バッド・エデュケーション
BAD EDUCATION
(2004年 スペイン 105分)R-15
2008年1月12日から1月18日まで上映 ■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
■音楽 アルベルト・イグレシアス

■出演 ガエル・ガルシア・ベルナル/フェレ・マルティネス/ハビエル・カマラ/ルイス・オマール/レオノール・ワトリング

「この愛の物語をすべての人々に捧げる」
───────ペドロ・アルモドバル

半自伝的なエピソードも匂わせ、構想に十年以上かけたこの作品は、これまでのアルモドバル作品の中で最も濃密で美しい映像となった。はっとするような原色は、黒があるからこそ引き立つ。暗闇の中を流れるひとすじの血の色は、どこまでも鮮やかだ。

1980年、マドリード。若くして成功した映画監督エンリケのもとに、イグナシオと名乗る俳優志望の青年が訪ねてくる。イグナシオ、という名前に驚きを隠せないエンリケ。

イグナシオ…かつて神学校での級友であり、またそれ以上の絆で結ばれながら、16年間も連絡が途絶えていた男の名前。懐かしさを抱きながらも、あまりに昔の面影を感じさせない彼に、エンリケは戸惑いを抱く。

そんな中イグナシオが差し出した映画の脚本。

そこに描かれていたのは、イグナシオとエンリケの少年時代の美しい思い出。そして、それを引き裂いたある出来事。

エンリケは脚本を読みながら、少年時代の悲しい思い出の中に戻って行く。美しい歌声で人々を魅了するイグナシオ。静かに惹かれあうふたり。だがそんなふたりを蛇のような目で見つめるもう一人の男がいた。教師であるマノロ神父である。 彼もまた、イグナシオに惹かれていた。マノロ神父は嫉妬のあまりエンリケを退学処分にしようとする。神父に自分の身を捧げエンリケを助けようとしたイグナシオだったが…。

脚本を読み終えたエンリケは、映画化を決意するのだが、心は晴れない。今ここにいるのは本当にあのイグナシオなのだろうか?それでは再会した時からの拭いきれない疑念はいったい何なのだろうか?

エンリケを翻弄するイグナシオ役にはガエル・ガルシア・ベルナル。男の逞しさ、可愛らしさも自然体で演じた彼が今回挑戦したのは男の色気も女の色気も兼ね備えた難しい役どころ。それをアルモドバル作品独特の極彩色と見事にマッチさせ、不思議な魅力を漂わせている。

これまでも、『トーク・トゥ・ハー』『オール・アバウト・マイ・マザー』などで剥き出しの人間の姿を描いてきたアルモドバル監督であるが、全編に漂っているのは愛情であり、本作もそれは変わらない。誰かを愛するという行為は自分の欲望をさらけ出す事であり、例えそれが禁じられた愛情だとしても、止められないのが欲望なのだ。

(リンナ)



このページのトップへ

ボルベール<帰郷>
VOLVER
(2006年 スペイン 120分)
pic 2008年1月12日から1月18日まで上映 ■監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
■撮影 ホセ・ルイス・アルカイネ
   ■音楽 アルベルト・イグレシアス

■出演 ペネロペ・クルス/カルメン・マウラ/ロラ・ドゥエニャス/ブランカ・ポルティージョ/ヨアンナ・コボ/チェス・ランプレアベ

女であり、娘であり、母であること―─

pic『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』に続く、ペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作の最終章。
うるんだ大きな瞳と深い胸の谷間、ラ・マンチャのたくましい女を演じるために付けた「付け尻」。
とにかくペネロペ・クルスが美しすぎる!

舞台はスペインのラ・マンチャ。ライムンダ(ペネロペ・クルス)は10代の頃、母を拒んでいた。分かり合うこともなく、母は父とともに火事で亡くなってしまう。年月が経ち、思春期の娘を持つライムンダは「死んだはずの母の姿を見た」という噂を耳にする。死んだはずの母が帰ってきた?幽霊なの?かつては心を閉ざした母に、「娘に戻りたい」と愛を求めるライムンダ。しかしその再会で、ライムンダは母の衝撃的な秘密を知ることとなる。

この作品は、2006年カンヌ映画祭において女優6人が女優賞を受賞、並びに脚本賞を受賞し、ゴヤ賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞を獲得するなど、快挙を成し遂げた。アルモドバルはなぜこんなにも女性を撮るのが上手いのか。

ライムンダを熱演したペネロペ・クルスは、ペドロについてこう話している。「女性がどう感じ、どう考えるか、ペドロがよく知っていることにはいつも本当に驚かせられる。(中略)実は私には彼に秘密にしていることがたくさんあって、そんなの彼も知らないはずなのに、ある日突然、彼にはすべてわかっていることに気づかされるの。彼にはそういう特別な目があるのね。」

タイトルである「ボルベール」は“帰郷、帰還”という意味であるが、この言葉は映画の物語においてだけではなく、アルモドバル監督にとっての帰郷をも含んでいる。アルモドバル監督の故郷ラ・マンチャへの帰郷、母への帰還…アルモドバル監督は、「ラ・マンチャへ戻ることは、母の胸に戻ること」だと語る。この作品を観たあと、すべてのひとは母を、故郷を思い、娘を持つ母は娘を思うだろう。いままでよりもっと愛しい存在になっているに違いない。

あなたの故郷は何ですか?

(木々)


このページのトップへ