top

今週は、名匠テリー・ギリアムと新鋭ニール・ブロムカンプの、近未来を描いたSF映画を二本お送りします。

テリー・ギリアムの『ゼロの未来』はコンピューターに支配された世界で、
世間に馴染めず一人古びた教会で生活する天才プログラマー・コーエンが主人公です。
教会の一歩外に出ると、極彩色豊かなビジョンとノイズが溢れ、せわしなく動き続ける世界が彼の目の前に押し寄せます。
この世界観はギリアム自身が日本へ旅行にきた際、秋葉原で受けたカルチャーショックから着想したといいます。
さらに、コーエンの夢や幻想などの仮想世界をその世界と並行させ、彼は二つのSF世界を往来するのです。

ニール・ブロムカンプの『チャッピー』は、監督の出身地である南アフリカ・ヨハネスブルグを舞台に、
世界有数の犯罪多発地域をプログラムされた警官ロボットが取り締まる近未来を描いています。
秘密裏に人工知能を与えられた警官型AIロボット“チャッピー”は
見たもの、聞いたことを電子回路で知覚、意識へと変換し、生まれ落ちた世界で“個”として成長していくのです。

二人の監督はどの様なことを思い、そう遠くはない未来を創造したのでしょうか?

「世界は非常に繋がっているけど、同時に完全に離れている。
顔を合わせて直接コミュニケーションを取る以上に、パソコンやインターネットで多くの時間を過ごすことでね。
人は自分自身の世界を創り上げて孤立することができるけど、
そのことで本物の人間関係が持つ、面白いものや困難なもの、素晴らしいものに対応できなくなるということだ」
―――テリー・ギリアム

「知覚と意識がいかなるものにも宿るものだという考え。特に未来においてね。
そして今のような生物学的姿をした僕ら人間が、自分たちとは異なる、
そうした知覚を持った存在に対してどう反応し、どう対処するのかということに興味があったんだ。
また、その存在が自分自身をどう捉えるだろうか、ということにもね。」
―――ニール・ブロムカンプ

物や情報に溢れ、デジタルネットワークで人々が繋がりあう社会の中で、
孤独な主人公が仮想世界へ繋がりを求める姿を通し、ギリアムは、人間にとっての“幸せとは何か”を模索します。
また、人間とは異なる姿の純真無垢なAIロボットがヨハネスブルグで成長する姿を通し、
ブロムカンプは、“魂とは何か”という哲学的な疑問に挑んでいきます。

幸せとは――魂とは――
人が生きていく上で避けては通れない問い。
忙しすぎる現代において、“本当に大切なこと”を考えることを忘れてしまいそうな私たちに、
二人の監督は投げかけているのです。

今週のSF映画を観終えた後、いつもの世界が少し違って見えるかもしれません。
そしてその先にある未来について、ふと足を止めて考えてしまうような二本立てです。

(まつげ)

ゼロの未来
THE ZERO THEOREM
(2013年 イギリス/ルーマニア/フランス 107分 DCP ビスタ) pic 2015年9月26日から10月2日まで上映 ■監督 テリー・ギリアム
■脚本 パット・ルーシン
■撮影 ニコラ・ペコリーニ
■美術 デヴィッド・ウォーレン
■編集 ミック・オーズリー
■衣装デザイナー カルロ・ポッジョーリ
■音楽 ジョージ・フェントン

■出演 クリストフ・ヴァルツ/デヴィッド・シューリス/メラニー・ティエリー/ルーカス・ヘッジズ/ベン・ウィショー

人は自らの手ですべてを複雑にしてしまい、
本当の幸せがとてもシンプルであることを忘れてしまった――。

picコンピューターに支配された近未来。天才プログラマーのコーエンは、荒廃した教会に一人こもり、「人生の意味」を教えてくれる一本の電話を待ちながら、謎めいた数式「ゼロ」の解明に挑んでいた。ある日、パーティーに連れ出されたコーエンはそこで魅力的な女性ベインズリーと出会う。最初は困惑するコーエンだったが、次第に彼女に惹かれていく。また同じ頃、「ゼロ」の秘密を知る青年ボブとの友情も生まれ始める。閉ざされた世界で、恋と友情を知ったコーエンの人生は大きく変動していく――。

