【2025/4/5(土)~4/11(金)】『緑の光線』『友だちの恋人』 / 『木と市長と文化会館/または七つの偶然』『パリのランデブー』

パズー

春ですね~。日増しに陽の光が眩しくなって、緑の色が濃くなってくるこの季節。ロメールの映画が観たい! と思うのは私だけではないはず。そんな貴方に、珠玉の4本をお届けします。

バカンスに恋愛に、心軽やかなイメージのあるロメール作品ですが、1本1本を観てみると登場人物たちの表情はたいていの場合明るくありません。『緑の光線』の主人公デルフィーヌなんて、幸せを探し求めては孤独を感じ、めそめそと泣いてばかり。せっかくのバカンスなのに1ミリも楽しめず、優柔不断で自信喪失気味、そのくせ人とは違う自分にプライドを持っている、一言でいえばめんどくさい女の子です。デルフィーヌだけでなく、ロメールの映画では幸せで満たされているキャラクターを探すほうが実は難しいかもしれません。

それでもなぜ、ロメールの映画を観終わった後は不思議と前向きな気持ちになれるのでしょう。その理由は、映画のあちこちに散りばめられた「偶然」にあるように思います。物語が動くとき、そこにはいつも「偶然」があるのです。

『木と市長と文化会館/または七つの偶然』は7章に分かれていて、各章ごとに「もし、○○がしていなかったなら~」という、ある出来事が「起こらない」仮定の副題がついています(実際にはその仮定がすべて起こってしまうのですが)。大体がラブストーリーであるロメール作品のなかで、例外的に政治や社会問題を主題として扱っているこの作品。そういうテーマの物語ですら、ほとんどは「偶然」のたまものだ、というロメール哲学の神髄を強く感じられるのが面白いところです。

「偶然」―思ってもいなかった出会いや出来事―が与えてくれる驚きや喜び。「偶然」には説明がいらない、というか説明ができません。でも私たちはみんな、様々な局面で「偶然」が起こることを知っている。そして案外「偶然」によって人生の道のりが決まっていくことも。ロメールの映画を観ていると、もしかしたら「偶然」こそが、人間の営みにとって最も大事なものなのではないかと思わせてくれるのです。予想ができないからワクワクする。映画も人生も同じですね。

今回上映する作品、『パリのランデブー』『木と市長と文化会館/または七つの偶然』はシリーズものが多いロメールのフィルモグラフィーの中では珍しいアラカルト的な作品です。『友だちの恋人』『緑の光線』は<喜劇と格言劇>シリーズですが、特に『緑の光線』はシリーズの中では少しはみ出した自由さを感じる一作。一層心と頭を楽にして、映画の中で起こる「偶然」の数々に身をゆだねて、心地よく観ていただけると嬉しいです。映画が終わった後は、神田川沿いでお花見散歩でもして、そうしたら誰かとすれ違って…なんてことが起こるかも? なんちゃって。

友だちの恋人
My Girlfriend's Boyfriend

エリック・ロメール監督作品/1987年/フランス/103分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 ベルナール・リュティック
■音楽 ジャン=ルイ・ヴァレロ

■出演 エマニュエル・ショーレ/ソフィー・ルノワール/アンヌ=ロール・ムーリー/エリック・ヴィラール/フランソワ=エリック・ジェンドロン

© 1987 – LES FILMS DU LOSANGE- C.E.R. COMPAGNIE ERIC ROHMER

【2025/4/5(土)~4/11(金)】上映

“友だちの友だちは友だち”

パリ北西にある郊外の新都市セルジー=ポントワーズ。市の文化事業部に勤めるブランシュと、学生最後の夏休みを迎えたレアの二人は、たちまち意気投合した。レアは恋人のファビアンと一緒に住んでいるが、ファビアンの好きな水泳が嫌いだと言う。レアに水泳を教えることになったブランシュは、ある日プールでハンサムな青年に出会う。レアとファビアンの友人、アレクサンドルだ。たちまち恋におちるブランシュだが、恋に臆病な彼女は自分の感情を表に出すことができない。

