★『その男、凶暴につき』は、製作から長い年月が経っているため、本編上映中お見苦しい箇所、お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上ご鑑賞いただきますようお願いいたします。
90年代後半、気鋭の日本の映画作家たちが
相次いで海外の映画祭に大きなインパクトを残し、高い評価を受けました。
「日本映画のルネッサンス」とも喧伝された彼らの活躍が
現在まで続いていることは周知の通りです。
とはいえ、彼らが世界へと踏み出した最初の一歩とも言うべき処女作には、
その作家のエッセンスが凝縮されているものです。
常に日本の、そして世界の現在を照らし出す彼らの果敢な映画作りの原点を、
是非スクリーンで体験して下さい。
幻の光
(1995年 日本 110分 ビスタ)
2017年3月4日から3月6日まで上映
■監督 是枝裕和
■原作 宮本輝(「幻の光」新潮文庫刊)
■脚本 荻田芳久
■撮影 中堀正夫
■編集 大島ともよ
■音楽 陳明章
■出演 江角マキコ/浅野忠信/内藤剛志/木内みどり/柄本明/赤井英和/寺田農/大杉漣/吉野紗香
■1995年ヴェネチア国際映画祭金のオゼッラ賞・国際カトリック教会賞・イタリア映画産業協会賞受賞/バンクーバー映画祭新人賞グランプリ/シカゴ国際映画祭グランプリ
©テレビマンユニオン
★3日間上映です。
ゆみ子が12歳の時、大好きだった祖母が失踪した。25歳になって、その祖母の生まれ変わりのように登場した郁夫と結婚し、息子も生まれたが、ある日郁夫は鉄道自殺してしまう。愛する人を次々と失った記憶と引き止めることができなかった悔恨を胸に秘め、ゆみ子は奥能登に嫁ぐ。新しい家族に囲まれて平穏な日々を送るが、やがて郁夫の死への思いに引き寄せられていく――。
『しかし…』『侯孝賢とエンドワード・ヤン』などのテレビドキュメンタリーで評価されてきた是枝裕和監督の長編劇映画第一作。死と生がゆるやかに溶け合うドラマを、陰影の深い独創的な映像美で描いていく。本作で女優デビューした江角マキコの凛としたまなざしが、観る者の心に厳粛な感動を呼び起こす。是枝監督は本作以降も精力的に作品を発表。『誰も知らない』や『そして父になる』などで世界的な評価をさらに高めていく。
萌の朱雀
(1997年 日本 95分 ビスタ/MONO)
2017年3月4日から3月6日まで上映
■監督・脚本 河瀬直美
■撮影 田村正毅
■編集 掛須秀一
■音楽 茂野雅道
■出演 國村隼/尾野真千子/和泉幸子/柴田浩太郎/神村泰代/向平和文/山口沙弥加
■1997年カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人賞)受賞/ロッテルダム国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞/シンガポール国際映画祭主演女優賞受賞
©1996 WOWOW/バンダイビジュアル
★3日間上映です。
奈良県西吉野村。林業低迷で過疎化が進むこの村で、田原孝三一家も代々林業で生計を立てていた。そこに、鉄道を通すためのトンネル工事計画が持ち上がる。鉄道に対する人々の思いは切実で、孝三自身も自らの夢をかけてトンネル開通作業に携わる。孝三の母・幸子、妻の泰代、姉の残していった子供・栄介、そして愛娘・みちるに囲まれた、つつましやかながら幸せな生活は静かに過ぎていった。しかし、工事は中断され、トンネルは無残な姿で取り残される。
15年後、孝三は働く気力をなくし、一家の生計は、栄介の収入に頼らざるを得ない。みちるは栄介にほのかな恋心を抱き、栄介は泰代に想いをよせる。ある日、孝三は愛用の8ミリカメラを持って出かけたまま、帰らぬ人となった。そして、一家はそれぞれに村を離れなければならなくなってしまう…。
自身の生まれ故郷である緑豊かな奈良の過疎村での人々の穏やかな生活と別れの時を描いた、河瀬直美監督の長編デビュー作。大胆な省略を導入することで生まれる静かでありながらダイナミックな情感が世界中を驚かせた。光に溢れた自然の輝きと昔ながらの日本家屋が醸し出す陰影の見事なコントラストもさることながら、河瀬監督に見いだされ、演技経験なしの素人ながら本作でデビューを飾った尾野真千子の初々しい存在感も必見。
