ミ・ナミ
思惑を隠すポンチョ、しかめ面でシガーをくわえる仕草、目深にかぶったハットからしたたり落ちる雨だれまでがキマッている。現代にあっても『荒野の用心棒』でレオーネ監督が確立させたアウトローは、未だに廃れることのないアイコニックな存在と言えます。もちろんスタイルのみならず、たとえば『夕陽のガンマン』で2人の賞金稼ぎが銃さばきだけや煙草の火のやり取りで互いをけん制、あるいは心を通わせたりする“言葉は要らない”佇まいには、幼い頃に母親に甘やかされたため同年代の友人が少なく、男同士の信頼関係に強く憧れていたとされているレオーネ監督の思いが垣間見えます。
一方、“レオーネの映画のスタイルがハリウッドの西部劇へのアプローチを変えた”と最大の賛辞を贈るイーストウッド監督が、そのエッセンスを受け継いだ『許されざる者』で登場するキャラクターは、『荒野の用心棒』などに登場したニヒルな無法者とは少々趣を異にしているように感じます。その名を耳にした誰もが震え上がるような殺し屋が、妻と子供のため(泥やブタの糞に塗れつつ)心を入れ替えて暮らしながらも、結局は同じような輩——まるで昔の自分の亡霊のような冷血漢のせいで、なすすべなく過去のありように引き戻されていく。一度は捨てた場所へ再び戻らなければならないという、後悔とセンチメンタルが混じった複雑な感情が表現されているようです。
今週の早稲田松竹では、セルジオ・レオーネ監督の〈ドル3部作〉『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』、クリント・イーストウッド監督『許されざる者』の上映です。レオーネから続く遺伝子をさらに昇華させたイーストウッドの西部劇を、今こそ再発見していただきたいです。
荒野の用心棒
A Fistful of Dollars
■監督 セルジオ・レオーネ
■脚本 セルジオ・レオーネ/ドゥッチオ・テッサリ/ヴィクトル・A・カテナ/ジェイム・コマス
■撮影 マッシモ・ダラマーノ
■音楽 エンニオ・モリコーネ
■出演 クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリアンネ・コッホ/ヨゼフ・エッガー
©1964 Unidis, S.A.R.L. All Rights Reserved.
【2024/11/2(土)~11/5(火)上映】
斬新な面白さでマカロニ・ジャンルを確立した痛快作
メキシコ国境の町に一人の流れ者がやって来た。ジョーと名乗るそのガンマンは、町を牛耳る二大勢力、悪徳保安官バクスター一家と情無用の悪党ロホ一家を争わせ、一挙に共倒れさせようと画策するが…。
黒澤時代劇『用心棒』を西部劇にリメイク。目深に被ったハット、無精ひげにシガーをくわえた正体不明のガンマンのキャラは、映画史上のアイコンとなり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』PART2と3にも引用された。今なおポンチョの着こなし宇宙一の座に揺るぎない、イーストウッドのクールな魅力が炸裂する第1弾。
夕陽のガンマン
For a Few Dollars More
■監督 セルジオ・レオーネ
■脚本 ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ /セルジオ・レオーネ
■撮影 マッシモ・ダラマーノ
■音楽 エンニオ・モリコーネ
■出演 クリント・イーストウッド/リー・ヴァン・クリーフ/ジャン・マリア・ヴォロンテ
©1965 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved
【2024/11/2(土)~11/5(火)上映】
二人の賞金稼ぎの共闘と友情が胸打つマカロニ代表作
大悪党エル・インディオが脱獄し、1万ドルの賞金が懸けられた。インディオ一家を追う2人の賞金稼ぎ、若きモンコとモーティマー大佐は商売敵だったが、一家全員の賞金山分けを条件に手を組むことに。しかし大佐には別の目的があった…。
前作・『荒野の用心棒』よりも一段と際立つイーストウッドのカッコ良さ、眼光鋭い新キャラ、リー・ヴァン・クリーフの堂々たる風格、悪役ヴォロンテの複雑怪奇な個性がドラマを膨らませ、面白さ倍増。フラッシュバックとパンフォーカス撮影を駆使したレオーネのスタイリッシュな演出も絶好調の第2弾。
続・夕陽のガンマン 地獄の決斗
The Good, the Bad and the Ugly
■監督 セルジオ・レオーネ
■脚本 ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ /フリオ・スカルペッリ/セルジオ・レオーネ
■撮影 トニーノ・デリ・コリ
■音楽 エンニオ・モリコーネ
■出演 クリント・イーストウッド/リー・ヴァン・クリーフ/イーライ・ウォラック
© 1966 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved.
