【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ | 早稲田松竹 official web site | 高田馬場の名画座

2025.11.27

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

これまで私が映画と同じくらい愛している生き物たちについて書いてまいりました「シネマと生き物たち」ですが、実は私にはもう一つ映画と肩を並べるくらい好きなものがあります。それは…野球です! 幼い頃から、というよりも胎教が夏の甲子園だったという筋金入りの大の野球ファンなのです。というわけで、そんな私のために作られたのか…? と思ってしまいたくなる生き物+野球の一本をご紹介します。キム・ヨンファ監督『ミスターGO!』です。

韓国プロ野球の弱小球団トゥサン・ベアーズは、万年最下位を脱出すべく、資金難に陥ったサーカスの人気ゴリラ・リンリンと、リンリンのパートナーであるゴリラ使いの少女ウェイウェイをスカウトします。リンリンは“ミスターGO”として、グリップ短めのバッティングスタイル/右投げ右打ちで打席に立つや否や、158キロの速球をバックスクリーンに叩き込む特大ホームラン! チームは快進撃を続けますが、同じ頃、一緒にサーカスにいたゴリラのレイティンが195キロの剛腕投手〝ZEROS〟としてライバル球団に引き抜かれ、試合で直接対決をすることに。さらにGOは怪我が悪化し選手生命の危機に見舞われるのでした。

一見、「ゴリラが野球をするなんて!?」という奇抜さだけで勝負したかのような珍作ですが、実はかなり生き物偏愛家にアピールするポイントが多い愛すべき作品です。まず劇中登場するゴリラは、リンリンがローランドゴリラ、レイティンがマウンテンゴリラと設定されていて、彼らのCGの出来栄えがかなり素晴らしいのです。2010年代当時最高峰のCGテクノロジーにより、4年という歳月をかけて1本1本を忠実に再現したリンリンの体毛は、その数なんと80万本! リンリンにはシルバーバック(成体のオス特有の銀色の背中の毛)がしっかり見えるので、おそらくローランドゴリラの中でも亜種ニシローランドゴリラだと推測されます。片やレイティンは、マウンテンゴリラ特有の黒々とした毛並みが見事です。

さらにゴリラは、チンパンジーほど研究が進んでいないそうですが、かなり知能が高い動物だと考えられています。かつてゴリラのメスが沼地を渡りながら水深を測るかのように棒を使っている様子が記録されたこともあり、道具を使用する器用さも持ち合わせているそうです。なので、大きく言ってしまえば“ボールを投げる・打つ・走る”という大変シンプルな野球というスポーツを理解することは、ゴリラにとって簡単なのではないでしょうか。また、手話を使うことで世界一有名なココをはじめ、ゴリラにも他の大型類人猿と同様に喜びや悲しみという豊かな感情があり、強い家族の絆を理解することができるとも言われています。劇中、リンリンは親のいないウェイウェイを我が子同然に慈しみ、大地震に見舞われた時も彼女をがれきの中から懸命に救い出したというエピソードが語られますが、リンリンの持つ優しさもまた、もともとゴリラにそなわった性格なのだと思います。

映画中盤、GOの噂を聞きつけた日本の読売ジャイアンツと中日ドラゴンズ(スカウトを演じるのがオダギリジョー)が獲得に乗り出し熾烈な争奪戦となる(あくまでフィクションです)のですが、ゴリラの身体能力や知力を考えると、どこの国のプロ野球でもゴリラが主砲になっても全く不思議ではありません。正直言って生き物偏愛家としては、やはり人間たちの試合よりもゴリラ同士の野球が見たいものであります。

(ミ・ナミ)