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テリ−・ギリアム

1940年アメリカ生まれ。イラストレーター、広告業を経て、ロンドンに渡りフリーのアニメーターとなる。69年にモンティ・パイソンにアニメーターとして参加、脚本や監督、出演までをこなした。モンティ・パイソン以外での長編映画では77年の『ジャバーウォッキー』で監督デビュー。以後、『バンデッドQ』(80)、『未来世紀ブラジル』『フィッシャー・キング』『12モンキーズ』等、大作・ヒット作を連発。独特の映像表現とシニカルな視点が特徴。

フィルモグラフィ

・空飛ぶモンティ・パイソン(1969〜1973)*TV/出演
・モンティ・パイソン・アンド・ナウ(1971)
・モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(1975)
・ジャバーウォッキー(1978)
・モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン(1979)*脚本・出演
・バンデットQ(1981)
・モンティ・パイソン/ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル(1982)*未公開/脚本・出演
・モンティ・パイソン/人生狂想曲(1983)*未公開
・未来世紀ブラジル(1985)
・バロン(1989)
・フィッシャー・キング(1991)
12モンキーズ(1995)
・メイキング・オブ・12モンキーズ(1996)*未公開/出演
・ラスベガスをやっつけろ(1998)
ロスト・イン・ラ・マンチャ(2001)*出演
・ブラザーズ・グリム(2005)
・ローズ・イン・タイドランド(2005)
・Dr.パルナサスの鏡(2009)

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「映画を作るってことは突き詰めて言えば2つのことだ。信念と勢いだな」──テリー・ギリアム

現在、最新作『Dr.パルナサスの鏡』が1月23日より公開中のテリー・ギリアムだが、彼の映画製作の歴史は、受難の連続であったと言える。『未来世紀ブラジル』のアメリカ公開をめぐって彼が当時のユニヴァーサル社長とおおっぴらに喧嘩をしたこと(ユニヴァーサルに質問をぶつけた85年の伝説的なヴァラエティ誌での広告「いつになったら私の映画を公開するつもりですか?」)、膨大な予算超過を招いた『バロン』が興業的に失敗したことも含めて、彼は“映画界のトラブルメーカー”のように見られがちである。

picギリアムの作品はどれもオリジナリティに溢れ、イマジネーションがはじけまくった映像美とストーリーで私たちを魅了してきた。他の追随を一切許さない、彼の圧倒的な世界は、いったいどうやって作られていくのだろうか?着想はどこから?撮影はどのように?そして、その結果どんなものが生まれたのか?

今週の早稲田松竹はそこにフォーカスをあてました! 題して、「テリー・ギリアムはいかにして着想を得、撮影現場で苦悩し、作品を生み出すのか?」

さあみなさま、テリー・ギリアムの「信念」と「勢い」を見に、早稲田松竹へ!

作品編:12モンキーズ

2010年1月30日から2月5日まで上映

(1994年 アメリカ 130分 ビスタ/SR)
■監督 テリー・ギリアム
■脚本 デヴィッド・ピープルズ/ジャネット・ピープルズ
■音楽 ポール・バックマスター
■出演 ブルース・ウィリス/マデリーン・ストー/ブラッド・ピット/クリストファー・プラマー/ジョン・セダ


1996年12月、人類はウイルスによって99%が絶滅した。その謎を握る"12モンキーズの正体とは?クリス・マルケル作の「ラ・ジュテ」を基に、ギリアムが手がけた第一級エンタテイメント!

1996年12月28日、人類の99%がウィルスによって絶滅した。なぜ、地球上のほぼ全土にウィルスが同時発生し、人類に襲いかかったのか?

pic原因を探るため、科学者たちは服役中の囚人をタイムトラベラーとして過去に送りこむ。だが集められる情報はどれも脈絡のないものばかりだった。そしてまたひとり、囚人が選び出される…。

『ロスト・イン・ラ・マンチャ』の監督を務めるキース・フルストンとルイス・ペペは本作のドキュメンタリー『メイキング・オブ・12モンキーズ』も撮っている(そしてそれこそが『ロスト・イン・ラ・マンチャ』製作のきっかけになった)。そのメイキングの中で、ギリアムはブルース・ウィリスが自身に注射をするシーンで、画面の片隅にちょろちょろ映るネズミの動きが気に入らない、という理由で何度もウィリスに注射を繰り返させていた。正直言って、そのメイキングを見なければ、そこにネズミが映っていることにすら気づかないような、些細なワンシーンだった。注射嫌いの私には見ているだけでとても耐えられなかったのを覚えている。キースとルイスも同じように感じたようで、このメイキングの原題はそのエピソードから「THE HAMSTER FACTOR AND OTHER TALES OF TWELVE MONKEYS」と名付けられている。

pic要するに、テリー・ギリアムの映画とはそういうことなのだ。些細なワンカットにすら、並々ならぬこだわりと芸術性と美しさがひそむ。

ギリアムの全ての映画に言えることだが、『12モンキーズ』は(も)ビジュアルが素晴らしい。21世紀初頭の地下世界、あらゆるセットと機械のデザイン、無人の街をさまよう動物たち。繰り返し映し出される夢、その全てが美しい。そしてあらゆるカットが後にすべて意味を持つという構成と展開が、パズルのピースがはまっていく快感を与えてくれる。

