【2025/5/17(土)~5/23(金)】『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』『リアル・ペイン〜心の旅〜』// 特別モーニング&レイトショー『ペパーミントソーダ 4K修復版』

まつげ

誰しも、心が痛くなる経験をしたことがあると思います。

私にもそんな経験がありました。映画学校への進学を父親に相談した際、「あなたは、本当に映画の道で生きていくことをよく考えているのか?」と大喧嘩をしました。私は、それまで勉強していた化学に見切りをつけ、心のより所だった映画に魅力を感じ、その道に行きたい気持ちが大きくなっていました。そんな気持ちの中、理系エンジニア・サラリーマン一本で生きる父のように、化学でこれからも生きていくことは、何か自分を否定している気がしていたのです。「親父のようにこれからずっとサラリーマンは嫌なんだ」ととても悲しい事を言ってしまいました。

「I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ」はレンタルDVD全盛期の2003年のカナダの田舎町が舞台。ローレンスは大学進学を控えている思春期真っ盛りの高校生で、映画の知識はたっぷりだけど、社交性の無い映画オタクなので学校にもなじめず、唯一の映画友達とも喧嘩別れしてしまいます。

そんな彼の目下の夢はニューヨーク大学で映画を学ぶことでした。ローレンスは、学費の為に行きつけのレンタルDVDショップでアルバイトを始めます。そこで、店長のアラナと少しずつ心を通わせますが、またしてもローレンスはとある問題を起こし、アラナとマネージャーから諭されるのです。「この成長企業できちんとキャリアを積めば、この業界で30~40年働けるよ」しかし、ローレンスは「こんなバカげた仕事を!?」と返してしまいます……

まるで映画を志した当時の私を見ているようで、心がキュッと締め付けられます。

「リアル・ペイン〜心の旅〜」の主人公は、ユダヤ系アメリカ人のデヴィッドとベンジー。ふたりは生まれたのも3週間違いで、兄弟のように育ったいとこ同士です。デヴィッドは臆病で心配性だけれど、大人らしく妻子もいます。ベンジーは終始ジョークをかまし、屈託なく子供のように感情を出す真逆の性格でした。そんな凸凹なふたりは久々に再会し、ホロコーストの生存者だった祖母の遺産で、彼女の祖国ポーランドをめぐるツアーへ行くことから物語が始まります。

大好きだった祖母を亡くしたことで、喪失感に暮れるベンジー。そんなベンジーを気遣うデヴィッド。けれど、旅に出た高揚感も相まって、ベンジーは悲しみを押し殺しながら子供の様に屈託なく、ユーモアを交えながら他のツアー参加者と交流していきます。そんなベンジーに対し、デヴィッドは大人らしい振舞いをみせますが、本当はその姿にイライラしてしまうのです。それでもデヴィッドは「ヘイ!ベンジー!」と繰り返し彼を呼び続けるのです。そして互いの痛みを支え合いながら、ふたりは祖母の住んでいた故郷へと辿り着くのです。

レイトショーの『ペパーミントソーダ』もまた、ディアーヌ・キュリス監督が自身の少女時代に感じた誰にも理解されない痛みや同級生との青春の瞬間を描きます。

ローレンスが言うセリフですが「この先も生きていくんだ ぼくのまま」と。今週の作品は、痛みは痛いけれど、それを糧にして生きる主人公たちの姿が映画に焼き付いています。

リアル・ペイン〜心の旅〜
A Real Pain

ジェシー・アイゼンバーグ監督作品/2024年/アメリカ/90分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 ジェシー・アイゼンバーグ
■製作 デイヴ・マッカリー/アリ・ハーティング/エマ・ストーン/ジェシー・アイゼンバーグ/ジェニファー・セムラー/エヴァ・プシュチンスカ
■撮影 ミハウ・ディメク
■編集 ロバート・ナッソー

