1951年、スペインのラ・マンチャ生まれ。若き日に小説、音楽、演劇などさまざまな分野の芸術活動を繰り広げ、独力で映画作りを学んだ。自主制作の低予算映画『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』(80)で好評を博したのち、『バチ当たり修道院の最期』、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』、『アタメ』、などのキッチュでエネルギッシュな作風が世界的に注目される。
徐々にストーリーテリングの成熟度を高め、“女性賛歌3部作”の1作目にあたる『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)でアカデミー外国語映画賞、カンヌ映画祭監督賞など数多くの賞を獲得した。続く『トーク・トゥ・ハー』(02)もアカデミー脚本賞に輝くなど絶賛され、ヨーロッパを代表する名匠の地位を確立。『ボルベール〈帰郷〉』(06)では主演女優6人全員にカンヌ映画祭女優賞が贈られた。その後も冒険心あふれる挑戦を続け、最新作『ジュリエッタ』は20本目の長篇作品となる。
・ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち(80)<未>
・セクシリア(82)
・バチ当たり修道院の最期(83)
・グロリアの憂鬱/セックスとドラッグと殺人(84)<未>
・マタドール<闘牛士>・炎のレクイエム(86)
・神経衰弱ぎりぎりの女たち(87)
・欲望の法則(87)
・アタメ(89)
・ハイヒール(91)
・キカ(93)
・私の秘密の花(95)
・ライブ・フレッシュ(97)
・オール・アバウト・マイ・マザー(98)
・トーク・トゥ・ハー(02)
・バッド・エデュケーション(04)
・ボルベール <帰郷>(06)
・抱擁のかけら(09)
・私が、生きる肌(11)
・アイム・ソー・エキサイテッド!(13)
・人生スイッチ(14)※製作
・エル・クラン(15)※製作
・ジュリエッタ(16)
今週はスペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督特集。80年代にデビューしてからコンスタントに作品を発表し続け、最新作『ジュリエッタ』は、アルモドバルにとって早くも20本目の長篇映画となります。本作はこれまで何度も取り上げてきた“母と娘”をテーマに、過去の出来事に囚われ、傷ついた主人公がそれと向き合っていく姿を描いたヒューマン・ドラマです。
併映は、彼の代表作のひとつである『トーク・トゥ・ハー』。この作品は、2002年の米アカデミー賞脚本賞に輝きました。非英語映画としては1966年の『男と女』以来の快挙だったそうです。いわゆるアメリカ映画的なものとは対極にあるようなアルモドバルの作品がなぜアカデミー賞に輝いたのか。その理由は、彼の物語ならではの緻密さや豊かさにあるのではないでしょうか。
1つの作品に織り込まれるいくつものストーリー。音楽やダンス、彫刻や絵画といった他の芸術をも自分の作品世界に取り込んでしまう自在さ。そして、どの作品にも通底する「愛」「性」「死」といったストレートなテーマ。時に激しく突き刺すように、時に優しく包みこむように(アルモドバルはよく「抱擁」とよびます)、アルモドバルの映画はこちらの心の深いところまで入り込んでくるのです。
映画という芸術表現をこれ以上ないほど活かした、現代最高の作家のひとりであるアルモドバル。今年の5月に開催される第70回カンヌ国際映画祭では、審査員長を務めることが発表されました。幼い頃から映画ばかり観て育ったシネフィルでもある彼がどんな作品を選ぶのか、今から楽しみです。
(パズー)
トーク・トゥ・ハー
Hable con ella
(2002年 スペイン 113分 シネスコ/SRD)
2017年2月11日-2月17日上映
■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■撮影 ハビエル・アギーレサロベ
■音楽 アルベルト・イグレシアス
■出演 レオノール・ワトリング/ハビエル・カマラ/ダリオ・グランディネッティ/ロサリオ・フローレス/ジェラルディン・チャップリン/パス・ベガ/ピナ・バウシュ/カエターノ・ヴェローゾ
