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イーストウッドとスコリモフスキ、御歳それぞれ86歳と78歳。作風はかなり違いますが、どちらもいまだに精力的に作品を発表しているだけでなく、世界の映画の最前線を歩み続ける稀有なフィルムメイカーです。そんな二人の新作が、どちらもある「奇跡」の内実を描いた作品なのは興味深いことです。

80歳を超えてもなお様々な題材に取り組み、批評的・興行的に成功させ続けるイーストウッド。彼は映画の現場を知り尽くしており、自分がプロとしてどう振る舞うべきかを見誤ることがないのでしょう。最新作『ハドソン川の奇跡』の主人公、サリー機長はそんなイーストウッド本人の似姿にも見えます。イーストウッドはサリーをいたずらに英雄視しません。「ハドソン川の奇跡」と呼ばれた出来事は人智を超えた奇跡ではなく、常に鍛錬を積んで対処を学んできたプロの仕事だったことを冷静に語るのです。運命に翻弄され、苦悩する主人公ですが、彼が決して屈しないのも特別な人間であるからではなく、奢ることのないプロの自信があるからなのです。

「奇跡」の裏にはいつでもプロフェッショナルたちの優れた技術がある。円熟の巧みな語り口の中に、イーストウッドの人生哲学が凝縮されたような作品です。

老成した貫録を示すイーストウッドに対し、ポーランドの鬼才・スコリモフスキはいつまでも成熟を拒否するかのように瑞々しい作品を発表し続けています。最新作『イレブン・ミニッツ』は群像劇であり、都市を生きる複数の登場人物たちの物語が語られはするのですが、各挿話は断片的で一見脈略がなく、わたしたちにはその全貌が完璧には把握できません。にもかからず、人生の破片が無数に連鎖していくことで生まれる独特のグルーヴが私たちをグイグイと引っ張っていき、驚くべき結末へと雪崩れ込んでいきます。

ここで示されるのは、ハリウッド的な「物語」に回収されない世界の混沌としたデタラメな有様にも見えます。一見すると悲観的なヴィジョンにも映りますが、必ずしも悲劇とは言い切れないような奇妙な多幸感が本作には満ちています。世界は無秩序でいい加減だからこそ、私たちの常識を超越した「奇跡」(いいことであるとは限らないのですが)の起こる可能性は至るところに潜んでいる、とスコリモフスキは語っているのかもしれません。様々な解釈に観る者を誘う、スコリモフスキらしさ全開の衝撃作です。

(ルー)

イレブン・ミニッツ
11 MINUTES
(2015年 ポーランド/アイルランド 81分 DCP PG12 シネスコ) pic 2017年1月28日から2月3日まで上映 ■監督・製作・脚本 イエジー・スコリモフスキ
■撮影 ミコライ・ウェプコスキ
■編集 アグニェシュカ・グリンスカ
■音楽 パヴェウ・ムィキェティン

■出演 リチャード・ドーマー/ヴォイチェフ・メツファルドフスキ/パウリナ・ハプコ/アンジェイ・ヒラ/ダヴィド・オグロドニク

■2015年ヴェネチア国際映画祭正式出品

心から信じられる話になるか、
逆にまったく信じられない話になれば心強い。
――イエジー・スコリモフスキ

pic ある一日の午後5時から5時11分。女好きで見栄っ張りの映画監督、セクシーな女優、出所したばかりのホットドック屋、バイク便の男、登山家、救命救急医…。大都会に暮らすいわくありげな人々と一匹の犬。ありふれた日常が11分後に突如変貌してしまう奇妙な物語。

カンヌ、ベネチア、ベルリン三大国際映画祭の主要賞を制覇した
ポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督最新作

pic17 年ぶりの監督復帰作『アンナと過ごした4 日間』が東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、続く『エッセンシャル・キリング』でベネチア国際映画祭審査員特別賞、主演男優賞(ヴィンセント・ギャロ)ダブル受賞の栄誉に輝いたイエジー・スコリモフスキ。そんな彼の最新作は、上映時間81分をノンストップで駆け抜ける、衝撃のリアルタイム・サスペンスだ。

pic 起承転結のあるストーリー、詳細な心理描写、背景説明などを一切排し、使い古されたサスペンスという定番ジャンルの様式を、掟破りでラディカルなチャレンジ精神で突破。

様々なメディア技術を巧みに使い、多種多様な質感と視点を駆使した魅惑の映像、都市空間ならではのシンフォニックなノイズが緻密な設計のもとに融合し、悲哀感ただよう人生の光と影を見事に表現した。78 歳の巨匠が映画表現の新たな地平を切り拓く『イレブン・ミニッツ』。11 分後のあなたは何をしていますか?

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ハドソン川の奇跡
SULLY
(2016年 アメリカ 96分 DCP シネスコ)
pic 2017年1月28日から2月3日まで上映 ■監督・製作 クリント・イーストウッド
■原作 チェスリー・“サリー”・サレンバーガー/ジェフリー・ザスロー
■脚本 トッド・コマーニキ
■撮影 トム・スターン
■音楽 クリスチャン・ジェイコブ&ザ・ティアニー・サットン・バンド

■出演 トム・ハンクス/アーロン・エッカート/ローラ・リニー

その日、英雄は容疑者になった

pic2009年1月15日、極寒のニューヨーク。160万人が住むマンハッタン上空850メートルで突如起こった航空機事故。機長サリーは、全エンジンが停止し高速で墜落する70トンの機体を必死に制御し、目の前のハドソン川に着水させ“乗員乗客155名全員無事”という奇跡の生還を果たした。着水後も浸水する機内から乗客の避難を指揮した機長は国民的英雄として称賛される。だが、その奇跡の裏側では彼の判断をめぐり国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われていた…。

巨匠クリント・イーストウッド監督最新作
誰が

pic 『許されざる者』ミリオンダラー・ベイビー』で2度のアカデミー賞監督賞に輝くクリント・イーストウッドが、同じく2度のアカデミー賞主演男優賞を手にする『ダ・ヴィンチ・コード』『フォレスト・ガンプ/一期一会』のトム・ハンクスを主演に迎えた最新作。

イーストウッド監督は、前作『アメリカン・スナイパー』でもアカデミー賞で6部門ノミネートされ、自身の作品史上最大のヒットを記録した。85歳にして映画界を席巻した巨匠が新作に選んだ題材は、未曾有の航空機事故からの生還劇の裏に隠された実話である。トム・ハンクスは奇跡を起こし、全米で“国民的英雄”と称された機長サリーを演じる。

確かな経験に裏付けられた機長の判断。乗員乗客すべての命を救った英雄への厳しい追及。それでも折れない不屈の信念と、決して揺らぐことのない機長の姿――常に映画を通して時代に寄り添ってきたイーストウッドならではの視点で突きつけるヒューマン・ドラマが誕生した。

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