生きるとは――。愛するとは――。
テリー・ギリアム最新作は
人が生きる意味と愛にせまる近未来ヒューマンドラマ!

picモンティ・パイソンのメンバーであり、『未来世紀ブラジル』12モンキーズ』という伝説の傑作から、『ブラザーズ・グリム』『Dr.パルナサスの鏡』というエンターテインメント超大作まで多数の映画を手掛けてきた名匠テリー・ギリアム監督。本作では2度のアカデミー賞に輝く名優クリストフ・ヴァルツを主役に迎え、抑圧された世界に生きる男が変化していく様を力強く描き出す。相手役にメラニー・ティエリーほか、デヴィッド・シューリス、ルーカス・ヘッジズ、ベン・ウィショーらが物語を導くキーパーソンとして登場。

混沌とした世界に生きる男の目を通じ「人生に意味を与えてくれるものとは?」「幸せを与えてくれるものは?」という、誰もが感じたことがある永遠の普遍的疑問を提起しながら、観る者の知的好奇心を刺激する。同時に、愛の力や人とのつながり、真のコミュニケーションの意義を考えさせつつ、ギリアムらしい風刺的なブラックユーモアとウィットにも包まれた、壮大でドラマチック、娯楽性も高いハイクオリティな作品に昇華させた。鑑賞後には深い余韻に浸りながら、この映画で掲げられた疑問を自分自身にも問いかけることになるだろう。

このページのトップへ
line

チャッピー
CHAPPIE
(2015年 アメリカ 120分 DCP PG12 シネスコ) pic 2015年9月26日から10月2日まで上映 ■監督・製作・脚本 ニール・ブロムカンプ
■製作 サイモン・キンバーグ
■脚本  テリー・タッチェル
■撮影 トレント・オパロック
■プロダクション・デザイナー ジュールス・クック
■音楽 ハンス・ジマー

■出演 シャールト・コプリー/デーヴ・パテル/ニンジャ and ヨーランディ・ヴィッサー/ホセ・パブロ・カンティージョ/シガニー・ウィーヴァー/ヒュー・ジャックマン

…ボクを…なぜ怖がるの?…

pic2016年。南アフリカの犯罪多発都市、ヨハネスブルグ。ロボット開発者のディオンは、世界初となるAI(人工知能)搭載の戦闘用ロボットを極秘で製作するが、ストリートギャングに奪われてしまう。ロボットはギャングたちに“チャッピー”と名付けられ、ギャングとして生きるための術を叩き込まれて、成長していく。そんな中、ディオンのライバルでもある科学者ヴィンセントはチャッピーのことを知り、その存在を危険視した彼は、チャッピーを追い詰めていくが…。

チャッピー…それは、余命5日間の
人間になりたかったAI
2016年のヨハネスブルグで起こる 恐ろしくも切ない奇跡

pic 『第9地区』『エリジウム』と、近未来の世界を独自の視点で表現し続けるニール・ブロムカンプ監督。サイエンス・フィクション映画の鬼才としてその地位を確立した彼が、警察の戦闘用に開発されたAI搭載の学習型ロボット“チャッピー”を主人公に描く近未来ハード・バイオレンスSFアクション。

世界でただ一体の “感じ、考え、成長するAI”を搭載したロボット、チャッピーを演じるのは『第9地区』『エリジウム』とニール・ブロムカンプ監督の盟友ともいえるシャールト・コプリー。モーションキャプチャーを駆使し、彼の演技にCGのチャッピーをマスクするという独創的な手法で、人間以上に人間らしいロボット、チャッピーがつくり上げられた。共演にはデーヴ・パテル、シガニー・ウィーヴァー、ヒュー・ジャックマンら実力派俳優たちが顔を揃える。また、ギャングのふたりをケープタウン出身のラップグループで、いまアメリカで大人気のダイ・アントワードが演じ、忘れがたい印象を残す。

AIは人類にとって是か?非か? 人間以上に人間らしさを備えたロボット・チャッピーが衝撃のラストでその答えを突きつける、ニール監督の原点的野心作が誕生した。

このページのトップへ