■2002年アカデミー賞脚本賞受賞/ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞/全米ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀外国語映画賞/ヨーロッパ映画賞最優秀作品賞ほか4部門受賞 ほか多数受賞・ノミネート
4年前から昏睡状態のバレリーナ・アリシア。そんな彼女を献身的に介護するのは看護師のベニグノだ。家に閉じこもり、母親の介護だけをしていたベニグノは、窓から見えるバレエ・スタジオで踊るアリシアの美しさに心酔していた。しかしある日、彼女は交通事故に遭ってしまう。
眠り続けるアリシアの髪や爪の手入れをし、体を拭き、クリームを塗り、服を替える。返事のない彼女に語りかける日常は、ベニグノにとって人生で最も充実した日々だった。
いっぽう、女闘牛士のリディアもまた、競技中の事故によって昏睡状態で入院していた。リディアの恋人・マルコは彼女の傍らで泣き、ふさぎ込むばかり。ベニグノはマルコにも、話しかけるよう促すが…。
世界の映画賞を席巻したヒット作『オール・アバウト・マイ・マザー』の次作として、アルモドバル監督が世に送り出した『トーク・トゥ・ハー』。4人の孤独な男女を主人公に、生と死、愛と孤独、痛みと希望、そして切ないまでのコミュニケーションへの渇望を描き出す。現在と過去を自在に往き来しながら、登場人物たちの心とその背景をスリリングに明かしてゆく。
愛するものが昏睡におちいったら――届かないはずの言葉は届くのか? 愛は奇跡はもたらすのだろうか? だがその代償は? そんな問いへのひとつの答えを、アルモドバルは、温かな洞察と啓示に満ちた切ない究極の愛の物語へと結実させた。
オープニングとエンディングを飾る、2009年に他界した世界的ダンサー、ピナ・バウシュの舞台や、ブラジルのトップ歌手カエターノ・ヴェローゾの心揺さぶる歌と演奏も、本作の大きな見どころとなっている。
ジュリエッタ
Julieta
(2016年 スペイン 99分 ビスタ)
2017年2月11日-2月17日上映
■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■原作 アリス・マンロー
■撮影 ジャン=クロード・ラリュー
■音楽 アルベルト・イグレシアス
■出演 エマ・スアレス/アドリアーナ・ウガルテ/ダニエル・グラオ/インマ・クエスタ/ダリオ・グランディネッティ/ミシェル・ジェネール/スシ・サンチェス/ロッシ・デ・パルマ
■2016年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品
©El Deseo. Photo by Manolo Pavon.
マドリードでひとりで暮らしているジュリエッタは、自分を心から愛してくれている恋人ロレンソにも打ち明けていない苦悩を内に秘めていた。ある日、ジュリエッタは偶然再会した知人から「あなたの娘を見かけたわ」と告げられ、めまいを覚えるほどの衝撃を受ける。12年前、ひとり娘のアンティアは理由も語らずに、突然姿を消してしまったのだ。ジュリエッタはそれ以来、娘には一度も会っていない。忘れかけていた娘への想いがよみがえる。ジュリエッタは、心の奥底に封印していた過去と向き合い、今どこにいるのかもわからない娘に宛てた手紙を書き始めるのだった…。
思いがけない運命や偶然に翻弄される登場人物を主人公にして、人生の豊かさや複雑さ、人間の愛おしさや切なさを描かせたら当代随一のストーリーテラーである監督ペドロ・アルモドバル。彼の最新作『ジュリエッタ』は、深い哀しみに引き裂かれたひと組の母娘の物語だ。“女性賛歌3部作”と呼ばれる自身の代表作『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール〈帰郷〉』にも通じるエモーショナルなテーマを追求するとともに、魔術的なまでに深みを湛えた語り口で観る者を虜にするヒューマン・ドラマである。
ジュリエッタ役にはふたりの女優を起用。ベテラン女優エマ・スアレスが現在を、新進女優アドリアーナ・ウガルテが過去のジュリエッタをそれぞれ演じる。原作はカナダのノーベル賞作家アリス・マンローが2004年に発表した「ジュリエット(Runaway)」。 同一主人公でありながら独立した3つの短編をアルモドバル自身がひと続きの物語として脚本化した。