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園子温監督『ラブ&ピース』の元になっているのは、彼が今から25年前に書いたシナリオだといいます。この時期は、彼のキャリアでは「ぴあ」スカラシップで製作された劇場映画デビュー作にして青春映画の傑作『自転車吐息』の公開の前後に位置しています。

実際、『ラブ&ピース』は『自転車吐息』とネガとポジの関係にあります。映画作家として旅立とうとする自らの先行きの不安と焦燥感を自画像的に描き出したのが『自転車吐息』なら、『ラブ&ピース』は奇跡が巻き起こるファンタジックなサクセスストーリーに、当時のくすぶっていた自らの願望をめいっぱい詰め込んだ物語だからです(実際、本作の主人公・鈴木の住む部屋は、当時園監督の住んでいた部屋をそのまま再現したものだそうです)。

初期衝動に近い形で書かれたような展開は、ところどころ破綻しつつも、本格的な特撮もつかってパワフルに突っ走りまくります。物語上の歪みや夾雑物すら取り込んで作品にしてしまえる力強さは、自主映画時代からの園監督の真骨頂です。近年は物議を醸す題材のイメージが強い園監督ですが、本作はシナリオ執筆から25年の時を経て、自らの夢を映像化できたことの素直な喜びがダイレクトに伝わってくる作品です。

一方、北野武監督の新作『龍三と七人の子分たち』は、一見すると『ソナチネ』などの初期のスタイリッシュなヴァイオレンス映画や、近年の『アウトレイジ』二部作とも大きく隔たった印象を私たちに与えます。年老いたヤクザの面々が繰り広げるハタ迷惑な大騒動は、軽い不穏さを湛えながらもTVバラエティの枠に収まっていたかつてのビートたけしの世界そのもののように見えるからです。

とはいえ、藤竜也を筆頭とする豪華出演陣たちがマジメな顔で演じるアホな場面の連続をクールな距離感で見つめつつ、独特のテンポでつないでいくスタイルに、まぎれもなく映画作家・北野武の繊細な手つきが刻印されています。

アウトローな男たちへのピュアな共感の眼差しと、それと一見相反する突き放した冷徹なスタイルから醸し出されるアンビバレントな魅力は、北野作品の大きな特徴でしたが、本作ではその演出の妙が、観客から笑いを引き出すために縦横無尽に展開されていきます。その手際の鮮やかさには、あらためて魅了されてしまいます。

四半世紀に渡って北野作品を支え続けてきた撮影の柳島克己・照明の高屋斎コンビが作り上げる格調高い画面や、アルゼンチン・タンゴを参照したという鈴木慶一の哀愁漂う音楽も素晴らしい。近年の日本映画には珍しく、「小粋」という言葉がぴったりくる作品に仕上がっています。

(ルー)

ラブ&ピース
(2015年 日本 117分 DCP ビスタ) pic 2015年10月10日から10月16日まで上映 ■監督・脚本 園子温
■特技監督 田口清隆
■撮影 木村信也
■美術デザイナー 清水剛
■編集 伊藤潤一
■音楽 福田裕彦
■主題歌 「スローバラード」RCサクセション

■出演 長谷川博己/麻生久美子/渋川清彦/奥野瑛太/マキタスポーツ/深水元基/手塚とおる/松田美由紀/西田敏行/(以下、声の出演)星野源/中川翔子/犬山イヌコ/大谷育江

愛は、激しくて、切なくて、デカい

pic2015年夏、東京。楽器の部品会社で働くサラリーマン・鈴木良一は、以前はロックミュージシャンを目指していたが挫折し、それ以来うだつのあがらない毎日を過ごしていた。同僚の寺島裕子に想いを寄せているが、小心者すぎてまともに話すこともできない。しかしある日、良一はデパートの屋上で一匹のミドリガメと目が合い、運命を感じる。あきらめたロックミュージシャンへの道、裕子への想い…。良一の人生を取り戻すために必要な最後の欠片<ピース>、それが…そのミドリガメだった!

世界が笑った、泣いた! 園子温「魂の集大成」

『ヒミズ』『冷たい熱帯魚』などヴェネチア映画祭ほか海外映画祭で高い評価を受け続ける園子温監督が、第59回ベルリン国際映画祭ガリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』以来、直球に愛を描いた待望のオリジナル作品。園子温監督ならではの息もつかせぬストーリー運びはそのままに、最後には涙と感動のクライマックスが待ち受ける。

主人公・良一とミドリガメのピカドンの出会いから始まり、物語の鍵となる謎の老人と彼が暮らす不思議な地下世界の登場により加速する超展開。それらがひとつに集約され圧巻のカタルシスを迎える、そんなクライマックスを彩るのは、主題歌・RCサクセションの不朽の名曲「スローバラード」。愛をあきらめない者は救われる。規格外ともいえるストーリーなのに、ハートウォーミングな鑑賞後感。こんな時代だからこそ、こんな愛と希望にあふれた映画を我々は求めていたのではないだろうか。

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龍三と七人の子分たち
(2015年 日本 111分 DCP シネスコ) pic 2015年10月10日から10月16日まで上映 ■監督・脚本・編集 北野武
■撮影 柳島克己
■衣装 黒澤和子
■編集 太田義則
■音楽 鈴木慶一

■出演 藤竜也/近藤正臣/中尾彬/品川徹/樋浦勉/伊藤幸純/吉澤健/小野寺昭/安田顕/矢島健一/下條アトム/勝村政信/萬田久子/ビートたけし

金無し、先無し、怖いモノ無し!

70歳の高橋龍三は、引退した元ヤクザ。“鬼の龍三”と畏れ慕われた時代はもはや過去のもの。現在は家族にも相手にされず、社会にも居場所がなく、息子の家に肩身の狭い思いで身を寄せながら、世知辛い世の中を嘆いている。ある日、オレオレ詐欺に引っかかったことをきっかけに、元暴走族の京浜連合と因縁めいた関係になった龍三は、昔の仲間に召集をかける。集まったのは、プルプルと震える手で拳銃を構えるジジイ、足元がおぼつかないジジイ、未だに特攻気分のジジイなど7人。龍三は「一龍会」を結成し、京浜連合のやることをことごとく邪魔しまくるが…。

映画監督・北野武が贈る! ジジイ大暴れエンタテインメント!

『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』でヤクザ映画の常識を打ち破り、一大ムーブメントを巻き起こした北野武。約2年半ぶり、17作目となる監督作品は、引退した元ヤクザのジジイたちが、オレオレ詐欺や悪徳訪問販売でやりたい放題のガキどもと対決する大暴れエンタテインメントだ。

主人公の龍三を演じるのは、これが北野作品に初出演となる藤竜也。龍三の右腕となるマサには、こちらも北野組初参加の近藤正臣。他に中尾彬、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭ら平均年齢72歳の超ベテラン俳優たちが“七人の子分”を演じる。また、敵のボスである京浜連合の西を安田顕、龍三と旧知のベテラン刑事・村上をビートたけし自らが演じている。

オレオレ詐欺や食品偽装問題、超高齢化社会などの時事ネタを盛り込みながらも、決してシリアスに着地しない本作は、世の中への不平不満をネタにして笑い飛ばし、観ている人に元気を与えてくれる。ヤクザものでもなければ、コメディでもない。ヒューマンドラマでなければ、アート映画でもない。過去の北野映画とどれひとつとして被ることのない、それでいて北野武にしかつくれない、新境地となるエンタテインメントに仕上がった。

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