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私が『ブレードランナー』を観る度に感動するのは、主人公デッカードと死闘を繰り広げるアンドロイドのレプリカントたちの姿です。人間に搾取される奴隷の役割から脱走し、プログラムされた短い命を延ばすために地球に降り立った彼らは、死への恐怖におびえながら、本能に駆り立てられるように懸命に生き残ろうとします。彼らの悲壮で人間以上に人間臭い姿は、人間であるはずなのに感情を喪失したように無慈悲なデッカードとは対照的です。デッカードには進歩的未来を信じられないまま、孤独に打ちひしがれる現代人の姿が重ねられています。

人造人間の方が人間的感情を持っているとしたら、本当の「人間らしさ」とは何なのか。その問いかけこそが、本作を単純なSFアクションとは一線を画するものにしています。製作当時の82年以上に世界が混沌として先が見えない現在、レプリカントたちの熱い生き様がますます鮮烈さを増していくのに比べ、デッカードはますます私たちの似姿になってしまっているのではないか。そんなペシミックな思いについ駆られてしまうのは私だけでしょうか?

一作目の監督リドリー・スコットが製作総指揮に回り、前作から30年後の未来を描いた続編が『ブレードランナー2049』です。単に前作を踏襲するだけではない、新鋭ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のヴィジョンは一作目と双璧をなすようなカッコよさであり、同時に一作目の哲学的なエッセンスもアップデートされた形で見事に引き継いでいます。

2049年にはかつてより技術が進み、レプリカントと人間との境界線はさらに曖昧になっています。体の機能や思考まで人間とほとんど変わらないのに差別され、狩りの対象になってしまうレプリカントたち。その不条理な状況に、現実に未だ根深く残る人種問題のメタファーを読み取るのは難しくありません。そして同時にその人造人間と人類との関係は、現実に日進月歩で進んでいるA.I技術の研究・開発が指し示す、ひとつの未来像の予見でもあります。私たちは完璧に構築されたスケールの大きい映像美に酔いながら、謎めいた迷宮世界をさすらう主人公 Kを通して、現実にある難題と来るべき未来への内省に誘われます。

ファンタスティックでありながら私たちの現実を照らし出す『ブレードランナー』シリーズ。その尽きぬ魅力に満ちた世界観はまさに私たちの聖典であり、熱狂的ファンを生み出し続ける真のカルトフィルムなのです。

(ルー)

ブレードランナー ファイナル・カット
Blade Runner: The Final Cut
(1982年・2007年 アメリカ 117分 35mm シネスコ) 2018年5月5日から5月11日まで上映 ■監督 リドリー・スコット
■原作 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(ハヤカワ文庫刊)
■脚本 ハンプトン・ファンチャー/デビッド・ウェッブ・ピープルズ
■撮影 ジョーダン・クローネンウェス
■特殊撮影効果 ダグラス・トランブル
■ビジュアル・フューチャリスト シド・ミード
■音楽 ヴァンゲリス

■出演 ハリソン・フォード/ショーン・ヤング/ルトガー・ハウアー/ダリル・ハンナ/ジョアンナ・キャシディ/エドワード・ジェームズ・オルモス

TM & © 2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

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2019年ロサンゼルス。超高層ビルと無数のネオンサインの中を車が空を飛び交う一方で、人口過密と酸性雨で荒廃した近未来。強靭な肉体と高い知能を併せ持ち、外見からは人間とは見分けが付かないレプリカント(人造人間)が4体、過酷なコロニー開墾労働から人間を殺して逃亡した。

処分が決定したこの4体の処刑のため、合法的にレプリカントを処刑する権限を持つ捜査官=「ブレードランナー」であるデッカードが追跡を開始するが、彼はレプリカントの製造元であるタイレル社の秘書で、美しく、不思議な魅力を持ったレーチェルと恋に落ちていく…。

フィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作に、SFとフィルム・ノワールを融合し、それまで存在しなかったジャンルを確立することで映画史に金字塔を打ち立てた、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』。映画の世界のみならず、アニメ、音楽、アート、ファッションなどあらゆるカルチャーに影響をもたらし今なお語り継がれている。この「ファイナル・カット版」は、リドリー自身の手により2007年に再編集されたバージョンである。

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ブレードランナー2049
Blade Runner 2049
(2017年 アメリカ 163分 35mm PG12 シネスコ)
2017年5月5日から5月11日まで上映 ■監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
■製作総指揮 リドリー・スコットほか
■脚本・原案 ハンプトン・ファンチャー
■脚本 マイケル・グリーン
■撮影 ロジャー・ディーキンス
■音楽 ベンジャミン・ウォルフィッシュ/ハンス・ジマー

■出演 ライアン・ゴズリング/ハリソン・フォード/アナ・デ・アルマス/シルヴィア・フークス/ロビン・ライト/マッケンジー・デイヴィス/カーラ・ジュリ/レニー・ジェームズ/デイヴ・バウティスタ/ジャレッド・レト

■第90回アカデミー賞最優秀撮影賞・最優秀視覚効果賞受賞

©2017 CTMG, Alcon and WBEI. All Rights Reserved.

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2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかないレプリカントが労働力として製造され、人間社会と危うい共存関係を保っていた。危険なレプリカントを取り締まる捜査官「ブレードランナー」であるKは、ある事件の捜査中に、レプリカント開発に力を注ぐウォレス社の【巨大な陰謀】を知ると共に、その闇を暴く鍵となる男にたどり着く。彼はかつて優秀なブレードランナーとして活躍していたが、ある女性レプリカントと共に忽然と姿を消し、30年間行方不明になっていた男、デッカードだった。いったい彼は何を知ってしまったのか? デッカードが命をかけて守り続けてきた〈秘密〉とは――。

革命的SF映画『ブレードランナー』のDNAを受け継いだ正統続編が、35年の時を経た今、描かれる。オリジナルの監督であるリドリー・スコットが製作総指揮を担当し、監督を『メッセージ』でアカデミー賞8部門にノミネートされ世界中の批評家や観客から絶賛されているドゥニ・ヴィルヌーヴが務めた。人間と<レプリカント>を分けるものは何か? 本当の“人間らしさ”とは何なのか? SF映画の枠組みを越えた、魂の深遠に踏み込んだ重厚なテーマが、圧倒的映像表現と音楽と共に観る者に問いかけられる!

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