いよいよヴァカンス。レアはファビアンに嘘をついて他の男たちと出かけてしまう。ひとり残されたファビアンは街で偶然ブランシュに出会い、彼女をウィンドサーフィンに誘う。ファビアンはブランシュに魅かれていくが、ブランシュはまだアレクサンドルのことが忘れられずにいた。

ヴァカンスの不安定な時を背景に、二組の男女の揺れる心理を描く、<喜劇と格言劇シリーズ>の第6作目

従来の<喜劇と格言劇シリーズ>では常に一人の女性を中心としてきたロメールだが、この作品ではブランシュとレアという二人の女性が登場する。さらに、その周囲にファビアンとアレクサンドルという二人の男性を配することで、常に、若い男女の出会いと恋愛を示してきた本シリーズに新しい可能性をもたらしている。交錯する物語、その様々な図式の変奏が、まるで万華鏡をのぞきこむときのように、見る者に楽しみとサスペンスを与えてくれる。

緑の光線
The Green Ray

エリック・ロメール監督作品/1986年/フランス/98分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■製作 マーガレット・メネゴス
■撮影 ソフィー・マンティニュー
■音楽 ジャン=ルイ・ヴァレロ

■出演 マリー・リヴィエール/リサ・エレディア/ヴァンサン・ゴーティエ/ベアトリス・ロマン

■ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・国際評論家賞受賞

© 1986 – LES FILMS DU LOSANGE- C.E.R. COMPAGNIE ERIC ROHMER

【2025/4/5(土)~4/11(金)】上映

"胸熱き恋はついに来ぬものか"

夏休み。秘書をしているデルフィーヌは、ヴァカンスにギリシャ旅行を約束していた女友達から突然キャンセルされてしまう。ひどく落ち込んだデルフィーヌを友達のフランソワーズがシェルブールに誘ってくれた。だが、海へ行っても食事に行ってもどこか尻込みして楽しめないデルフィーヌは、周囲から孤立していく自分に悲しくなり、早々とパリに引き返す。今度は山に行くがここも寂しく、日帰りで帰ってきてしまった。

三度目はピアリッツの海へやってきた。友達が別荘を貸してくれたが、一人で過ごすだけの退屈な滞在。そんな時デルフィーヌは、ジュール・ヴェルヌの小説「緑の光線」の話を耳にする。太陽が沈む直後の瞬間に放つ緑色の輝きは幸運のしるしなのだという…。

デルフィーヌは私かもしれません――エリック・ロメール

1986年ヴェネチア国際映画祭でみごとグランプリに輝いた『緑の光線』は、あふれるばかりの陽光と若い女性達の生き生きとした会話で描くナイーブで至福に満ちた映画だ。どこにでもありそうな恋愛を、磨き抜かれた台詞と凝視するかのようなカメラワークで描くロメール。<喜劇と格言劇シリーズ>の第5作目にあたる本作は、アルチュール・ランボーの後期の詩「最高の塔の歌」が引用されている。映画のタイトルは、ジューヌ・ヴェルヌの同名小説より。主人公デルフィーヌの夢見がちな性格や、運命の流れに身をゆだね自分に相応しい男性とめぐり会うという筋立てはこの小説からのものである。

パリのランデブー
Rendezvous in Paris

エリック・ロメール監督作品/1995年/フランス/100分/35mm/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ディアーヌ・バラティエ

■出演  クララ・ベラール/アントワーヌ・バズラー/オーロール・ローシェル/ベネディクト・ロワイヤン/セルジュ・レンコ

■1995年ロカルノ国際映画祭特別招待作品

© 1995 C.E.R. COMPAGNIE ERIC ROHMER

【2025/4/5(土)~4/11(金)】上映

パリの空の下で見つけた虹色恋愛日記

主人公のエステルはアサス大学に通う女子大生。大学生活も上々だし、それに彼女にはオラスという名の恋人がいる。何の不自由もない生活だったが、ある日リュクサンブール公園で偶然(?)出会った男友達から矢のような一言をささやかれる…。(第1話「7時のランデブー」より)

