ライフ・ゴーズ・オン、人生はしんどい。

パズー

農家の一人息子に生まれた岩男、42歳独身。意中の女性に振られ、貯金をはたいてフィリピンで嫁探しツアーに参加、やけくそでフィリピーナのアイリーンを日本に連れ帰る。

東京に暮らす寧子、無職。躁鬱が激しく過眠症のため仕事もままならず引きこもり。数年前にコンパで出会った恋人・津奈木とずるずると同棲中だけど、ふたりの仲はうまくいっているとはいい難い。

今週の上映作品の主人公たちは、なんだかとても生き辛そうです。「こじらせ」なんて生易しく聞こえてしまうほど、ときに周囲を引っ掻き回してめちゃくちゃにしてしまいます。けれど、彼らは決して孤独を望んでいるわけではありません。むしろひたすらに人とのつながりを渇望し、相手に全力でぶつかっている(だからこそうまくいかない…)。歪かもしれないけれど、自分なりの“愛”を求めているようにみえます。

『愛しのアイリーン』の原作、新井英樹の同名漫画が連載されていたのは95~96年。『生きてるだけで、愛』の本谷有希子の原作小説が発表されたのは06年。どちらも23年前、13年前の、日本の社会とそこで必死にもがきながら生きる人を描いた作品ですが、2019年のいまに置き換えてみても違和感は全然無いように思えます。それは、不器用でのっぴきならない生き方をする主人公たちに、いつの時代でも、「あちゃ~」と思いつつみんなどこかで共感してしまうからかもしれません。

平成が終わるまであと少し、人とのつながりが希薄になりつつある現代だからこそ贈る、エキセントリックでエモーショナルな“愛(ラブ)”ストーリー二本立てです。

愛しのアイリーン
Come On, Irene

開映時間 ※上映は終了しました
吉田恵輔監督作品/2018年/日本/137分/DCP/R15+ ビスタ

■監督・脚本 吉田恵輔
■原作 新井英樹「愛しのアイリーン」(太田出版刊)
■撮影 志田貴之
■音楽 ウォン・ウィンツァン
■主題歌 奇妙礼太郎「水面の輪舞曲」

■出演 安田顕/ナッツ・シトイ/木野花/伊勢谷友介/河井青葉/ディオンヌ・モンサント/福士誠治/品川徹/田中要次

■第92回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞受賞(木野花)

© 2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

【2019年4月6日から4月12日まで上映】

二人で歩む、地獄のバージン・ロード。

一世一代の恋に玉砕し、家を飛び出した42歳のダメ男・宍戸岩男はフィリピンにいた。コツコツ貯めた300万円をはたいて嫁探しツアーに参加したのだ。30人もの現地女性と次々に面会してパニック状態の岩男は、半ば自棄になって相手を決めてしまう。それが貧しい漁村に生まれたフィリピーナ、アイリーンだった。岩男がとつぜん家を空けてから二週間。久方ぶりの帰省を果たすと、父は亡くなり、実家はまさに葬儀の只中だった。ざわつく参列者たちの目に映ったのは異国の少女・アイリーン。これまで恋愛も知らずに生きてきた大事な一人息子が、見ず知らずのフィリピーナを嫁にもらったと聞いて激昂する母ツル。ついには猟銃を持ち出し、その鈍く光る銃口がアイリーンへ……!

息子と嫁と姑。 国境も常識も超える、 戦慄のラブ&バイオレンス!

未だに熱狂的なファンを持つ「ザ・ワールド・イズ・マイン」や、ドラマ化された「宮本から君へ」で再び脚光を浴びる、生ける伝説・新井英樹の傑作漫画が史上初めて映画化される。監督は、原作「愛しのアイリーン」を“最も影響を受けた漫画”と公言する𠮷田恵輔。『ヒメアノ~ル』で日本を震撼させた𠮷田演出の集大成がここにある。

主演は稀代のカメレオン俳優・安田顕。伝説的な漫画の主人公を全身全霊を注いで怪演した。また、岩男の母にして強烈な愛憎でアイリーンを追い詰める姑・ツル役を名優 木野花が恐るべき迫力で演じる。深遠なるヤクザ・塩崎役には伊勢谷友介。謎めいた存在感で映画にサスペンスフルな重圧を与える。そして、本作のヒロインであるアイリーン役にはフィリピンオーディションで𠮷田監督により見出された新星ナッツ・シトイ。さらには、本作のために書き下ろされた主題歌「水面の輪舞曲ロンド」を歌唱する奇妙礼太郎が、ラストの情感を美しく、切なく包み込む。

生きてるだけで、愛。
Love at Least

開映時間 ※上映は終了しました
関根光才監督作品/2018年/日本/109分/DCP シネスコ

■監督・脚本 関根光才
■原作 本谷有希子「生きてるだけで、愛。」(新潮文庫刊)
■撮影 重森豊太郎
■音楽 世武裕子
■エンディングテーマ 世武裕子「1/5000」

■出演 趣里/菅田将暉/仲里依紗/田中哲司/西田尚美/松重豊/石橋静河/織田梨沙

■第42回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞(趣里)

© 2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

【2019年4月6日から4月12日まで上映】

ほんの一瞬だけでも、分かり合えたら。

生きてるだけで、ほんと疲れる。鬱が招く過眠症のせいで引きこもり状態の寧子と、出版社でゴシップ記事の執筆に明け暮れながら寧子との同棲を続けている津奈木。そこへ津奈木の元カノが現れたことから、寧子は外の世界と関わらざるを得なくなり、二人の関係にも変化が訪れるが…。

今を懸命に生きる、不器用な男女の真っ直ぐでエモーショナルなラブストーリー。

原作は2006年に劇作家・小説家の本谷有希子が発表した同名小説。過剰な自意識に振り回されて自分自身すらコントロールできず、現実との折り合いが上手くつけられない女性の葛藤を疾走感あふれる文体でコミカルに描き、新たな恋愛小説の道を切り開いた。本作のメガホンを取ったのは、これが劇場長編映画デビュー作となる関根光才。原作のエッセンスを受け継ぎつつ、男性である津奈木のキャラクターを独自に膨らませるなどして、より二人の関係性にフォーカス。リアルとバーチャルが混在する社会で、他者とのつながりを求める現代の若者たちの姿を、エモーショナルなラブストーリーで綴る。

ヒロインの寧子には、「ブラックペアン」での好演も記憶に新しい趣里。舞台では圧倒的なオーラを発し、テレビドラマでも際立って爪痕を残す彼女が、自身のキャリアの代名詞になるであろう人物に命を吹き込んでスクリーンに鮮烈に焼きつけた。寧子の相手、津奈木役には昨年第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝き、名実ともに若手俳優の頂点に上り詰めた菅田将暉。閉ざされた心情と生き様を抑制の効いた受けの芝居に滲ませ、優しさと無関心がない交ぜになった男の肖像を等身大の存在感で魅せる。また、その元・恋人で津奈木を取り戻そうとする安堂に仲里依紗、寧子が働くカフェバーの店長夫妻に田中哲司&西田尚美、津奈木の上司に松重豊、同僚には『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の石橋静河らが扮し、二人を取り巻く奇妙な「普通」を形作る。