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是枝裕和

1962年、東京都生まれ。87年、早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛け活躍。

95年、劇場映画初監督作『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭金のオゼッラ賞ほか多数の賞に輝き、一躍世界にその名を知られる。続く『ワンダフルライフ』(99)でも、ナント三大陸映画祭、ブエノスアイレス映画祭のグランプリなどを受賞し、世界30ヵ国、全米200館で公開され、ヒットを記録する。2004年の『誰も知らない』では、カンヌ国際映画祭にて主演の柳楽優弥が映画祭史上最年少となる最優秀男優賞を獲得し、国際的なニュースとなる。08年、自身の体験から生まれた『歩いても、歩いても』が国内外で絶賛を浴び、ヨーロッパ、アジアで様々な賞を受賞。09年、業田良家の短編集を映画化して新境地を切り開いた『空気人形』が、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門をはじめ、トロント、シカゴ、ロッテルダムなど多数の国際映画祭に正式出品される。その他最近では、AKB48の「桜の木になろう」のPVを手掛けた。さらに、西川美和監督の『蛇イチゴ』(03)、『ゆれる』(06)、現在公開中である砂田麻美監督の『エンディングノート』(11)など、若手監督作品のプロデューサーも務めている。

リアリズムと独自の感性の融合により、国内外から唯一無二の存在として敬愛されている映像作家である。

フィルモグラフィ

・幻の光(95)監督
・ワンダフルライフ(99)監督/脚本/編集 ・DISTANCE/ディスタンス(01)監督/脚本/編集  
・帰ってきた!刑事(デカ)まつり(03)監督
・誰も知らない(04)プロデューサー/監督/脚本/編集
・ワンダフルプレイス 〜もう一つの「ワンダフルライフ」〜 (04)<未>監督
・花よりもなほ(06)監督/脚本/原案/編集  
・歩いても 歩いても(07)監督/脚本/原作/編集
・大丈夫であるように ─Cocco 終らない旅─(08)プロデュース/監督/編集
・空気人形 (09)プロデューサー/監督/脚本/編集
・妖しき文豪怪談/後の日(10)<TV>監督
・奇跡(2011)監督/脚本/編集  

※監督作品のみ


子供を題材に作品を撮る映画監督は多い。
『友だちのうちはどこ?』のアッバス・キアロスタミ、
『動くな、死ね、甦れ!』のヴィターリー・カネフスキー、
古くは『赤い風船』『白い馬』のアルベール・ラモリスなどもそうだろう。

では日本では?
まず間違いなく挙げられるのが、是枝裕和ではないだろうか。

2004年のカンヌ映画祭で、史上最年少での最優秀男優賞受賞となった『誰も知らない』
父親がみな別々の4人の兄妹が、ある日突然母親に捨てられ、
子供たちだけで必死に生きようとする日々を描いた映画は、
彼らが見せる無邪気な笑顔とは裏腹に、胸をえぐられるような痛みに満ちていた。

東京の片隅の、狭いマンションの一室が世界のすべてだった子供たち。
無関心な大人は蚊帳の外から見ているだけ。
まるで箱庭のような、彼らだけの小さくて愛おしいその世界を、
カメラはまるで隣にいるかのように、けれど時折突き放すように冷めた目で映す。
台本の無い、子供たちの解き放たれた声、表情、仕草は演技を通り越し、
そのあまりにありのままの姿に、私たち観客は大きな衝撃を受けた。

あれから7年が経ち、是枝裕和はもう一度子供たちにカメラを向ける。

最新作『奇跡』の舞台は九州。
じきに全線開通する九州新幹線をめぐる家族の物語だ。
“上りと下り、二つの新幹線の一番列車がすれ違う時、奇跡が起きる――”
両親が離婚してしまい、福岡と鹿児島で別々に暮らす兄弟が、その噂を聞いて秘密の旅に出る。
“また家族みんなで暮らしたい”という、小さな希望を持って。

『誰も知らない』で見た、マンションの狭いベランダや、近所のコンビニはそこにはない。
博多一の広さを誇る大堀公園や、鹿児島の町一体に灰を降らせる桜島は、
子供たちを外の世界に飛び立たせる。それも九州縦断という、壮大な冒険旅行へと。
無関心で無責任な大人もいない。
一生懸命な子供たちを見守り、手助けしてやり、時には逆に励まされたりもする。
観ている私たちはその温かさにほっとするのだ。

今週は、早稲田松竹で実に三回目となる是枝裕和監督特集。
お届けするのは、是枝監督が“子供”を描く2本の映画。
悲しみや焦りや絶望に、息がつまるようだった『誰も知らない』と、
朗らかで優しくて、人と人との温もりが満ちている『奇跡』。
この明らかな変化は、7年の間に、監督自身が父親になったことが大きいという。

いっぽうでこの両作品に共通しているのは、
子供が主人公ではあるが、決して子供のためだけの映画ではないということ。
(これは最初に挙げた監督たちの作品にも言えること。)
純粋で真っ直ぐで、儚く繊細な彼らが見つめる世界。
映画を通して見えてくるものはむしろ、子供の瞳に映る私たち大人の姿である。
いわば社会の外にいる彼らの目線からしか見えない大人のほんとう。
いつもちょっとした大人の身勝手に振り回される子供たちが、
本当は誰よりもずっとこの世界を理解しているのかもしれない。

カメラの中で縦横無尽に動き回る子供たちと、見え隠れする大人たちの心模様。
その間に中立しているかのような、是枝監督にしか撮ることのできない“子供”の映画を見てみよう。     (パズー)


