★本編上映中、途中休憩はございません。
★製作から長い年月が経っているため、一部お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。
1935年アテネ生まれ。子ども時代にナチスによる占領を体験、戦後パリのソルボンヌ大学に入学するが、中退してギリシャに戻り、映画評を書きながら過ごす。
68年に短編『放送』を撮り、70年に長編『再現』でジョルジュ・サドゥール賞を受賞して映画監督として認められる。『1936年の日々』に続く「現代史三部作」の二番目の作品で4時間近い大作『旅芸人の記録』が世界的な評価を受け、現代史三部作の締めくくりでもある『狩人』でその評価を確実なものとする。80年の『アレクサンダー大王』でヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞。
・放送(1968)*未公開
・再現(1970)*未公開
・1936年の日々(1972)*未公開
・旅芸人の記録(1975)
・狩人(1977)
・アレクサンダー大王(1980)
・アテネ/アクロポリスへの三度の帰還(1982)*未公開
・シテール島への船出(1983)
・蜂の旅人(1986)
・霧の中の風景(1988)
・こうのとり、たちずさんで(1991)
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒(1995)*未公開
・ユリシーズの瞳(1995)
・永遠と一日(1998)
・エレニの旅(2004)
・それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜(2007)
美術、哲学、民主主義、数々の神話が生まれた地。
人類の英知を培った豊饒の大地、ギリシャ。
ヨーロッパ文明の礎を築いたこの国も、戦争やナショナリズムの台頭、難民の流入、
深刻な財政危機など、激動の歴史を歩み、今もなお複雑で困難な問題を抱えている。
アンゲロプロス監督は政情揺れ動くギリシャ、周辺諸国の歴史の悲劇、
自由と尊厳を求めながら圧殺された人々など、戦争や国境、国家権力が招く
過酷な現実をテーマに、透徹した深いまなざしで作品を生み出してきた。
監督の作品の圧倒的なダイナミズム。それは一つの大河だ。
クローズアップを排した広大な背景と長回しの1シーン・1カット。
曇天の下での撮影と幾何学的な構図。
まるでその美しさは、画家が心奪われた景色を描き出した、一幅の絵画のようだ。
そして神話の太古から錯綜する現代まで、時代を貫き、たゆたう悠久の時の流れ。
だが、そのあまりにも巨大な流れは、時に残酷な悲劇として我々の眼に映じるだろう。
かつて栄華を誇った遺跡の姿、戦争や圧政の最中でいなくなってしまった人々。
勝者の歴史の中で、親子の、夫婦の、あるいは恋人たちの、
人と人との結びつきが断たれてゆく姿までもが風化し、忘れられようとしている。
とめどなく流れる無常な世界と繰り返される悲劇。
だが、「旅芸人の記録」には、曇天の下で僅かに覗いた日差しが、
ふいに川面に照り映えた時に芽生えるような希望が顔を覗かせている。
「ヤクセンボーレ!」
今世紀ギリシャの旅芸人たちの、おなじみの呼びこみの歌声。
父で座長のアガメムノン、母のエレクトラ、その子供たちのオレステスにエレクトラ…。
神話の時代と現代を繋ぐ旅芸人一座は、父から息子へ、
母から娘へと代々受け継がれてきた演目、
「羊飼いの少女ゴルフォ」を繰り返し上演してギリシャの地を歌い、踊りゆく。
彼らはギリシャ史に深く刻まれた戦争と圧政の間で苛まれ、寒々とした荒野を彷徨う。
時に仲間は虐げられ、裏切り、徴兵され、そして死別することすらある…。
だが、一座は決して潰えることはない。
それは儚くありながら、滔々と流れ続ける。まるで小川のせせらぎのように。
仲間が失われても、新たな旅芸人が加わり、
戦争と圧政の間で零れ落ちた"記録"は刻まれてゆく。
町でも、海でも、村でも、山でも…、至る場所が舞台となって、
一座の呼びこみの歌声が響き渡る。
悲劇の記憶が身体を得て、一座を突き動かす。
その類まれな物語は、決して途切れることなく、我々の心を深く打つに違いない。
私は本作を何度見ても、数々の悲劇に諦観のようなものを覚えると同時に、
不思議と生きる希望を受け取る。
232分の旅程、絶え間なく流れるその川の行く果てはまだ誰も知らないのだから。
(ミスター)
旅芸人の記録
O THIASSOS
(1975年 ギリシャ 232分 スタンダード/MONO)
2012年5月5日から5月11日まで上映
■監督・脚本 テオ・アンゲロプロス
■脚本 ヨルゴス・パパリオス
■撮影 ヨルゴス・アルヴァニティス
■音楽 ルキアノス・キライドニス
■出演 エヴァ・コタマニドゥ/ペトロス・ザルカディス/ストラトス・パキス/アリキ・ヨルグリ/マリア・ヴァシリウ/キリアトス・カトリヴァノス
■1975年カンヌ国際映画祭国際批評家大賞/1975年タオルミナ映画祭審査員特別表彰/1975年テサロニキ映画祭最優秀作品大賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀撮影賞・最優秀女優賞・最優秀男優賞/1976年ブリュッセル映画祭黄金時代賞/1976年ロンドン映画祭際大賞/1976年イギリス映画協会選出年間最優秀作品/1976年アカデミー賞最優秀外国語映画賞候補作品/1976年フイゲイラ・ダ・フォズ[ポルトガル]映画祭大賞/1979年度キネマ旬報ベスト・テン外国映画第1位、外国映画監督賞/1979年度芸術祭芸術大賞
★一本立て上映です。この週に限り、ラスト一本割引はございません。
★本編上映中、途中休憩はございません。
1952年の晩秋。南ギリシャの小さな町エギオンに降り立つ12人前後の一座。町は数日後の大統領選挙を控えて、“救国の英雄”パパゴス元帥の選挙カーの演説とビラに包まれ騒然としている。
同じエギオンの、1939年の晩秋の街を同じ旅芸人一座がゆく。エレクトラがいて、父で座長のアガメムノン、母クリュタイムネストラ、妹クリュソテミ、その幼い息子の一家に、ピュラデス、詩人、老男優、老女優、アコーディオン奏きの老人、そしてアイギスドスの11人。
彼らの演目は『羊飼いの少女ゴルファ』という五幕ものの戯曲ただひとつ。今夜の舞台から、エレクトラがゴルフォ役を母クリュタイムネストラから、そ の恋人タソスの役を、エレクトラの弟オレステスが父アガメムノンから引き継ぐことになっていた。だがオレステスが徴兵にとられてしまい、代わりにピュラデスが演じることになる…。
1975年に完成され、同年カンヌ映画祭監督週間にひそかに出品されて世界初公開となった『旅芸人の記録』の登場は、映画をつくる人々にとって、そして映画を観て愛してやまぬ人々にとって、大きな歴史的事件の誕生であった。
神話の人物たちが現代ギリシャの旅芸人になってよみがえり、ギリシャ全土を巡業しながら1939年から1952年までの14年間の、圧制と、占領 と、反乱の、なまなましい歴史を、圧倒的な詩の力をもってスクリーンに記録していく。上映されるや、年に一年どころか、数十年に一度の傑作として熱狂的な 評価を受け、満場一致で国際批評家大賞に選出。その限りない美しさ、深さ、力強さ、幾層にも積み重ねられた歴史の重みが伝える感動を、各国のジャーナリス トたちは、それぞれの言葉で各国に打電した――大傑作が現れた!と。