニック系の人々が主に暮らす移民の街が舞台の物語。演劇界の最高峰、トニー賞4冠に輝いたブロードウェイ・ミュージカルの映画化です。作品の生みの親であり、映画版の製作・脚本・作詞作曲さらにカメオ出演までしているのが、ミュージカル界の寵児リン=マニュエル・ミランダです。
ミランダの代表作「ハミルトン」はトニー賞を史上最多11部門受賞するなど、ミュージカル史上最も成功した作品といわれるほど数々の記録を打ち立てています。「ハミルトン」も「イン・ザ・ハイツ」も、これまでのブロードウェイ・ミュージカルには無かったヒップホップやソウル、ラテンなど様々なジャンルの音楽が融合している作品です。さらにキャストは白人ではなく有色人種の俳優たちが起用されているのも型破り。もちろん映画版も同じです。
プエルトリコ系移民2世のミランダにとって、ワシントンハイツは出身地でもあり現在の居住地でもある大切な場所。『イン・ザ・ハイツ』は、逆境のなか夢を叶えようとする若者たちの青春物語であると同時に、彼らの親世代、祖父母世代にもスポットがあたり、この街の移民の歴史をなぞっていきます。いうなれば本作は街そのものが主役であり、ミランダからワシントンハイツへの壮大なラブレターでもあるのです。貧しくてもみな体を寄せて冗談をかけあい、歌と踊りを愛する住民たちの姿は、掛け値なしにものすごく元気をもらえます。
人種差別や格差の問題は、ミュージカル「イン・ザ・ハイツ」が初演された2002年から20年、「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が行われた1969年から50年たっても解決してはいません。分断を助長させたトランプ政権がやっと終わった今、この二本の映画が上映されたことは大きな意味を持っています。製作者たちの熱い思いを感じられる、これからの時代を象徴するようなパワー漲る音楽映画二本立てです。
イン・ザ・ハイツ
In the Heights
■監督 ジョン・M・チュウ
■原作・製作・作詞・作曲・音楽 リン=マニュエル・ミランダ
■脚本 キアラ・アレグリア・ヒューディーズ
■撮影 アリス・ブルックス
■編集 マイロン・カースタイン
■出演 アンソニー・ラモス/コーリー・ホーキンズ/レスリー・グレイス/メリッサ・バレラ/オルガ・メレディス/ジミー・スミッツ
©2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
【2021年12月17日から12月24日まで上映】
逆境に立ち向かう人々と、夢に踏み出す若者たち。NY、片隅の街から今の世界に響き渡る魂の歌!
ニューヨーク・“ワシントン・ハイツ”は、いつも音楽が流れる、実在する移民の街。その街で育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーはつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。ある時、街の住人たちに住む場所を追われる危機が訪れる。これまでも様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がるが――。突如起こった大停電の夜、街の住人達そしてウスナビたちの運命が大きく動き出す。
ミュージカル「ハミルトン」で社会現象を巻き起こしたリン=マニュエル・ミランダの処女作にして出世作「イン・ザ・ハイツ」。トニー賞4冠とグラミー賞ミュージカルアルバム賞を受賞した傑作ミュージカルが、ついに映画化! プエルトリコ系移民の息子であるリン=マニュエル・ミランダは自身の宝物でもあるこの物語を、原案のみならず製作、作詞・作曲まで担当する力の入れようでプロデュース。監督に抜擢されたのはキャストがオールアジア人にも関わらず全米で大ヒットを記録した『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ。まさに今一番注目されるヒットメーカーの2人が、ミュージカル史上最高にダイナミックで情熱的なミュージカルで世界に新しい旋風を巻き起こす。
キャストには「ハミルトン」に出演し一役有名となったアンソニー・ラモス、『ストレイト・アウタ・コンプトン』『ブラック・クランズマン』のコーリー・ホーキンズ、シンガーソングライターのレスリー・グレイスら勢いのある若手が集結。キャストはほぼ全員ラティーノが選ばれているところにも製作陣の熱い気合が感じられる。
ラテンのリズムと躍動感あるヒップホップの詞、建物の外壁で垂直に踊るアッと驚くダンスシーンや、人々が一斉にプールや路上でダンスする躍動感あふれるダンスシーン。そして夢をあきらめないすべての人達の背中を推す力強いメッセージが観客に勇気を呼び起こす――。
サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)
Summer of Soul (...Or, When the Revolution Could Not Be Televised)
■監督・製作総指揮 アミール・“クエストラブ”・トンプソン
■製作 ジョゼフ・パテル/ロバート・フィヴォレント/デイヴィッド・ダイナースタイン
■撮影 ショーン・ピーターズ
■編集 ジョシュア・L・ピアソン
■音楽監修 ランドール・ポスター
■出演 スティーヴィー・ワンダー/B.B.キング/ザ・フィフス・ディメンション/ステイプル・シンガーズ/マヘリア・ジャクソン/ハービー・マン/デヴィッド・ラフィン/グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス/スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン/モンゴ・サンタマリア/ソニー・シャーロック/アビー・リンカーン/マックス・ローチ/ヒュー・マセケラ/ニーナ・シモン
■2021年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門審査員大賞・観客賞受賞
© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【2021年12月17日から12月24日まで上映】
50年間封印されていた音楽フェスの頂点、ついに解禁!
ウッドストックと同じ1969年の夏、160キロ離れた場所で、もう一つの歴史的フェスティバルが開催されていた。30万人以上が参加したこの夏のコンサートシリーズの名は、“ハーレム・カルチュラル・フェスティバル”。このイベントの模様は撮影されていたが、映像素材はその後約50年も地下室に埋もれたままになっていた。誰の目にも留まることなく――今日この日まで…
才気に満ち溢れた若きスティーヴィー・ワンダーの勇姿、1年前に非業の死を遂げたキング牧師に捧げる、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズの、会場を異次元に導く歴史的熱唱、ウッドストックでもベスト・アクトの一つと称された当時人気絶頂のスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの圧巻のパフォーマンス、そして後世に語り継がれ、聴くものの人生を変えたニーナ・シモンのメッセージ…この約50年間、ほぼ完全に未公開だったことが信じられない、音楽の頂点を極めた貴重すぎる全てのシーンがハイライトと言える。この2021年に世に出るべくして出た、今年最も心躍り、感動的かつ重要な、時空を超えた最高のドキュメント!
監督は初監督となるクエストラブ。「ザ・ルーツ」のドラマー/DJとして世界的人気を誇り、5度のグラミー賞を受賞。映画『ソウルフル・ワールド』では声優としても活躍している他、料理や食にまつわる書籍を出版するなど、各方面で多彩な才能をみせるヒップホップ界の最重要人物だ。そんな彼の入魂の作品である本作は、本年度サンダンス映画祭W受賞を成し遂げ、映画監督として輝かしいデビューを飾った。