■出演 ジェシー・アイゼンバーグ/キーラン・カルキン/ウィル・シャープ/ジェニファー・グレイ /カート・エジアイアワン/ライザ・サドヴィ /, ダニエル・オレスケス

■第97回アカデミー賞助演男優賞受賞/第59回全米批評家協会賞助演男優賞・脚本賞受賞/第82回ゴールデングローブ賞助演男優賞受賞 ほか多数受賞

©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

【2025/5/17(土)~5/23(金)上映】

この旅の先に、僕らは未来を見つける

かつて兄弟同然に育ち、近年は疎遠となっていたいとこ同士、デヴィッドとベンジーが数年ぶりに再会した。亡くなった最愛の祖母を偲んで、彼女の故郷ポーランドを旅するためだ。参加した史跡ツアーでの新たなる出会い。旅の先々で揺れ動く感情。正反対の性格ながら、互いに求める“境地”は重なり合う、そんな2人がこの旅で得たものとは?

綴られたその“終点のないツアー”は、観る者の胸に深い余韻を残し、「その先」を想像させる――。

監督、脚本、製作、出演を兼ね、主人公デヴィッドに血を通わせたのは『ソーシャル・ネットワーク』で俳優としてブレイク、さらに満を持しての監督デビュー作『僕らの世界が交わるまで』がワールドワイドに高評価を受けたジェシー・アイゼンバーグ。今回、自らの家族のルーツを題材にして長編監督2作目に挑み、繊細でエモーショナル、かつ確かな演出力に一層磨きがかかった。

そして、W主演で従兄弟のベンジーに扮したのは「メディア王~華麗なる一族~」でゴールデン・グローブ賞とエミー賞どちらも手中に収め、本作でも神がかり的な演技を見せるキーラン・カルキン。加えてウィル・シャープ、ジェニファー・グレイら新旧注目の共演陣が極上のアンサンブルを披露、前作に引き続きエマ・ストーンがプロデューサーとして名を連ねているのも話題である。

時に軽やかに、時には荘厳に、全編を彩るのはポーランド出身のピアノの詩人、ショパンの名曲の数々。美しい景観が内包する影の歴史、人の笑顔の裏側にある“リアル・ペイン(本当の痛み)”とは…。

I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
I Like Movies

チャンドラー・レヴァック監督作品/2022年/カナダ/99分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 チャンドラー・レヴァック
■撮影 リコ・モラン
■編集 シモーン・スミス
■音楽 マレー・ライトバーン

■出演 アイザイア・レティネン/ロミーナ・ドゥーゴ/クリスタ・ブリッジス/パーシー・ハインズ・ホワイト

■第47回トロント国際映画祭正式出品/第23回バンクーバー映画批評家協会賞最優秀カナダ映画賞ほか4部門受賞

©2022 VHS Forever Inc. All Rights Reserved.

【2025/5/17(土)~5/23(金)上映】

映画がボクのすべてだった。

カナダの田舎町で暮らすローレンスは映画が生きがいの高校生。社交性がなく周囲の人々とうまく付き合えない彼の願いは、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズから映画を学ぶこと。唯一の友達マットと毎日つるみながらも、大学で生活を一新することを夢見ている。ローレンスは高額な学費を貯めるため、地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始め、そこで、かつて女優を目指していた店長アラナなどさまざまな人と出会い、不思議な友情を育む。しかし、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人を決定的に傷つけてしまい……。

史上最高のカナダ・コメディの一本に選出! 《トラブルメーカーな高校生》の映画愛の行方は――

2003年のカナダを舞台に、人間関係がうまくいかず、行く先々でトラブルを引き起こす映画好きな高校生を描いた青春コメディ『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』。本作は新星チャンドラー・レヴァックによる長編デビュー作で、自伝的要素を含んだ痛烈な脚本が、トロント国際映画祭を皮切りに熱狂的な評判を呼び、バンクーバー映画批評家協会賞で最優秀カナダ映画賞など4部門を受賞した。