そして、『12モンキーズ』と言えば、音楽である。 アストル・ピアソラの「ブンタ・デル・エステ」からアレンジされたアコーディオン。不安定なのに魅惑的で、耳障りなのに快感で…一度耳にすると、頭にこびりついて離れない。そしてサッチモの「この素晴らしき世界」!切ないったらない。

着想編 ラ・ジュテ

ラ・ジュテ
LA JETEE
(1962年 フランス 29分 ビスタ/MONO)

2010年1月30日〜2月5日まで上映

■監督・脚本 クリス・マルケル
■撮影 ジャン・チアボー
■音楽 トレヴァー・ダンカン
■出演 エレーヌ・シャトラン/ジャック・ルドー/ダフォ・アニシ

■ジャン・ヴィゴ賞/トリエステSF映画祭金賞


ヌーヴェルヴァーグが生み出した「動かない」傑作SF!

第三次世界大戦後のパリ。戦争の勝者が捕虜を使って、時間旅行を試みようと人体実験を繰り返す。選ばれた男は少年時代、オルリー空港で見た凍った太陽や叫ぶ女性などの断片的イメージの数々が記憶に焼きついている。人類の未来を救うためのエネルギーを現在に持ち帰るため、過去に送り込まれた男は驚くべき真実を知ることになる──。

pic初めて『ラ・ジュテ』を観た時の衝撃を忘れられない。自分の抱えているこれまでの「記憶」は、果たして動画だっただろうか?私は『ラ・ジュテ』を観て以来、そのことが思い出せずにいる。自分の記憶も、全て静止画の連続であるような気がしてならないのだ。

写真家やドキュメンタリー作家として知られるクリス・マルケルの“動かない映画”──膨大な量のモノクロスチール写真を大胆に駆使して作りだされた、「時間」と「記憶」をめぐる代表作である。映画のひとつの特徴のとも言える「動き」を放棄していながらも、この作品はとても映画的である。

pic途中、あるひとつのシーンだけが動く。その場面のなんとも言えない衝撃と違和感。 映画 が 動く のは、当たり前のはずではなかったか?

全編静止画と、ささやくような静かなナレーションで綴られるこの作品は、硬質な冷たさを感じさせた。しかし、そのシーンを境に、色と温度を帯びる。人のぬくもりと、吐息と、凍った太陽のあたたかさ。私はこの感覚を、他の映画でここまで感じたことがない。

着想編 ラ・ジュテ

ロスト・イン・ラ・マンチャ
(2001年 アメリカ・イギリス 93分 ビスタ/SR)

2010年1月30日〜2月5日 
■監督・脚本 キース・フルトン/ルイス・ペペ
■撮影 ルイス・ペペ
■音楽 ミリアム・カトラー

■出演 テリー・ギリアム/ジョニー・デップ/ジャン・ロシュフォール/ヴァネッサ・パラディ/ルーシー・ダーウィン


悲劇か?喜劇か?超大作映画「ドン・キホーテを殺した男」はこうして作られなかった!

pic2001年、ギリアム待望の(当時)最新作「ドン・キホーテを殺した男」の製作が始動!超豪華キャストに総製作費50億!タイムスリップしてきたジョニー・デップが繰り広げる愛と冒険の旅!!

…の、はずだったのに…?

降りかかる突然の雷雨、上空を飛び交うNATOの空軍機、ドン・キホーテ演じるロシュフォールの異変…次から次へと襲いかかる不幸。クランクイン直後からたったの6日間で、映画「ドン・キホーテを殺した男」は想像を絶する結末を迎えることになる。この空前の超大作に、一体何が起こったのか?「神様、一体僕が何をしたと言うんです?」――テリー・ギリアム

picキース・フルトンとルイス・ペペの2人は、以前撮影した『メイキング・オブ・12モンキーズ』 のように、「ドン・キホーテを殺した男」のメイキングを撮影する予定でいた。そう、誰も、これが幾多の受難に苛まれる撮影現場の悲劇を一部始終追ったドキュメンタリーとして完成するとは思っていなかったのだ!

ギリアムは後に「(本作を観ることは)苦痛だった。立ち直るまでに1〜2週間かかったよ。もう観ないね」と語っている。しかしこれは誰もが完成版「ドン・キホーテを殺した男」を観たくなる、最高の予告編である。

ギリアムは先ごろ、「ドン・キホーテを殺した男」の制作を2010年中に再開すると発表した。果たして完成なるか!?神様、ぜひとも次こそはギリアムに味方をしてあげて!