あなたに、もう一度会いたかった。

ぽっけ

今年は家族や大事な人と離れて暮らしている人にとって、身動きがとりづらい夏になってしまいました。わたくしもお盆には帰省を考えていたのですが断念することにしました。戦後75周年でもあり、元々はオリンピックイヤーだった2020年のこの夏のことはいつまでも忘れない気がします。

早稲田松竹ではこの8月の始まりからの2週間『ラストレター』と『風の電話』の二本立てを上映します。どちらも当館で特集したことのある岩井俊二監督、諏訪敦彦監督の最新作です。

『四月物語』の松たか子さんや『Love Letter』の中山美穂さん、豊川悦司さん。『2/デュオ』『M/OTHER』の渡辺真起子さんや西島秀俊さん、三浦友和さん。今回特集する二人の監督の過去作に出演していた俳優たち。彼らの佇まいには、全くの別人を演じているにもかかわらず、つい映画の中に生きる彼らが演じた人物たちの記憶をも想い起されてしまいます。

何度もかけ違えられ、ずれて間違えていく(顔の見間違いや、手紙の差出人の偽装、受取人の間違え…etc)、まるで脱臼した推理小説のような『ラストレター』の物語。家族や友人、恋人たちによって幾重にも出会い、語られる未咲の物語は、その先々で出会う人々を通してまだ未咲の存在する世界が続いているかのような気にさせられます。

喪失という個人的で、交換不可能な体験。それを映画で描くことはある意味ではとても残酷なことです。その一瞬一瞬を生きる『風の電話』のハルの姿には、多くの災害や辛い出来事のなかで、普段では平気な顔をしていながらもどこかで傷つき、未だ癒されることのない自分を見つけられたような気がしました。

不在と向かい合うことで、そこから湧き出てくる新しい感情の芽吹きと出会うハルにも、網目状に広がっていく記憶の中に遍在していく未咲の面影にも、彼女たちを媒介する多くの人々の姿がともに描かれています。この二つの映画にもし彼女たちの他に主人公がいるとしたら、それは通常なら脇役ということになってしまうかもしれない背景にいる人々、記憶の運び手たちです。そしてそのことがこの二つの映画をよりいっそう心強いものにしていると思います。

ラストレター
Last Letter

岩井俊二監督作品/2020年/日本/121分/DCP/ビスタ

■監督・原作・脚本・編集 岩井俊二
■企画・プロデュース 川村元気
■撮影 神戸千木
■音楽 小林武史
■主題歌 森七菜「カエルノウタ」

■出演 松たか子/広瀬すず/庵野秀明/森七菜/豊川悦司/中山美穂/神木隆之介/福山雅治/小室等/水越けいこ/木内みどり/鈴木慶一

©2020「ラストレター」製作委員会

【2020年8月1日から8月14日まで上映】

君にまだずっと 恋してるって言ったら 信じますか?

裕里の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎と再会することに。

勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎と未咲、そして裕里の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。

いまだ読めずにいる“最後の手紙”に込められた、初恋の記憶――岩井俊二が紡ぐ珠玉のラブストーリー

『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『花とアリス』と数々の名作を世に送り出してきた映画監督・岩井俊二。20年以上ものキャリアの中で、巧みにその時代を切り取りながら様々な愛の形を表現し、いずれも熱狂的なファンを生み出してきた岩井が、初めて出身地である宮城を舞台に、手紙の行き違いをきっかけに始まったふたつの世代の男女と、それぞれの心の再生と成長を描く。

名匠・岩井俊二のもとに、松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、神木隆之介、福山雅治ら超豪華キャストが一堂に集結。中山美穂、豊川悦司も参加し、名作『Love Letter』を感じさせる世界観でありながら、全く新しいエンタテインメントを作り出した。

風の電話
The Phone of the Wind

諏訪敦彦監督作品/2020年/日本/139分/DCP/ビスタ

■監督 諏訪敦彦
■脚本 狗飼恭子/諏訪敦彦
■撮影 灰原隆裕
■編集 佐藤崇
■音楽 世武裕子

■出演 モトーラ世理奈/西島秀俊/西田敏行
/三浦友和/渡辺真起子/ 山本未來/占部房子/池津祥子/石橋けい/篠原篤/別府康子

■第70回ベルリン国際映画祭国際審査員特別賞受賞

©2020 映画「風の電話」製作委員会

【2020年8月1日から8月14日まで上映】

もう一度、話したい

17歳の高校生ハルは、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。

様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある<風の電話>へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に――。

東日本大震災から8年、広島から岩手の大槌町へ、傷ついた心を抱えた少女の旅が始まる――。

2011年に、岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが自宅の庭に設置した〈風の電話〉。死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから誕生したその電話は、「天国に繋がる電話」として人々に広まり、今も多くの人の来訪を受け入れている。

映画『風の電話』は、この電話をモチーフにした初めての映像作品である。難題と思われたこのテーマに挑戦したのは、『M/OTHER』『不完全な二人』の諏訪敦彦監督。重要な主人公ハルを、注目の女優モトーラ世理奈が演じ、西島秀俊、西田敏行、三浦友和ら日本を代表する名優たちが、彼女の熱演を温かく包む。

現場の空気感まで切り取り、ドキュメンタリーのように俳優たちの動きを映していく、諏訪監督ならではの手法で制作された本作。共に旅をしたような、唯一無二の映画体験が見る人の人生にそっと刻まれる。