若い男女の恋愛感情を描く 3話構成のオムニバス

「時には思い違いもある。思わぬ出来事もよく起こる。」――こんなシャンソン風のメロディで始まる『パリのランデブー』は、パリの空の下で出会い、ほんろうされ、そして行き違う若い男女の恋愛感情を、3話構成のオムニバスでみずみずしく描く。監督自身の長年のキャリアによって培われた映画的直感とその洗練された感性が自在に噴出した作品。

第1話は、忘れかけていたパリの舗道の恋を思い出させてくれる「7時のランデブー」。第2話「パリのベンチ」では、美しいパリの公園を舞台にユーモアと女心を淡々と描写する。そして、第3話「母と子1907年」は、主人公の日常にさりげなく登場する女性によって、本来の目的から迂回させられるというロメール監督十八番のテーマが描かれる。登場人物たちのおしゃべりに耳を傾けながら歩くパリの街並みは、ちょっぴり懐かしい匂いと息遣いに満ちている。

木と市長と文化会館/または七つの偶然
The Tree, the Mayor and the Mediatheque

エリック・ロメール監督作品/1992年/フランス/111分/35mm/スタンダード

■監督・脚本 エリック・ロメール
■撮影 ディアーヌ・バラティエ
■編集 メアリー・スティーヴン
■音楽 セバスチャン・エルムス

■出演 パスカル・グレゴリー/アリエル・ドンバール/ファブリス・ルキーニ/クレマンティーヌ・アムルー/フランソワ=マリー・バニエ

© 1993 C.E.R. COMPAGNIE ERIC ROHMER

【2025/4/5(土)~4/11(金)】上映

あなたにとって、樹齢100年の木と文化会館とどちらが大切ですか?

パリの南西部ヴァンデ県サン=ジュイールの市長ジュリアンは、野原に、図書館、ビデオとCDライブラリー、野外劇場、プールを備えた巨大な文化会館を建設しようと考えていた。ところが、エコロジストの小学校教師マルクは、予定地に生えている樹齢100年の柳の木を大切にしようと訴えかけ猛反対。市長の恋人でパリっ子のベレニスも、農村の素朴な風景に感激し「市民会館なんて必要かしら」と言い出す。市長をインタビューしに来た女性ジャーナリストのブランディーヌのルポは、編集長の独断で、マルクを中心にしたエコロジー特集になってしまう。そんなある日、市長の娘ヴェガとマルクの娘ゾエが偶然出会って遊び仲間になり、ゾエは市長にある提案をしたところ、計画は思いもよらない方向に変わっていく…。

七つの偶然に導かれたユーモラスなドラマの傑作!

物語は「もし…」で始まる七つの章で成り立っている。ウィットに富んだセリフとドキュメンタリーとも思えるような生き生きとした演出で、現代の社会風景を見事に切り取った楽しいドラマである。監督生活30年にもわたるエリック・ロメールが、初めて時事や時代の空気に関係のある作品を取り上げ、主人公たちに田舎と都会、政治とエコロジーといったテーマをめぐってのそれぞれの意見を闘わせている。ただしこの映画の中で、政治はあくまでも議論のための背景であって、むしろ監督は、人間の意志を超えた進歩の生み出した結果や建築、都市計画について強い関心を寄せているという。

そして、『春のソナタ』『冬物語』と続いた《四季の物語》シリーズでは、恋人たちの情景が季節感あふれる映像に映し出されていたが、まだ夏と秋を残したシリーズの合間に撮影された本作品は、風刺の効いた政治喜劇としての味わいと、またフランスののどかな田園地帯の魅力を伝える瑞々しい映像も楽しみのひとつとなっている。