「なーんか最近ついてないなぁ。」
「毎日パッとしないよなぁ〜。」
上の歌に共感し、次のセリフが思い当たるそんなあなたに今週の二本立て、お届けします。と言ってもご注意を!単なるハッピームービーじゃぁありませんよ。
登場人物はみーんなクセ者揃い。『川の底からこんにちは』の主人公佐和子は妥協ばっかりで生きてきた25歳。『トイレット』のモーリー、レイ、リサも自分勝手でバラバラな三兄妹。もちろんそんな主人公を取り巻く人々も一筋縄じゃいきません。『川の底〜』の佐和子が、父親の代わりに働くこととなるしじみ工場のおばちゃん達は、悪態ばかりつくくせにやる気がない。なぜか佐和子の実家についてきた彼氏健一は、編み物大好き根性なしのくせにバツイチ子連れ。『トイレット』三兄妹と一緒に住むことになった日本人の“ばーちゃん”は、ただただ無言で毎朝トイレに長い間入っては大きなため息をついている。
そんなおよそハッピームービーとは程遠い人たちがわんさか出てくる今週の二作品。だけど、あれ?ちょっと考えてみると、案外自分の周りってこんな感じだったり…。性格も外見も良くて、お金持ちで、仲の良い家族や素敵な恋人もいて、仕事も何もかも順調…。そんな人見たことない!完璧な人なんてほとんどいないし、みんな欠点だらけだったりするんです。それは日本のしじみ工場でも、外国のどこかの町でもおんなじこと。それでも毎日は続いてくし、生きてかないといけないんだから、ならしょうがない、がむしゃらにやったほうがいいじゃない!ほぉら、なんとなく元気になれるような気がしてきませんか?
そして、佐和子を演じた満島ひかりの開き直った潔さと、ばーちゃんを演じたもたいまさこが醸し出す空気感。役柄と同様、“パンク・スピリッツ”を感じさせる二人のミューズに、私たちはどうしようもなく魅かれてしまうはず。
「川の底」と「トイレ」なんて一見辛気臭さを感じさせるタイトルかもしれませんが、観終わった後には、あなたの心はきっと少しだけスカッとして、少しだけあったかくなるでしょう。いっちょ、人生頑張るか!老若男女すべての人に贈る、風変りな人生賛歌の二本立てです。
川の底からこんにちは
(2009年 日本 112分 ビスタ/MONO)
2011年1月22日から1月28日まで上映
■監督・脚本 石井裕也
■撮影 沖村志宏
■音楽 今村左悶/野村知秋
上京して5年、仕事は5つ目、彼氏は5人目。ダラダラと「妥協」した日常をおくる派遣OL佐和子に、ある日突然、父が病に倒れ余命わずかだとの知らせが入る。ひとり娘の佐和子は水辺の町にある実家へ帰り、“しじみ工場”の跡継ぎとなることを余儀なくされてしまった。その工場で働くオバちゃん達はみなクセ者ばかりで、工場は倒産寸前。追い込まれた佐和子は、これまでの「妥協」に別れを告げ、人生に初めて立ち向かう!
日本を代表する監督を次々と発掘してきた“ぴあフィルムフェスティバル”。そのPFFアワード2007に『剥き出しニッポン』を出品、グランプリを受賞したのが、本作の監督である石井裕也だ。アジア・フィルム・アワードでは「第1回エドワード・ヤン記念 アジア新人監督大賞」を受賞。商業映画デビューとなった本作『川の底からこんにちは』では、『愛のむきだし』等で映画賞を多数受賞した若手実力派女優・満島ひかりを主演に迎え、第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に正式招待を受けた。これからの日本映画界を担っていくであろう、期待の大物新人監督である。
夢も希望も持てない毎日をおくる、まさしく現代の若者を象徴するかのような主人公の佐和子をはじめ、映画に登場する様々な年代の人たちは、人生を自分勝手に生きてきた人たちばかり。けれどみな、人間らしく、どこか私たちに似たところがある。そんな彼らが一生懸命どん底から這い上がっていく姿は、可笑しくも愛しく、感動さえ覚えてしまう。「明日も頑張ろうよ」…そっと背中を押してくれる、現代を生きるあなたのための応援ムービー!
トイレット
(2010年 日本/カナダ 109分 ビスタ/SRD)
2011年1月22日から1月28日まで上映
■監督・脚本 荻上直子
■撮影 マイケル・ルブラン
■音楽 ヴードゥー・ハイウェイ
■衣装 堀越絹衣
■フードスタイリスト 飯島奈美
■出演 アレックス・ハウス/タチアナ・マズラニー/デヴィッド・レンドル/サチ・パーカー/もたいまさこ
ロボット型プラモデルオタクの青年レイは、誰とも深く関わらないことを信条に生きてきた。ところが、母親の死によってレイは実家に戻るはめに。そこには引きこもりのピアニストの兄・モーリーと、勝気な大学生の妹・リサ、そして、“ばーちゃん”がいた。
ばーちゃんは、日本人のママが亡くなる前に日本から呼び寄せた母親…つまり、レイ・モーリー・リサの祖母にあたる人。英語が話せないばーちゃんは自室に閉じこもり、唯一出てくるトイレの後にはとんでもなく深いため息をつく。静かで平和だったレイの毎日は、小うるさい兄妹とため息ばかりのばーちゃんによって少しずつ崩壊していくのだが…。
『かもめ食堂』『めがね』を大ヒットさせた荻上直子監督。構想5年、前作から3年ぶりとなる待望の最新作が遂に登場。監督によるオリジナルストーリーとなる本作は、“家族”という小宇宙で起きる衝突と、それを乗り越えて絆を取り戻し、それぞれの人生を一歩前進する、家族の成長物語である。
カナダ・トロントで撮影された本作の台詞は“ばーちゃん”“センセー”などの単語を除いて全てが英語。日本人キャストは監督のミューズ・もたいまさこ、ただ一人。国際色溢れる味わいの中、『かもめ食堂』『めがね』でタッグを組んだ日本人スタッフも再び参加。衣装を手がけた堀越絹衣、フードスタイリストの飯島奈美らが、荻上作品の重要なパーツを彩った。透明感に溢れ、ユーモアと刺激に満ちた、優しい感動を呼び起こす物語…ため息ばかりのばーちゃんは、果たして喋るのか喋らないのか?見れば納得、タイトル『トイレット』の意味とは?このドキドキ感も是非楽しんで!