イカとクジラ
THE SQUID AND THE WHALE
(2005年 アメリカ 81分 )
2007年4月28日から5月4日まで上映
■監督 ノア・バームバック
■脚本 ノア・バームバック
■製作 ウェス・アンダーソン
■出演 ジェフ・ダニエルズ/ローラ・リニー/ジェシー・アイゼンバーグ/オーウェン・クライン
絵に描いたような幸福な家族。それはいったいどのようなものだろう。絵に描くことはおろか、想像することすら難しい。どんな親だって子供だって、非の打ち所のない理想的な人間であり続けることなんてきっと出来やしないのだから。
ある日突然、パパとママは”他人”になった。
1986年、ブルックリン、パークスロープ。かつて脚光を浴びた作家だったが、長いことスランプから抜け出せず、大学で講師をして生計を立てる夫・バーナード。これから「ニューヨーカー」で新人作家として華々しいデビューを飾ろうという妻・ジョーン。かつて栄光を味わいプライドの高いバーナードは、作家としてのジョーンを認めることができない。不仲の根底には長年の気持ちのすれ違いもあり、ついに離婚という結論に。多感な時期に両親の離婚を経験することとなった16歳のウォルトと12歳のフランクの二人兄弟。ショックを受けた二人はそれぞれ問題行動を起こすようになってしまうのだが…
鋭い人間観察と表現力で、2006年アカデミー賞脚本賞ノミネートをはじめ全米映画賞の脚本賞を総なめにしたノア・バームバック監督・脚本作品。両親の離婚によるショックで揺れ動く子供達の姿ばかりでなく、親になりきれない欠点だらけの大人達の描写も繊細でリアリティに溢れている。また、文学や映画に関する固有名詞が随所で飛び出し、知る人は思わずニヤリとしてしまうユーモアも満載。深みと軽快さを兼ね備えた作品である。
夫婦役には、『グッドナイト&グッドラック』のジェフ・ダニエルズ(バーナード)、『ミスティック・リバー』のローラ・リニー(ジョーン)。子役のジェス・アイゼンバーグ(ウォルト)、オーウェン・クライン(フランク)も不完全家族を完全に演じきった。
(タカ)
リトル・ミス・サンシャイン
LITTLE MISS SUNSHINE
(2006年 アメリカ 100分 )
2007年4月28日から5月4日まで上映
■監督 ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス
■脚本 マイケル・アーント
■出演 グレッグ・キニア/トニ・コレット/スティーヴ・カレル/アラン・アーキン/アビゲイル・ブレスリン
■オフィシャル・サイト http://movies.foxjapan.com/lms/
ぽっちゃり気味で眼鏡っ娘な9歳のオリーヴの夢は、ビューティー・クイーンになること。日々、美少女コンテストのビデオ研究に余念がない。出場したコンテストで1位だった子が失格したことで2位のオリーヴが繰り上げ優勝。決勝大会へと行くことに!家族みんなで黄色いミニバスに乗り込み、いざ、“リトル・ミス・サンシャイン”コンテストに出発だ!!
アリゾナ州からカリフォルニア州まで伸びるハイウェイ。埃っぽい砂漠の中をおんぼろミニバスはひた走る。バラバラになってしまった家族を乗せて。
オリーヴの父リチャードは独自の成功論を振りかざし、そんな父親に反抗してか、長男ドウェーンはニーチェに心酔し沈黙を守る。ヘロイン吸引が原因で老人ホームを追い出された祖父=グランパは勝手なことを言いたい放題。プルースト研究家の伯父フランクはゲイの恋人に捨てられ自殺未遂。母シェリルは、家族をどうにかまとめようと奮闘中。
個性豊かで、次元を無視したわがままっぷりをそれぞれが発揮する。そんな家族がミニバスの中で仲良く肩を寄せ合い…、もめないわけがないのである。この先、はたして心を通い合わせることはあるのだろうか?
転がっているネタはヘヴィなのに、それを逆手に取ったユーモアが効いていて、なんとも良いのだ。家族再生の物語なんて言ってしまえば、なんだが仰々しくて肩に力がこもってしまうけれど。端的に言葉に表わすならまさにそれになってしまうのが、いかんともしがたいけれど。
わがまま言い合わない家族なんて作り物っぽくて解せない。だけど、まったく違う方を向いてるのって、なんか悲しい。お互いに理解し合おうとする時、世の中のくだらないルールになんて左右されず、素直になれる。人生の勝ち負けなんて、誰かが判断することじゃない。
笑い、怒り、泣き、笑い。そして最後になぜか、笑い泣き。感傷に浸りたいのに、それも笑いで覆われてしまうくらい、豊かで温かな映画なのだ。
(ロバ)