誰も知らない
Nobody Knows
(2004年 日本 141分 ビスタ/SR) 2011年10月15日から10月21日まで上映
■監督・プロデューサー・脚本・編集 是枝裕和
■撮影 山崎裕
■音楽 ゴンチチ

■出演 柳楽優弥/北浦愛/木村飛影/清水萌々子/韓英恵/YOU

■2004年カンヌ映画祭男優賞(柳楽優弥)・パルムドールノミネート/2004年ブルーリボン賞作品賞・監督賞受賞/第74回キネマ旬報ベストテン日本映画ベスト・ワン

★本編はカラーです。

生きているのは、おとなだけですか。

pic秋。トラックからアパートに荷物が運び込まれてゆく。引越してきたのは母福島けい子と明、京子、茂、ゆきの4人の子供たち。茂とゆきはトランクの中に隠れたままアパートの階段を昇った。大屋には母と長男の明だけの二人暮らしだと嘘をついていたからだ。母子家庭で子供が4人もいることが知れると、この家もまた追い出されれかねない。子供たちの父親はみな別々で、学校に通ったこともない。それでも母がデパートで働き、12歳の明が母親代わりに家事をすることで、家族は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていた。

ある晩遅くに酔って帰ってきた母は、それぞれの父親の話を始めた。楽しそうな母親の様子に子供たちも自然と顔がほころんでゆく。しかし、翌朝明が目覚めると母の姿はなく、代わりに20万の現金と「お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね。」と記されたメモが残されていた。この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの“漂流生活”が始まった…。

子供たちの心の叫びが胸に突き刺さる
是枝作品の最高傑作との呼び声も高い衝撃作 

『ワンダフルライフ』、『ディスタンス』で高い評価を受けた是枝裕和が次に取りかかったのは、88年に実際に起こった事件をモチーフに、東京という街で暮らす子供たちに起こる出来事を彼らの目線に寄り添いながら精緻に描写した、着想から15年もの歳月を経て完成した作品。母親に捨てられるという過酷な運命に巻き込まれながら、それでも4人の子供は自分たちだけの小さな世界で、たくましく豊かな心を失わずに生きていく。母を思う無垢な心、外の世界に対する憧れと葛藤、そして次第に苦しくなってゆく生活に対する焦燥感。知恵と勇気を振り絞って精一杯毎日を生きる彼らの姿は、大きな勇気と深い感動を呼び起こすだろう。

撮影は02年の秋から03年の夏まで四季を通して行われ、オーディションで集められた演技経験のない子供たちとコミュニケーションを重ねながら、独特の演出によって彼らの姿をフィルムに焼き付けていった。そこには物語と共に、演技を超越したリアルな子供たちの成長が確かに刻まれている。本作は2004年のカンヌ映画祭で大絶賛を浴びて、主演の柳楽優弥が日本人初、カンヌ史上最年少の最優秀男優賞を受賞した。


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奇跡
(2011年 日本 128分 ビスタ/SR) 2011年10月15日から10月21日まで上映
■監督・脚本・編集 是枝裕和
■撮影 山崎裕
■音楽・主題歌 くるり

■出演 前田航基/前田旺志郎/オダギリジョー/夏川結衣/阿部寛/長澤まさみ/原田芳雄/大塚寧々/樹木希林/橋爪功

■第59回サンセバスチャン国際映画祭最優秀脚本賞

家族が一緒に暮らすこと。
そんな当たり前が、ぼくたちには奇跡だった。

離れて暮らす兄弟がいる。両親が離婚し、兄は母に、弟は父について行った。兄の航一は母の実家である鹿児島で、弟の龍之介は売れないミュージシャンの父と福岡で暮らしている。2人は、両親が仲直りして、また4人一緒に暮らせるように、情報を交換しては策を練っていた。

そんな時、航一はある噂を耳にする。もうすぐ全線開業する九州新幹線の、博多から南下する“つばめ”と鹿児島から北上する“さくら”の一番列車がすれ違う時、奇跡が起きる、と――。それだ!と閃いた航一は、龍之介や自分のクラスメイトに声をかけ、列車がすれ違うはずの熊本に子供たちだけで行くという、壮大で無謀な計画を立て始める…。

『誰も知らない』の是枝監督が再び家族を捉えた最新作。
子供たちを見守り、翻弄され、
やがて癒されていく家族を描いた感動エンターテインメント。

世界中が新作を待ち望んでいる映画監督・是枝裕和。『誰も知らない』の衝撃から7年、自身も父親となり、再び自作で“家族”と向き合ったのが『奇跡』である。主演には、映画初出演のお笑いコンビ“まえだまえだ”の前田航基と旺志郎。オーディションで初めて兄弟に会った是枝監督は、その無限の才能とピュアな魅力に惚れこみ、彼らのために脚本を書きかえた。

少しずつどこかがダメな、けれども愛すべき大人たちを演じるのは、オダギリジョー、阿部寛、夏川結衣、樹木希林、原田芳雄ら是枝組常連のキャストに加え、大塚寧々、橋爪功、長澤まさみといった豪華な顔ぶれがそろった。2011年3月に全線開業を迎えた九州新幹線をモチーフにした本作は、オール九州ロケを敢行。音楽は、鉄道を愛してやまないくるりが同名主題歌「奇跡」とともに手がけた。今、スタッフキャストの情熱を乗せた新幹線が、感動で日本をひとつにつなぐ――。


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