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監督・脚本■園子温

1961年12月18日愛知県豊川市生まれ。園子温(そのしおん)、本名である。

17歳で詩人デビュー。 「ユリイカ」「現代詩手帳」に続々と詩が掲載され、"ジーパンをはいた朔太郎"と称される。

法政大学入学後、8mm映画を手掛け、1987年『男の花道』でぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞。PFFスカラシップとして制作された『自転車吐息』がベルリン国際映画祭で正式招待作品となるなど、30を越える映画祭で上映。同作品はヨーロッパ及びアジアでの縦断公開が2年あまり続いた。

一方、街頭詩パフォーマンス「東京ガガガ」を主宰し、一大ムーブメントを起こす。「ここから先は右左なし上下なし東京ガガガ夕刻のガガガ」と書いた数十メートルの大断幕を掲げ、拡声器、大旗、発煙筒、爆竹を手に「ガガガ」と叫びながら街を騒然とさせた。絶頂期には4000人が渋谷のストリートでパフォーマンスを展開。このドキュメントを収めた映画監督ジャン・ジャック・ベネックス(『ベティー・ブルー』)のテレビ番組はフランスで視聴率40パーセントを超え話題となる。

2001年末には物議を呼んだ衝撃的な作品『自殺サークル』を公開。新宿武蔵野館における過去最高の観客動員数を記録した。以後、『奇妙なサーカス』(05)、『夢の中へ』(05)、『紀子の食卓』(06)、『HAZARD』(06)、『エクステ』(07)、『ちゃんと伝える』(09)など衝撃作を続々と誕生させ、各国での受賞作多数。2009年『愛のむきだし』でベルリン映画祭「カリガリ賞」「国際批評家連盟賞」、東京フィルメックスでは観客の投票による「アニエスベー・アワード」を受賞。青春物からホラー、詩や小説と自在なスタイルで活躍する日本映画界の異端児である。

filmography

「俺は園子温だ!」 (85/未)
「愛」 (86)
「男の花道」 (86)
「決戦!女子寮対男子寮」(88)
「自転車吐息」 (90)
「部屋 THE ROOM」 (93)
「BAD FILM」 (95)
「桂子ですけど」(97)
「男痕―THE MAN―」 (98)
「0cm4(パリコレバージョン)」(99)
「うつしみ」 (99)
「ある秘かなる壷たち」(「性戯の達人 女体壷さぐり」)(00)
「風」 (01)
「自殺サークル」(01)
「大人になったら」 (04)
「夢の中へ」 (05)
「奇妙なサーカス」(05) 
「紀子の食卓」 (06)
「HAZARD」(06)
「気球クラブ、その後」(06)
「エクステ」(07)
「愛のむきだし」(08)
「ちゃんと伝える」(09)
「冷たい熱帯魚」(10)
「恋の罪」(11月公開予定)
「ヒミズ」(2012年公開予定)

奴が来るぞ……アレが来るぞ……来たぞぉ!
お待たせいたしました!今週は血眼で待っていて下さった熱狂的なファンの方も多いのではないでしょうか?園子温監督特集です。『冷たい熱帯魚』/『紀子の食卓』の強力タッグとなりました。皆さまは合計総尺305分のモンスター映画達とどう向き合いますか…?

近年の園子温監督は常に現在を描き、最高のパフォーマンスで映画を作り上げていく。園子温の映画は成長し続ける生命体のようで、観客達の心に大きな爪痕を残して去ってゆく。なぜ園子温は我々にこのよう様な生命体を送り込んでくるのだろうか?園子温は、自身が映画で突き詰めていきたい事柄について坂口安吾「堕落論」を引用している。

「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない」

園子温は今の世の中を疑っている。
笑顔でおいしい食事を楽しむ家族を。(しかしそれは本当の笑顔か?)
広告やテレビで謳う表層的な幸福イメージで溢れる街を。(しかしそれは本当の幸福か?)
疑う事も知らず、刷り込まれた常識や価値観にひたすら忠実である我々を。(しかしそれは本当に正しいのか?)

幸せだと信じていた。平和だと思っていた毎日がある時突然崩壊していく。バランスを失った平穏に、妥協や隠ぺいによって今まで隠れていたモノが壁となり立ちふさがる。その壁を破壊し進むほどに迷路に迷い込み、元の入り口には戻れなくなる。もがき疲れ果て、頼るモノも無くなり丸裸にされると遂に自らが壊れてゆく。その過程、終末で露呈する人間の本質を園子温はえぐり出そうとしている。

成長していく園映画。
我々も日々成長していく。様々なシガラミをまといながら…。我々が見えていない(いや、見ようとしていない)世界。それはきっと誰もが持っている世界。園映画=生命体は、心のシガラミを切り裂き我々にショックを与える。いや、そうではないのかもしれない。これは心が裂けるショックではなく、裂けた隙間から見えてくるモノにショックを受けるのではないだろうか。

「こんな姿認めたくない。しかし、認めざるをえない」気持ちの葛藤。
園子温が暴きだした、醜くも可笑しい我々人間の本当の姿受け入れることができた時、園子温映画は痛快・爽快猛毒エンターテイメントと化し、その魅惑に取り憑かれるであろう。