河瀬監督はこの後も生まれ故郷である奈良を拠点に、カンヌでグランプリに輝いた『殯の森』やヒット作『あん』などの劇映画から『玄牝-げんぴん-』などのドキュメンタリーまで、多岐に渡る唯一無二の創作活動を続けている。
その男、凶暴につき
(1989年 日本 103分 ビスタ/MONO)
2017年3月7日から3月10日まで上映
■監督 北野武
■製作・原案 奥山和由
■脚本 野沢尚
■撮影 佐々木原保志
■音楽 久米大作
■出演 ビートたけし/川上麻衣子/白竜/佐野史郎/芦川誠/岸部一徳/石田太郎/平泉成/音無美紀子
©1989 松竹株式会社
★4日間上映です。
その男、我妻諒介、39歳。職業、刑事。暴力には暴力で対抗する我妻のやり方は、署内でも異端視されている。
ある日、一隻の釣り船で惨殺死体が発見された。男は麻薬売人の柄本。捜査を進めるうち、我妻は青年実業家・仁藤と我妻の親友であり、防犯課係長でもある岩城にたどりつく。岩城は押収したヤクを横流ししていたのだ。そして岩城は、口封じのため、自殺に見せかけられあっけなく死んでしまう。友人岩城の死を事もなげに揉み消そうとする警察、そして麻薬犯罪組織の首領・仁藤とその傘下にある殺人鬼・清弘への狂気に対して、我妻は自らの凶暴さで戦う以外なかった…。
今や世界的な映画人となった北野武の監督デビュー作。日常的な光景に突如噴出する暴力や死をクールに描写する北野映画のスタイルが早くも完成された歴史的な一本。当初監督に予定されていた深作欣二のために書かれた野沢尚のシナリオを、即興演出も取り入れて大幅に解体・再構築することで生まれた特異な映像感覚は今見ても衝撃的だ。アクション映画としての純度を徹底的に高めるために無駄を削ぎ落とした語り口の巧みさにも驚かされる。本作のあと北野は『ソナチネ』や『HANA‐BI』などの内省的な作品から、『アウトレイジ』のようなよりクラシカルなヤクザ映画まで手掛けるようになるが、ほぼ全作の通奏低音となるテーマはすでに本作で提示されている。
鉄男
(1989年 日本 67分 ビスタ)
2017年3月7日から3月10日まで上映
■監督・脚本・撮影・特殊効果・美術・照明・編集 恂{晋也
■助監督・撮影・衣裳 藤原京
■音楽 石川忠
■出演 田口トモロヲ/藤原京/叶岡伸/恂{晋也/六平直政/石橋蓮司
■第9回ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞
©SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER
★4日間上映です。
ある朝、サラリーマンの男が目覚めると、頬に金属のトゲのようなにきびが出来ていた。出勤途中のプラットホーム。事務員風の眼鏡の女が、金属と溶け合い膨張した腕を振りかざして男を襲う。無意識に眼鏡の女を殴り倒した男の、その恐ろしい力をたぎらせた腕は、カサブタのような金属に被われ、熱を噴き上げていた。激しい痛みを伴い、次第に金属に侵蝕されていく男の肉体。恋人の女も、股間のドリルペニスで犯して殺してしまう。
その時、電話のベルが鳴る。電話の主は、かつて男と女がひき逃げした、“やつ”。彼はその事故により、脳に金属片が刺さってしまったのだ。“やつ”は男に復讐を果たすため、激烈なスピードで男のもとへ向かった。そして終わることのないメタルサイキック戦争が始まるのだった。
タランティーノやダーレン・アロノフスキーなどのクリエイターたちも魅了するなど、世界中に熱狂的な信者を生み出した恂{晋也監督の伝説の商業映画デビュー作。観る者に襲いかかるような悪夢めいたヴィジュアルと音響のパワーは他の追随を許さず、好き嫌いを超えて観る者を圧倒し続ける。本作で描かれた死とエロス、恐怖と恍惚が一体となった凄まじい人間像のリアリティは、この後も『BULLET BALLET/バレット・バレエ』や『六月の蛇』、最新作『野火』に至るまで、塚本作品の中で幾度も変奏される重要なモチーフとなる。(ルー)