今週は、蘇った名作『赤い風船』と『白い馬』、
そして『赤い風船』とアルベール・ラモリスにオマージュを捧げた、
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』をお届けし
ます。
フランス、パリ。ある朝パスカル(パスカル・ラモリス)は、街灯に引っ掛かったひとつの赤い風船を見つけて手に取ります。
放課後、途中で雨が降り出すと、信号待ちのおじさんが傘を開くのを見つけて、パスカルは自分ではなく赤い風船を入れてもらうようにお願いします。
ずぶ濡れになって帰ったパスカルはお母さんに叱られ、赤い風船を窓から放られてしまいます。 すると不思議なことに、赤い風船はパスカルの部屋の窓の外にふわふわと留まっているのでした。 赤い風船は彼の行く先々に付いてくるようになったのです。
(1956年 フランス 36分 SD/MONO)
■監督・脚本 アルベール・ラモリス
■出演 パスカル・ラモリス/サビーヌ・ラモリス/ジョルジュ・セリエ
■1956年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞/1956年アカデミー賞脚本賞受賞/2007年カンヌ国際映画祭監督週間出品
フランスの南。カマルグの荒地に、野生馬の一群が棲息していました。“白いたてがみ”と呼ばれる、美しく勇ましい荒馬が群れのリーダーです。
ある日、漁師の少年フォルコ(アラン・エムリー)は、この白い馬が牧童たちに捕らわれてしまうのを目にします。 フォルコは白い馬を守ろうと彼に近寄りますが、白い馬はフォルコからも逃げようと、 手綱にしがみついたフォルコを引きずって、湿地帯を駆けていきます。
いつまでも手綱を離さないフォルコに、白い馬は立ち止まりました。 ついにフォルコの想いが通じたのです。そして白い馬を家に連れて来ますが、 すぐに牧童たちに見つかってしまい、白い馬は家を飛び出してしまうのでした。
(1953年 フランス 40分 SD/MONO)
■監督・脚本 アルベール・ラモリス
■出演 アラン・エムリー/ローラン・ロッシュ/フランソワ・プリエ/パスカル・ラモリス/ジャン=ピエール・グルニエ(ナレーター)
■1953年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞/1953年ジャン・ヴィゴ賞受賞/2007年カンヌ国際映画祭監督週間出
7歳のシモン(シモン・イテアニュ)は、バスティーユ駅前で赤い風船を見つけます。 この赤い風船がほしいのに、手が届きません。シモンはあきらめてメトロに乗り込みま すが、赤い風船は彼を追いかけてきます。
同じ頃、留学生のソン(ソン・ファン)は、シモンのお母さんで人形劇師のスザンヌ( ジュリエット・ビノシュ)を訪ねていました。新作劇の発表準備で忙しいスザンヌに代 わり、シモンのベビーシッターをすることになったのです。
一方、スザンヌは新作劇の準備や住宅問題、夫との不和などの様々な問題を抱え、情緒 不安定になっていました。孤独に打ちひしがれるスザンヌにシモンはそっと寄り添い、 ソンは静かに見守ります。スザンヌはふたりの存在により、徐々に変化していくのでし た。
★『珈琲時光」(03年)で東京の今を映し出したホウ・シャオシェンが、パリを舞台に 『赤い風船』とアルベール・ラモリスへオマージュを捧げたのが本作、『ホウ・シャオ シェンのレッド・バルーン』です。オルセー美術館が映画制作に全面協力するという、 開館20周年事業として発足したプロジェクトの第一回作品。
(2007年 フランス 113分 ビスタ・SR)
■監督 ホウ・シャオシェン
■出演 ジュリエット・ビノシュ/イポリット・ジラルド/シモン・イテアニュ/ソン・ファン
物語はいたってシンプル、登場する人物も少なければ、セリフだってほとんどありません。
パリの街のなかを小さな少年と赤い風船が行く。少年が白い馬に乗って駆けて行く。
それだけのことなのに、どうしてこんなにも胸がどきどきするのでしょう。
灰色の街に浮かぶ、ぴかぴかの赤い風船。
小さなパリを駆ける子どもたちの姿。
美しい映像にため息をもらし、野生馬が現れる場面では、その躍動感に胸を弾ませるでしょう。
目に涙を浮かべるひとがいたら、きっとそのひとは大人になったひとかもしれません。
小さい頃に観たことがあるひとでも、きっとそのとき感じた気持ちとは違う、何かを感
じるはず。
パスカルとフォルコが、赤い風船と白い馬という最愛の友との間に、
言葉を必要としなかったように。
この永遠の傑作を前にしてはいくら言葉を並べ立てても伝えきれないと
思います。
説明を必要としない映画であるということ。
わたしたちは改めて「映画は映像なんだ」ということを思い知らされるのです。
物語の最後に、あなたがどう感じたか。わたしにそっと教えてください。
読み継がれる絵本のように、
この映画がたくさんの後世の子どもたちへと渡り続けますように。
(sone)