ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
WALK THE LINE
(2005年 アメリカ 136分 PG-12
2006年7月22から7月28日まで上映 ■監督・脚本 ジェームズ・マンゴールド(『17歳のカルテ』)
■脚本 ギル・デニス
■出演 ホアキン・フェニックス / リース・ウィザースプーン / ジェニファー・グッドウィン

■2005年アカデミー賞主演女優賞受賞 / 全米批評家協会賞主演女優賞受賞ほか
■オフィシャルサイト http://www.foxjapan.com/movies/walktheline/

(C)2005 TWENTIETH CENTURY FOX

ボブ・ディラン、ミック・ジャガーなど偉大なミュージシャン達に多大な影響を与えたカントリー・ミュージックの伝説、ジョニー・キャッシュ。スポットライトを浴び、多くの聴衆の心を動かした彼であったが、最愛の人の心には中々想いが届かない。きらびやかなステージの裏で、もう一つの、そして「真実の」スポットライトと拍手を求めつづける姿は、「スターの伝記」としてのみならず普遍的な愛の物語として見る者の胸に迫ってくる。

pic 大恐慌の爪あとの残るアメリカ。綿花の製造で生計をたてるジョニーの家もまた、貧しさの中にいた。家族総出で働くものの一向に楽にならない暮らしへの反動で、父親は酒に溺れしばしば家族に暴力を振るった。そんな日々の中、ジョニー少年の唯一の楽しみは、大好きな兄ジャックと共に聞くラジオ。中でも有名なカントリー音楽の一家、カーター・ファミリーの次女ジューンの歌声は彼を魅了した。

ある日、ジャックが事故で突然この世を去る。お気に入りの息子の死に、「悪魔は良い子の方を連れて行った」と言い放つ父。ジョニーは「自分の方が死ねばよかった」という消し難い思いにさいなまれることになる。

やがて成長したジョニー(ホアキン・フェニックス)は軍隊へ。除隊後は初恋の女性ヴィヴィアンと結婚し幸せな日々が続くかに見えた。しかし、音楽への思いを断ち切れないジョニーはセールスの仕事を辞め、バンド活動へと進んでいく。ヴィヴィアンとの間の溝は深まるばかり。その一方で、プロのミュージシャンとなったジョニーは、少年時代の憧れジューン・カーター(リーズ・ウィザースプーン)と共演を果たす。これが、二人の長い長い愛の軌跡の始まりだった。

音楽が要となる映画において、そのライブシーンの迫力の有無はストーリ全般に関わる問題だが、本作に関しては心配無用。ホアキン・フェニックスとリーズ・ウィザースプーンは音楽プロデューサーの下でロックンロール合宿を行い、歌と楽器の演奏を完全にマスター。全編吹替えなしで唄っている。

pic勿論、ライブシーン以外の演技も見もの。ホアキン・フェニックスは、脚光を浴びながら薬物に溺れ、ジューンへの一途な想いに身を焦がすジョニーをナイーブかつワイルドに表現。また、地に足のついたジューン像をリーズ・ウィザースプーンがきめ細かく演じきり、アカデミー主演女優賞に輝いた。

一般人は、きらびやかなステージに上がることなど出来ない。それでも、愛する人の前では六畳一間や、地方の寂れた駅前ロータリーでさえも最大の舞台になり得る。最愛の人へひたすらに想いを届けようとする時、我々はジョニー・キャッシュその人と同じく、唯一無二の歌を唄えるのかもしれない。

『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』。「唄い」続けることの大切さと素晴らしさを教えてくれる、真実の愛の物語。


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ラストデイズ
LAST DAYS
(2005年 アメリカ 97分)
2006年7月22から7月28日まで上映 ■監督・脚本・編集 ガス・ヴァン・サント
■出演 マイケル・ピット(『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』) / ルーカス・ハース / アーシア・アルジェント / キム・ゴードン / ハーモニー・コリン

■2005年カンヌ国際映画祭 パルム・ドールノミネート
■オフィシャルサイト http://www.elephant-picture.jp/lastdays/

「カート・コバーンに捧ぐ」

今作『ラストデイズ』には上記の献辞があります。これを、「90年代を代表するグランジ(ロックの1ジャンル)バンド・NIRVANAの、自殺したボーカルに捧げられた映画」と言いなおさなければ伝わらないとしたら、ひょっとするとその方が作品にとっては幸せなのかもしれません。

薄汚れたパジャマ姿の男が森をさまよっている。リハビリ施設を抜け出してきた、ロックミュージシャンのブレイク(マイケル・ピット)だ。彼は絶え間なく独り言を呟きながら川に入り身を清め、焚き火をたいて月に吠える。

picやがて大きく古い、自らの家にたどり着く。この家にはブレイクの取り巻きであるルーク(ルーカス・ハース)やアーシア(アーシア・アルジェント)らが居候している。ブレイクが台所に入ると、冷蔵庫に「銃はクローゼットの中に」というメモがあった。Thank youと呟いたブレイクは黒いドレスをまとい、銃を担いで室内を歩き回る。

ツアーをキャンセルしたことを咎めるスタッフの電話。人違いをしたまま話し続ける電話帳の広告セールスマン。私立探偵やレコード会社の重役(キム・ゴードン)。全てから逃れるようにブレイクは邸内を歩き回り…。

監督の親友であったリバー・フェニックスの死の直後、カート・コバーンが自ら命を絶った。若い才能の突然の死に衝撃を受けた監督はカートの死を、事実に基づいてではなく想像力によって描きだした。勿論、そこにはリアリティも不可欠であり、ソニック・ユースのサーストン・ムーアを音楽コンサルタントに起用することで、ミュージシャンという設定に一切の不自然さをなくしている。なお、多くの物議を呼んだ『ジェリー』『エレファント』に続く三部作の一部として、本作もシナリオはほとんど箇条書きで作られた。

picNirvanaの大ファンではなくとも90年代に「青春」を送った人ならばカート・コバーン(コベイン)は、決して小さくない存在として記憶や心の中にいるでしょう。カートの存在が大きい分、冒頭に記したカートへの献辞が多くの反発と過剰な期待を引き起こしたことは方々のブログや掲示板で明らかです。しかし、私を含めた鑑賞済みの観客には“inspired by”と“based on”の違いは事前にどれだけ認識されていたでしょうか?

あくまでも『ラストデイズ』はカートの死ではなく、一人の孤独な人間が死に行く様を描いた映画です。魂が身体から抜け落ちていく様子を、緻密な音楽(音響)と演出によって、淡々と圧倒的な浮遊感を持ってスクリーンに映し出しています。それを安易にリアリティと呼ぶのはあまりに罪深いでしょうが、「ロックスターの死」というファンタジーや「カート・コバーンの死」という90年代のオンタイムなゴシップ的リアル(現実)よりも、実感として迫ってくることは確かでしょう。 Nirvanaのファンもカートのカの字も知らない人も、是非、「孤独な人間の死」の一つの描き方として本作をご覧頂きたいと思います。

「カート・コバーンに捧げる」。この一言が引き起こす作品への数々の誤解は、そのまま、モデルとなったカート・コバーン自身への誤解と皮肉にも相似しているのかもしれません。個人的には、なるべくまっさらな気持ちでスクリーンに臨まれることをお勧めします。

(Sicky)



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