主人公ローレンスを演じるのは、若手俳優でラッパーとしても活動するアイザイア・レティネン。ローレンスがアルバイトを始めるレンタルビデオ店の店長で、問題だらけの彼とふとしたことから【奇妙な友情】を育んでいくキーパーソン、アラナ役にはトロント出身の実力派ロミーナ・ドゥーゴ。

『ゴーストワールド』『レディ・バード』とも比較される本作は、どうしようもなくエキセントリックで切なく不器用な高校時代を描いた青春映画であるとともに、理想と現実の狭間でもがき苦しむ若者の普遍的な成長物語でもある。

【モーニング&レイトショー】ペパーミントソーダ 4K修復版
【Morning & Late Show】Peppermint Soda

ディアーヌ・キュリス監督作品/1977年/フランス/101分/DCP/PG12/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 ディアーヌ・キュリス
■製作 セルジュ・ラスキ
■撮影 フィリップ・ルースロ
■編集 ジョエル・ヴァン・エフェンテール
■音楽 イヴ・シモン

■出演 エレオノール・クラーワイン/オディール・ミシェル/アヌーク・フェルジャック/コリンヌ・ダクラ/コラリー・クレモン

■1977年カンヌ国際映画祭ルイ・デリュック賞受賞/1979年全米ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞外国語映画賞受賞

© 1977 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – ALEXANDRE FILMS-TF1 STUDIO

【2025/5/17(土)~5/23(金)上映】

1963年パリ。フレデリック15歳、アンヌ13歳。

厳格な女子校リセ・ジュール・フェリー校に通っているアンヌと姉のフレデリック。ある日アンヌは姉とボーイフレンドのマルクの間で交わされた手紙を盗み見し、早速クラスメートにはマルクが自分のボーイフレンドだと嘘をつく。授業はどこかうわの空でとにかく成績が悪く、テストの課題は姉の答案を丸写しして提出するも、あっさりばれて0点に。それでもアンヌは小遣いが安いことや学校のみんなが履いているストッキングを母親が買ってくれないことに腹を立て、さらには集団でカンニングしたり自信のない教師への冷酷な仕打ちをしたりととにかく問題ごとばかりを引き起こし、ついに教頭を決定的に怒らせてしまう…。

フランスの女子校に通う思春期の姉妹が、社会変革の時代に次々と起こる「初めて」の出来事を経験する1年を描く

フランス映画界において女性監督の先駆者として称えられているディアーヌ・キュリス監督が自身の少女時代の体験を基に、映画作りの経験が全くないなかで作り上げた『ペパーミントソーダ』は、鮮烈な輝きを放ちながらフランス映画界に登場し、1977年公開されるや300万人を動員し大ヒットを記録した。同年ルイ・デリュック賞を受賞。1979年には全米ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の外国語映画賞に輝いている。フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』の少女版とも評され、今なお青春映画の金字塔とされる伝説のフランス映画が47年の時を経て日本で公開された。

物語は1963 年のパリを舞台に、両親が離婚して母親と暮らす十代の姉妹の一年間を追ったもの。60年代フランスのリセに通う生徒たちの友情やいざこざ、教師たちの醜悪な実態、親たちの苦悩や愛情といった日常風景がコミカルで瑞々しいタッチで描かれる。タイトルは、妹がカフェで飲む大人向けの炭酸飲料「ペパーミントソーダ」を指している。姉妹が通う高校はパリ9区に実在するリセ・ジュール・フェリー校が舞台となっている。

主人公であるアンヌ役のエレオノール・クラーワインは本作品が映画デビュー作。その後アニー・ジラルドやナタリー・ドロンといった著名なスターとの共演を果たす。フレデリック役のオディール・ミシェルはブノワ・ジャコ監督イザベル・ユペール主演「Les ailes de la colombe」(81)に出演。「Vénus」(84)では主演を務めた。2008年にはオリヴィエ・アサイヤス監督の『夏時間の庭』に出演している。