「ひとつ、どうです。お客様がここで観るってアイデアは?」
――巨大熱帯魚屋「AMAZON GOLD」のオーナーならこう言うだろうか?(まつげ)

紀子の食卓

(2005年 日本 159分 R-15 ビスタ/SR)
2011年8月6日から8月12日まで上映
■監督・原作・脚本・テーマ作曲 園子温
■撮影 谷川創平
■編集 伊藤潤一
■音楽 長谷川智樹

■出演 吹石一恵/つぐみ/吉高由里子/光石研

■日本映画プロフェッショナル大賞ベスト10 第9位

この世界<ウソ>をナイフで切り裂いてやる。
正視しろ。これが現実<リアル>だ。

pic紀子は、田舎に住む17歳の平凡な女子高生。家族や学校に飽き飽きしていたある日、「廃墟ドットコム」というサイトを見つけた紀子は、ハンドルネーム「上野駅54」や他の仲間たちと出会い、意気投合。ある停電の夜、家出して東京へ向かう。紀子はそこで、「上野駅54」が経営する<レンタル家族>の仕事を始める。

一方、紀子失踪の手掛かりを「廃墟ドットコム」に見出だした妹のユカは、秘密をもって東京へ消える。ユカの失踪から2か月後、母・妙子は自殺。残された父・徹三は、娘2人を見つけ出し、家族のかけらを繋ぎとめようと必死に「廃墟ドットコム」の存在を追うが…。果たして、彼らはかつての幸せな家族団欒を取り戻せるのだろうか?

絶望を希望に変える、衝撃の“ホームドラマ”
あなたは、あなたの関係者ですか――?     

pic“「うちだけは」「絶対に」「なにも起こらない」「平和な」「ホームだ」という概念は今、崩れ去り、誰もが少しだけ「うちにも」「いつか」「もしかしたら」「何かが起こる」のではないかと不安を抱いているはずだ。その不安の根は何か。「幸せ」なのに「不幸」が待っていそうなその不安の原因は何かを探りたかった。年間3万人の自殺者を出す「平和な戦争のない国」に生まれて、遠い戦争やテロのニュースをテレビを見ながら「日本に生まれてよかったね」「向こうは怖いね」と言っていられたときはもうすでに無く、今、じわじわと見えない「透明な戦争」がここかしこでおきつつある。

恐ろしい「透明戦争」の最中に、10代と50代の人間が向かい合う1つ屋根の下の「食卓」とは、どのくらい熾烈な場所なのか。それを今、徹底的に掲示したかった。これは、現代の日本映画に巣食う「まったりとした」「平々凡々な」「等身大の」「人を和ませる」「癒したりする」映画では決してない。むしろ、その逆である。”――園子温(『紀子の食卓』プレスより)


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冷たい熱帯魚

COLDFISH
(2010年 日本 146分 R18+ ビスタ/SR)
2011年8月6日から8月12日まで上映 ■監督・脚本 園子温
■脚本 高橋ヨシキ
■撮影 木村信也
■編集 伊藤潤一
■音楽 原田智英

■出演 吹越満/でんでん/黒沢あすか/神楽坂恵/梶原ひかり/渡辺哲/諏訪太朗

この素晴らしき世界。

pic家庭不和を抱えつつもつつましく小さな熱帯魚店を営む社本は、娘・美津子の万引き事件をきっかけに同業者の村田夫妻と知り合う。巨大熱帯魚屋“アマゾンゴールド”のオーナーである村田は、社本を強引に自分の店へと誘った。 「ひとつ、どうです。美津子ちゃんがここで働くってアイデアは?」

翌朝、アマゾンゴールドには美津子の姿があった。継母である妙子が嫌いだった美津子は、素直に住み込みで働く“新生活”を受け入れていた。さらに数日後、村田に“儲け話”をもちかけられ呼び出された社本。高級熱帯魚の輸入を手伝うことになるが、予想もしなかった破滅へと引きずり込まれていく。「ボディーが透明になっちまえば何も分かりゃしねぇ…俺は常に勝つ!」

世界が絶賛!園子温の手加減無しの猛毒エンターテインメント
もう誰も、この世界から逃げられない…ト

pic本作は監督の実体験と、1993年の埼玉愛犬家殺人事件や数々の猟奇殺人事件からインスパイアされたダーク・ファンタジー。前作『愛のむきだし』を<陽>とするならば、本作はまさに<陰>。一見幸せにみえるこの素晴らしき世界も、目を凝らすと<死>と<暴力>に満ち溢れているという事実を、これでもかと我々に突き付けてくる。園子温自ら“最高傑作”と謳う金字塔作品であると同時に、間違いなく2011年No.1の問題作である。

“今回は「徹底的に救われない家族」を描いてみました。なんにでも希望を持たすのはイカンと思うんですよ。ダメなものはダメだと。そのくらい徹底したほうが活力になる。僕のバイブル映画に『県警対組織暴力』があって、深作欣二作品の中でも特に好きな映画の一つですが、あんなふうにブラックな人間洞察に満ちている、どこまでも希望がないんだけど観た後にスッキリする映画を僕も作りたい。今回は上半身が深作欣二、下半身がポール・バーホーベンのような映画を作れたらいいな、と思っていました。”――園子温(『冷たい熱帯魚』プレスより)


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