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『海辺の生と死』では太平洋戦争末期でありながらも、穏やかで独自の時間が流れている奄美群島・加計呂麻島の中で生まれる二人の男女の関係を追っていきます。島で流れている時間のように、関係性の芽生えをゆっくりと切り取りますが、その背後には戦争の影があります。特攻艇の隊長としての出撃が二人の関係の終わりを常にほのめかしている中、それでも繋がりを求め奔走します。

一方『幼な子われらに生まれ』では元妻のもとで暮らす血のつながった子供、再婚して一緒に暮らす血のつながらない子供、今の妻との間に生まれようとしている新たな子供と、複雑な家族のありかたと関係性をひとりの父親の目線で追っていきます。お互いにすれ違ってしまう一方通行の思いの中で、どのように関係性を取り戻していくのでしょう。それでも少しずつ進んでいくことにしか答えはないのかもしれません。

人と人との関係はあまりにも脆いものです。自分ではどうすることもできない大きな出来事、あるいは日常で起こりうるほんの小さな出来事が、その関係をねじらせてしまうかもしれないし、取り返しのつかない溝を生んでしまうかもしれません。触れることができないものでありながら、はっきりと見える大切な人との関係。『海辺の生と死』『幼な子われらに生まれ』はどちらも彼らが築き上げた、それぞれの関係性を繋ぎ止めようとする映画です。どちらの映画も状況は異なっていますが、強く、そして儚い絆がそこにあるのではないでしょうか。

(ジャック)

海辺の生と死
(2017年 日本 155分 DCP ビスタ) pic 2017年12月16日から12月22日まで上映 ■監督・脚本 越川道夫
■原作 島尾ミホ「海辺の生と死」/島尾敏雄「島の果て」ほかより
■撮影 槇憲治
■音楽 宇波拓

■出演 満島ひかり/永山絢斗/井之脇海/秦瀬生良/蘇喜世司/川瀬陽太/津嘉山正種

©2017島尾ミホ/島尾敏雄/株式会社ユマニテ

共に添うて、生きたいと思っていた――

pic 昭和19年12月、奄美カゲロウ島。国民学校教員として働く大平トエは、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長・朔中尉と出会う。朔が兵隊の教育用に本を借りたいと言ってきたことから知り合い、互いに好意を抱き合う。島の子供たちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていく。しかし、時の経過と共に敵襲は激しくなり、沖縄は陥落、広島に新型爆弾が落とされる。そして、ついに朔が出撃する日がやってきた…。

そこは「神の島」――
はかない恋の一瞬のきらめきを描いた恋愛映画

pic傑作「死の棘」を世に放った島尾敏雄と、その妻、島尾ミホ。時は太平洋戦争末期、ふたりが出会ったのは、圧倒的な生命力をたたえる奄美群島・加計呂麻島。男はじりじりと特攻艇の出撃命令を待ち、女はただどこまでも一緒にいたいと願った。後年、互いに小説家であるふたりがそれぞれ描いた鮮烈な出会いと恋の物語を原作に、奄美大島・加計呂麻島でのロケーションを敢行し、映画化を果たした。

pic 『愛のむきだし』でブレイク後、『川の底からこんにちは』『悪人』『愚行録』など一作ごとに評価を高め、唯一無二の女優として活躍の場を広げる満島ひかり。そんな彼女が『夏の終り』以来4年ぶりの単独主演作に選んだのが『海辺の生と死』である。島尾ミホが加計呂麻島で過ごした青春期と人生を決定づけることになった恋をその真っ直ぐな存在感で体現した。

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幼な子われらに生まれ
(2017年 日本 127分 DCP シネスコ)
pic 2017年12月16日から12月22日まで上映 ■監督 三島有紀子
■原作 重松清「幼な子われらに生まれ」(幻冬舎文庫刊)
■脚本 荒井晴彦
■撮影 大塚亮
■音楽 田中拓人

■出演 浅野忠信/田中麗奈/宮藤官九郎/寺島しのぶ/水澤紳吾/池田成志/南沙良/鎌田らい樹/新井美羽

■第41回モントリオール世界映画祭審査員特別大賞受賞

©2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

親愛なる、傷だらけのひとたちへ

picバツイチ、再婚。一見良きパパを装いながらも、実際は妻の連れ子とうまくいかず、悶々とした日々を過ごすサラリーマン、田中信。妻・奈苗は、男性に寄り添いながら生きる専業主婦。キャリアウーマンの元妻・友佳との間にもうけた実の娘と3カ月に1度会うことを楽しみにしているとは言えない。

実は、信と奈苗の間には、新しい生命が生まれようとしていた。血のつながらない長女はそのことでより辛辣になりこう言い放つ。「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」。今の家族に息苦しさを覚え始める信は、長女を奈苗の元夫・沢田と会わせる決心をするが…。

「普通の家族」を築けない、
不器用な大人たちの愛すべき物語。

pic 数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清が1996年に発表した傑作小説「幼な子われらに生まれ」。『ヴァイブレータ』『共喰い』などの脚本家・荒井晴彦が重松と映画化の約束を交わし、その脚本が『しあわせのパン』『繕い裁つ人』などで幸せの瞬間を繊細に、丁寧に紡いだ映画で多くの観客の心に感動を届けてきた三島有紀子の手に渡り、ついに映画化が実現した。

pic台本を重視しながらも、役者同士のその場面その場面での新鮮な感覚を大事にし、ドキュメンタリー手法を使った撮影と、実力派であり個性派でもある役者陣が見事にぶつかり合い、観る者さえも家族の一員であるかのようなリアリティーで物語に引き込んでいく。血のつながらない家族、血のつながった他人がそれでも大事にしたいと思う人と幸せを紡いでいく、希望の物語が誕生した。

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