【2024/11/2(土)~11/8(金)上映】
タランティーノ絶賛! アクションと笑い満載の超大作
南北戦争下、賞金稼ぎのブロンディとお尋ね者のトゥコは、いかさまを仕組んでは巻き上げた賞金を山分けにしていた。ある時、瀕死の南軍兵士から軍資金20 万ドルの隠し場所を訊き出した二人は、その地に向かう途中、運悪く北軍の捕虜に。そして捕虜収容所長のエンジェル・アイズもまた20万ドルの行方を追っていた…。
レオーネ版『戦場にかける橋』ともいうべき3時間に及ぶ超大作。“いい奴、悪い奴、汚い奴”というふざけた原題通りコメディ色が強まり、エキサイティングな見せ場もたっぷり。圧倒的ヴォリュームの第3弾。
許されざる者
Unforgiven
■監督・製作 クリント・イーストウッド
■脚本 デヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
■撮影 ジャック・N・グリーン
■編集 ジョエル・コックス
■音楽 レニー・ニーハウス
■出演 クリント・イーストウッド/ジーン・ハックマン/モーガン・フリーマン/リチャード・ハリス/ジェームズ・ウールヴェット/ソウル・ルビネック/フランセス・フィッシャー/アンナ・トムソン
■1992年アカデミー賞作品賞・助演男優賞(ジーン・ハックマン)・監督賞受賞/1992年全米批評家協会賞作品賞・助演男優賞(ジーン・ハックマン)・監督賞・脚本賞受賞ほか
© 1992 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
【2024/11/6(水)~8(金)上映】
彼は誓いを破り、再び銃を手にした。まだ幼い子供達との暮らしのために。
1880年、人里から遠く離れてひっそりと暮らす男がいた。彼の名は、ウィリアム・マニー。かつては列車強盗に冷酷な殺人と、あらゆる悪事を働いたその男も、今では2児の父として小さな家畜農場を営みながら過ごしていた。そんなマニーのもとを、キッドと名乗る1人の若者が訪ねて来る。賞金稼ぎを手伝えというキッドの言葉に、マニーは戸惑ったが、今のままでは子供たちを育てていくことさえままならない。彼は、二度と握らないと誓ったはずの銃を手にすることを決意する。
俳優、監督、そして音楽家。多彩な才能を発揮する、イーストウッドの最高傑作。
監督・製作・主演をつとめるクリント・イーストウッド。テーマ曲を自ら作曲するなど、俳優や監督以外にも多彩な才能を見せている彼にとって、この作品は36作目の出演にして16作目の監督作、そして10作目の西部劇となる。彼の映画人としてのキャリアと思いが織り込まれた入魂の作品として、今は亡きセルジオ・レオーネとドン・シーゲルの両監督に捧げられている。
脚本を執筆したのはSFの名作として未だに熱い支持のある『ブレードランナー』のデヴィッド・ウェッブ・ピープルズ。出演者には、保安官リトル・ビル・ダゲット役に『フレンチ・コネクション』『ミシシッピ・バーニング』などの個性派俳優ジーン・ハックマンや、『ミリオンダラー・ベイビー』のモーガン・フリーマン、『グラディエーター』のリチャード・ハリスといった、年齢的にも演技的にも成熟した名優たちが出演している。